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【特設】『ウェブ版 資産税通信』(配信・運営:税務研究会)

今月の資産税事例

売買契約中に売主に相続が発生した場合の譲渡所得の取得費加算 (19.2/4更新)
Q

 平成30年5月2日に被相続人甲に相続が開始しました。
 甲は、生前の平成29年9月13日の売買契約により土地Xを売買価額5,400万円で譲渡しています。同日に手付金500万円を受領しています。
 相続人乙がその土地Xを相続しました。
平成30年6月14日に相続人乙が残金4,900万円を受領して、土地Xを買主に引き渡しました。
 相続税の課税取扱いにおいて、土地の売買契約中において売主に相続が開始した場合、相続財産は土地ではなく、残代金請求権とされています。被相続人の生前に受領した手付金は、被相続人の預金等に化体していることから、取り立てて格別な取扱いを行いません。
 この場合、甲の生前に売買契約した土地Xの譲渡所得の申告については、その譲渡所得を甲の準確定申告において申告するのではなく、相続人乙の譲渡所得として申告をするとした場合、相続税の取得費加算の特例を適用して差し支えないか疑問があります。
 適用ができるとした場合、その計算の基礎に算入される金額は、土地Xの売買代金の総額であるのか、残代金請求権の金額のみであるのか、いずれが相当でしょうか。


A  譲渡所得の申告時期(課税時期)は、原則として、譲渡した資産を買主に引渡した時期とされていますが、納税者の選択により、その譲渡した資産に係る売買契約の効力が発生した日として課税申告があったときは、その申告を認める取扱いになっています(所得税基本通達36-12)。
 本件においては、資産の引渡基準により課税申告が行われるのであれば土地Xを相続して買主に引き渡した相続人乙がその申告を行うことになります。
ところで、相続人乙が取得した土地Xは、相続税の課税上土地Xそのものの価額で課税されるのではなく、売買契約中の土地Xを相続したことによりその実質は売買代金の残代金を請求することだけの機能を果たしていると考えられるので、相続税課税上残代金請求権として債権の価額で評価するのが相当と考えられています。
 一方、譲渡所得の課税においては、土地Xそのものの売買金額5,400万円が収入金額として取り扱われます。
 そして、その取得時期及び取得費は、被相続人甲の取得時期及び取得費が相続人乙に引き継がれます(所得税法第60条)。
 また、相続税の取得費加算の計算においては、その者の譲渡した資産の価額が相続税の課税価格の計算の基礎に算入された価額であることが要件になります(租税特別措置法施行令第25条の16第1項)。

相続人乙の取得費に加算する相続税額=A×{B÷(C+D)}
A=相続人乙の相続税額
B=相続人乙の相続税の課税価格の計算の基礎とされた金額(残代金請求権)
C=相続人乙の相続税の課税価格
D=相続人乙の相続税の債務控除額

 本件においては、土地Xの売買駄金の総額が相続税の課税価格の計算の基礎に算入されているのではなく、残代金請求権(5,400万円−500万円=4,900万円)がその計算の基礎に算入されているので、その4,900万円に応じた相続税額が取得費に加算されることになると考えます。


             (税理士懇話会・資産税研究会事例より)

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