ログアウト

【特設】『ウェブ版 資産税通信』(配信・運営:税務研究会)

レクチャー”相続税実務への近道”

遺産分割(その2) (14.6/27更新)
1.遺産分割が相続税額に与える影響
(1)配偶者の相続税額の軽減
 配偶者の税額軽減は配偶者の取得した財産が配偶者の法定相続分相当額以下、あるいは1億6,000万円までであれば配偶者の相続税はかからないという特例制度である。
 たとえば、相続人は配偶者と長男の2人で、被相続人の遺産は5億円、これに対する相続税の総額、平成27年1月1日以降は1億5,210万円となる。
 このケースで配偶者が遺産の2分の1(2億5,000万円)を取得すると、配偶者の税額軽減額7,605万円により、配偶者の納付税額はゼロ、長男の納付税額は7,605万円になる。
 このように、配偶者の取得する財産額によっては、相続人全体で納める相続税を半分にすることも可能である。ただし、相続により取得した財産が配偶者自身の相続の時に残っていれば、その相続財産に反映されるので配偶者の相続の際に相続税の負担が重くなることもある。したがって、配偶者固有の財産も考慮して遺産分割により配偶者の取得する財産を決めた方が望ましい。

(2)小規模宅地等の課税価格の計算の特例
 小規模宅地等の課税価格の計算の特例は、宅地等の取得者ごとに適用の有無を判定する制度である。また、対象となる宅地等が複数ある場合にどの宅地等に適用したらよいかは、減額金額を比較して有利・不利を判定する必要がある。したがって、遺産分割の際は適用の有無及び減額金額等を考慮した方が望ましい。

2.遺産分割が納付方法に与える影響
 相続税は納期限までに金銭一括納付するのが原則である。しかし、金銭納付困難な事由があるなど一定の要件を満たした場合には、納付の特例制度である延納制度又は物納制度が認められる。したがって、延納制度又は物納制度を活用したい場合には、その納税者が金銭納付困難な事由を満たすように金融資産の相続を少なくするなど考慮する必要がある。

3.遺産分割協議が成立しないことによる影響
(1)相続税の申告期限までに遺産が未分割な場合の申告
 相続税の申告期限内に遺産分割協議が成立しない場合には、未分割にて相続税の申告をすることになる(相法55)。遺産分割協議の成立まで申告期限は待ってくれない。

(2)適用できない特例
 遺産が未分割の場合には、次のような特例の適用を受けることができない。したがって、相続税額を過大に納付することになり又は納税猶予(一定要件を満たせば免除)が受けられないことになる。
@ 配偶者の相続税額の軽減(相法19の2A)
A 小規模宅地等の課税価格の計算の特例(措法69の4C)
B 特定計画山林の課税価格の計算の特例(措法69の5B)
C 農地等の相続税の納税猶予(措法70の6C)
D 非上場株式等の相続税の納税猶予(措法70の7の2F)
E 山林の相続税の納税猶予(措法70の6の4E)

(3)申告期限から3年を経過する日までに遺産分割が決まった場合に適用できる特例
 申告期限から3年を経過する日までに遺産分割が決まった場合には、これらの特例を適用して税額計算をやり直し、相続税額の還付を受けることができる。
@ 配偶者の相続税額の軽減(相法19の2A)
A 小規模宅地等の課税価格の計算の特例(措法69の4C)
B 特定計画山林の課税価格の計算の特例(措法69の5B)

4.実務の留意点
 遺産分割でもめていると上記3に示すとおり相続税の特例制度が適用できないなどの不都合が生ずる。特に納税猶予制度は申告期限が適用期限であるため早めの遺産分割確定が求められる。したがって、これらのことは相続税申告の依頼を受けた早い段階で相続人等に説明した方がよい。また、当該相続が一次相続の場合には二次相続も考慮した遺産分割のアドバイスが求められる。


資産税研究会(税理士懇話会)のご案内へ
≪≪ 前に戻る税務研究会ホームページ