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【特設】『ウェブ版 資産税通信』(配信・運営:税務研究会)

今月の資産税事例

包括遺贈により取得した不動産を売却したが相続人が遺留分減殺請求をする場合の譲渡所得の計算 (19.6/5更新)
Q

 被相続人は次の内容の公正証書遺言を遺して死亡しました。

1 遺言者の所有する不動産を換価処分し、換価代金から債務を弁済し、遺言執行費用及び不動産売却に係る税金、不動産売却に係る税務申告の税理士報酬を差し引いた残金を実弟Aに遺贈する。

2 遺言者は上記1以外の全ての財産を実弟Aに遺贈する。

 法定相続人は被相続人の子供二人ですが何れもこの遺言の内容を不満とし遺留分の減殺請求をする見込みです。
 実弟Aは不動産の売却に係る譲渡所得の申告をする必要があると思いますが、減殺請求に基づき金銭を相続人に支払った場合、その金額は譲渡所得の計算上どのように扱われるでしょうか。
 被相続人の財産は不動産以外にはほとんど無く、また、相続税の申告は不要となる見込みです。


A  ご質問の遺言の内容は、不動産の換価代金から債務を弁済し、遺言執行費用及び不動産売却に係る税金等を差し引いた残金と、当該不動産以外の全ての財産を実弟Aに遺贈するというものですから、遺産の全部をAに遺贈する包括遺贈と解するのが相当と考えます。

 そうすると、被相続人の相続開始の時に、不動産の所有権は包括受遺者であるAに移転しますから(民法990、896)、その不動産を換価したことによる譲渡所得は、Aに帰属し、ご意見のとおり、Aが譲渡所得の納税義務者になるものと考えます。

 そこで、後日、法定相続人から遺留分の減殺請求がなされると、Aから相続人に対して価額による弁償(金銭の支払い)が行われる場合がありますが(民法1041)、この金銭は、言わば代償分割の場合における代償金のようにAの相続税の課税価格を減少させるものですが(相法32@三)、譲渡所得の金額の計算上控除される譲渡資産の取得費及び譲渡に要した費用ではありませんから、Aの譲渡所得の計算上何ら考慮されないことになるものと考えます(所法33B)。

 なお、価額弁償金に見合う分の譲渡所得について、これを受け取る遺留分権利者(法定相続人)に帰属させることができないかという問題が残りますが、価額による弁償は、遺贈の目的物(換価する不動産)の返還に代えて行われるものであり(民法1041@)、遺留分権利者がその不動産の所有権を取得する場面がないことから、価額弁償を受けた遺留分権利者に譲渡所得を帰属させることはできないものと考えます。

             (税理士懇話会・資産税研究会事例より)

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