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【特設】『ウェブ版 資産税通信』(配信・運営:税務研究会)

レクチャー”相続税実務への近道”

贈与税の配偶者控除 (15.11/30更新)
1.受験と実務の違い
 受験において「贈与税の配偶者控除」の特例は、贈与税額を計算する問題若しくは相続税の課税財産として相続税を計算する問題又は法令上の規定を記述する理論問題で出題されると思われる。すなわち贈与を実行した場合の計算又は暗記した法令の記述を坦々とこなすことになる。
 一方、実務において贈与税の配偶者控除は実行に当たっての適用要件の判定や活用する場合の留意点を顧客に説明し、顧客の理解と了解を得たうえで実行する。その事前説明(提案)が重要である。

2.適用要件
    (1)婚姻期間が20年以上(婚姻の届出をした日から贈与の日までの期間)の配偶者からの贈与であること。
    (2)居住用不動産(居住用の土地・借地権、家屋、マンション)又は居住用不動産の購入のための金銭の贈与であること。
    (3)前年以前に同じ配偶者からこの特例を受けていないこと。
    (4)居住用不動産は、贈与を受けた年の翌年3月15日までに居住して、かつ、その後も居住する見込みであること。
    (5)居住用不動産の購入のための金銭の場合は、その金銭の贈与を受けた年の翌年3月15日までに居住用不動産の取得に充て、その取得した居住用不動産に3月15日までに居住して、かつ、その後も居住する見込みであること。
    (6)この特例は贈与税がゼロであっても、配偶者控除の適用を受ける旨及びその控除額の明細書を記載した贈与税の申告書に、その控除を受けようとする年の前年以前の各年分の贈与税につき適用を受けていない旨の記載があり、かつ、婚姻期間が20年以上である旨を証する書類等所定の書類(注)を添付して提出すること。
    贈与税の課税価格−配偶者控除額−基礎控除額=贈与税の課税される金額
    (最高2,000万円)(110万円)
    (注)特例措置の適用を受けるために必要な書類
      @ 贈与税申告書(第1表)
      A 贈与者との婚姻期間等を証明する書類(財産の贈与を受けた日から10日を経過した日以後に作成された受贈者の戸籍の謄本又は抄本)
      B 受贈者の戸籍の附票
      C 居住用不動産を取得したことを証明する書類(居住用不動産の登記事項証明書(登記簿謄本))
      D 居住用不動産を居住の用に供していることを証明する書類(居住用不動産を居住の用に供した日以後に作成された受贈者の住民票)
      ※ 取得した住宅用家屋の所在場所が、戸籍の附票に記載されている受贈者の住所と同じであれば、住民票は必要ない。

3.「贈与税の配偶者控除」の活用における留意点
    (1)金銭より居住用不動産(現物)の贈与が有利
     贈与税の配偶者控除の対象となる財産は、居住用不動産購入のための金銭か、または、居住用不動産(土地、建物、マンションなど)そのもの(現物)とされている。金銭を贈与した場合、その全額が相続税評価額となり贈与税の計算がされる。これに対し、居住用不動産は対象物が土地であれば路線価評価額(倍率地域は固定資産税評価額×倍率)、建物であれば固定資産税評価額を基に贈与税が計算される。通常の場合、路線価評価額や固定資産税評価額は取引時価より低額となる。したがって、一般的には、金銭贈与より、居住用不動産を現物で贈与する方が有利になる。なお、居住用不動産の贈与には、登記の際の登録免許税と登記費用及び不動産取得税が必要になるのでこの点も留意する必要がある。
    (2)居住用不動産の持分贈与も検討
     夫の単独名義である居住用不動産の持分を妻に贈与することも検討に値する。居住用不動産の相続税評価額のうち2,000万円部分(基礎控除額の110万円と合わせれば最高2,110万円)までは非課税で贈与できる。なお、居住用不動産の持分贈与にも登録免許税と登記費用及び不動産取得税が必要になる。
    (3)建物より土地の方が有利か?
     居住用の土地と居住用の建物の贈与の場合には、通常、土地の贈与の方が有利となる。それは、贈与したときの評価額が同じでも、その後、長期的にみれば建物はだんだん実質的な価値が下がるからである。
     ただし、その自宅を将来売却するような場合を考えると、建物も一部贈与(持分贈与)した方が有利となる。これは、居住用財産を譲渡した場合の3,000万円特別控除(所得税の特例規定)が夫、妻の両者で使えるからである。

4.相続税(生前贈与加算)との関係
 「相続開始前3年以内の贈与財産の相続税の課税価格の加算の規定」を適用する場合において、その加算する財産が贈与税の配偶者控除の適用を受けたものであるときは、配偶者控除相当額は相続税の課税価格の加算からは除外される。

<配偶者間贈与2,000万円を実行した場合の相続税の節税効果>
(相続人は配偶者と子供)
遺産相続
相続税の軽減額
子1人 子2人 子3人
5億円⇒4.8億円 450万円 425万円 375万円
10億円⇒9.8億円 500万円 475万円 450万円
20億円⇒19.8億円 550万円 525万円 525万円
※ 相続税の配偶者の税額軽減をフル活用するものとします。


<実務の留意点>
 この特例は同一配偶者間で1回しか適用できない制度のため有効な活用が望まれる。また、配偶者間の財産移転であるため二次相続のことも考慮する必要がある。

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