民法では、「他人の生命を侵害した者は、被害者の父母、配偶者及び子」に対して損害賠償をしなければならないと定めており、Aさんの交通事故死によって遺族が受ける損害賠償金は、遺族の固有の権利に基づいて支払いを受けるものであり、被相続人であるAさんの財産ではありませんから、相続税の対象とはなりません。
また、所得税法9条では、損害賠償金を非課税と定めていますから、Aさんの遺族が支払いを受けた損害賠償金3000万円は、相続税の対象とはならず、所得税も非課税とされます。
一方、逸失利益の1億円は、それが被相続人に対して支払われるべきものであり、その請求権を相続人が相続によって取得したものである場合には、逸失利益請求権は、被相続人の財産であり、相続税の対象となります。
事例の場合には、1億円は、被相続人が支払いを受けるべき逸失利益であり、その請求権が被相続人の相続財産を構成すると考えられます。
しかし、相続税法では、相続財産の価額は、相続発生時の「時価」とされています。逸失利益請求権が相続財産であったとしても相続発生時にはその額は確定していませんから、相続税の評価額はゼロとすべきものと考えます。
逸失利益請求権を見積もって相続財産に加算して相続税の申告を行い、その額が確定した時点で、更正の請求あるいは修正申告を行うという考えもないわけではありませんが、事例の場合とは異なって、逸失利益部分も含めた額が、損害賠償金だけの名目で加害者から支払われた場合には、全額が相続税の対象とはされないこととなり、事例のような場合にのみ不利益となってしまうことにもなりかねません。
こうした点からも、逸失利益請求権は相続財産に含まれるとしても、その評価額はゼロとすべきものと考えます。
(税理士懇話会・資産税研究会事例より)
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