ログアウト

【特設】『ウェブ版 資産税通信』(配信・運営:税務研究会)

今月の資産税事例

同居親族が負担した被相続人の医療費 (12.4/2更新)
Q    被相続人甲は、長女である乙およびその夫である丁と同居していましたが、5年前に体調を崩して入院し、その後退院することなく死亡しました。この5年間の入院費用は約600万円でしたが、この費用は、乙が400万円、丁が200万円負担しております。
   乙および丁が負担した甲の入院費用は、甲の相続税の申告に際して、甲の債務として相続税の課税価格から控除することができるでしょうか。

A    乙および丁による甲の入院費用の負担をどのように解するかによって、債務控除の対象となる場合とならない場合があると考えます。

1.債務に該当する場合
   病院に入院して治療を受ける場合には、入院の承諾や費用を負担するのは、一般的には、患者本人、ご照会の場合には被相続人である甲自身であると考えられます。したがって、入院費用は甲が負担すべきものですが、それを乙および丁が負担したことが、甲に代わって立替払いしたものである場合には、乙および丁は、甲に対して負担した入院費用相当額の返還請求を行うことができることになります。
   この場合には、入院費用相当額は甲の債務として債務控除の対象となります。
   甲が、乙と丁に対して、医療費の立替払いを依頼していた場合には、委任を受けて立替払いしたことになります。
   また、依頼を受けることなく立替払いした場合には、乙と丁は義務なくして甲の医療費の支払いを行ったことになります。これは甲の医療費の支払いという事務を処理したことになり(民法697条)、民法上は、事務管理者としての乙および丁が甲に対して入院費用を請求できることになっています(民法702条)。
   したがって、これらのいずれかに該当すれば、乙および丁が支払った甲の入院費用は、甲の相続税の計算上、債務控除の対象となります。

2.債務に該当しない場合
   乙および丁による甲の入院費用の支払いが、依頼を受けた立替払い、あるいは事務処理による支払いに当たらず、民法上の扶養義務の履行(民法877条)に該当する場合には、乙および丁は自らに支払義務のある甲の入院費用を支払ったことになり、甲に請求することはできません。そうなるとその費用は甲の債務ではなく、債務控除の対象とはならないことになります。
   しかし、乙等に扶養義務が生じるのは、甲に資力がなく、入院費用を負担することができない状態にあることが前提となります。甲に相続税が課税されるほどの資力があったのであれば、乙等が甲を経済的に援助する扶養義務を負っていたとはいえないと考えます。

3.医療費控除について
   乙および丁が、負担した甲の入院費用を所得税の医療費控除の対象としている場合には、同居親族の医療費を乙および丁が負担したことになり、甲に対して返還請求はできないことにもなります。
   このため、乙および丁が立て替えた甲の入院費用の返還を請求する(甲の相続税の計算において債務控除の対象とする)場合には、その請求する金額については、各年分の所得税について、医療費控除の対象としないこととする修正申告が必要になると考えます。

                       (税理士懇話会・資産税研究会事例より)

資産税研究会(税理士懇話会)のご案内へ
≪≪ 前に戻る税務研究会ホームページ