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【特設】『ウェブ版 資産税通信』(配信・運営:税務研究会)

レクチャー”相続税実務への近道”

贈与税の留意点(その2) (15.8/25更新)
1.相続税対策としての生前贈与
 相続税と贈与税は、一般的に贈与税の方が税率が高いといわれている。しかし、贈与は計画的に、何人でも、何度でもできるので、うまく活用すれば相続税よりも少ない税金で次の世代に財産を移すことができる。次に具体例で比較検討する。

<生前贈与対策をしないケース>
(夫の相続 一次相続)
・相続人は妻、長男、二男の3人
・課税財産(課税価格の合計額)は50,000万円
・遺産分割は妻25,000万円、長男12,500万円、二男12,500万円
∴ 妻は配偶者の税額軽減により納付税額はゼロ。
   長男と二男の納付税額の合計額は6,555万円となる。

(妻の相続 二次相続)
・相続人は長男、二男の2人
・課税財産(課税価格の合計額)は25,000万円
・遺産分割は長男12,500万円、二男12,500万円
∴ 長男と二男の納付税額の合計額は4,920万円となる。

(一次相続と二次相続の合計)
∴ 6,555万円+4,920万円=11,475万円


<対策1:長男と二男に110万円ずつ10年間贈与したケース>
@ 110万円にかかる贈与税は0円。したがって、10年間の贈与税の納付税額は0円。
A 当初50,000万円の課税財産が47,800万円(相続開始前3年以内の贈与はないものとする)
   となる。
  50,000万円−(110万円×2人×10年間)=47,800万円
B 一次相続で配偶者が2分の1を相続すると、妻は配偶者の税額軽減により納付税額はゼロ。
   長男と二男の納付税額の合計額は6,087.5万円となる。
C 二次相続における長男と二男の納付税額の合計額は4,510万円となる。
D 一次相続と二次相続の納付税額の合計額は10,597.5万円となる。
E 対策後の贈与税と相続税の合計額は10,597.5万円となる。

∴ 対策による税額軽減額は877.5万円となる。
  贈与前11,475万円−贈与後10,597.5万円=877.5万円


<対策2:長男と二男に250万円ずつ10年間贈与したケース>
@ 250万円にかかる贈与税は14万円。
   したがって、10年間の贈与税の納付税額は280万円となる。
   14万円×2人×10年間=280万円
A 当初50,000万円の課税財産が45,000万円(相続開始前3年以内の贈与はないものとする)
   となる。
   50,000万円−(250万円×2人×10年間)=45,000万円
B 一次相続で配偶者が2分の1を相続すると、妻は配偶者の税額軽減により納付税額はゼロ。
   長男と二男の納付税額の合計額は5,492.5万円となる。
C 二次相続における長男と二男の納付税額の合計額は4,090万円となる。
D 一次相続と二次相続の納付税額の合計額は9,582.5万円となる。
E 対策後の贈与税と相続税の合計額は9,862.5万円となる。
   贈与税280万円+相続税9,582.5万円=9,862.5万円

∴ 対策による税額軽減額は1,612.5万円となる。
   贈与前11,475万円−贈与後9,862.5万円=1,612.5万円

 上記の具体例では、贈与の金額を贈与税がかからない基礎控除110万円(対策1)とすると節税効果が小さいのに対して、贈与の金額を贈与税がかかる250万円(対策2)にした方が節税効果は大きくなる。
 贈与税は贈与金額が増えると急カーブで高くなる。したがって、贈与は@長期間にわたって、A数多くの相手に行うほうが税負担は少なく済む。しかし、90歳を超えた大資産家が2人の子供に110万円ずつ贈与しても大きな税額軽減にはならない。相続税の税率と贈与税の税率を比較検討しながら早い段階から計画的に行うことが大切である。

2.相続税対策としての生前贈与と民法との関係
 上手に活用すれば生前贈与は相続税対策になる。さらに近年の税制改正で各種贈与税の優遇税制が拡充・創設され、また、平成27年から相続税の基礎控除引き下げに伴う相続税の増税により生前贈与を進める資産家も増えている状況である。
 このような状況であるが生前贈与をアドバイスする税理士としては民法(特別受益・遺留分)との関係も認識し、注意しなければならないと思う。

(1)特別受益とは
 共同相続人の相続分を算定するには、通常は、被相続人が相続開始時に有した相続財産の価額に各相続人の指定相続分又は法定相続分を乗ずれば足りるが、共同相続人中に被相続人から相続分の前渡しとみられる生前贈与や遺贈を受けた者がある場合には、これらを考慮せずに相続分を計算したのでは、この特別受益者は二重の利得を得ることになって不公平な結果を生ずるのみならず、被相続人の意思に反することにもなるので、このような場合には、特別受益者は計算上特別受益を遺産に持ち戻すべきものとしているものである。

(2)遺留分とは
 相続財産は被相続人の財産であるから、本来は自由に処分することができる。すなわち、生前贈与や遺言によって誰にどの財産を与えようが全く自由なわけである。しかし、これをまったくの自由として許すと、被相続人の財産によって生計を維持していた相続人が生活に困ることになる。
 そこで兄弟姉妹以外の相続人に相続財産の一定割合の承継を保障したのが遺留分制度である。したがって、遺留分を有する相続人は、被相続人が相続財産の全部を第三者に遺贈しても遺留分減殺請求権を行使して財産を取り戻すことができる。



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