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【特設】『ウェブ版 資産税通信』(配信・運営:税務研究会)

レクチャー”相続税実務への近道”

結婚・子育て資金の一括贈与に係る贈与税の非課税措置 (16.3/29更新)
1.受験と実務の違い
 受験において「結婚・子育て資金の一括贈与に係る贈与税の非課税措置」の特例は、相続税の課税財産として相続税を計算する問題又は法令上の規定を記述する理論問題で出題されると思われる。すなわち贈与を実行した後、贈与者が死亡した場合の相続税の計算又は暗記した法令の記述を坦々とこなすことになる。
 一方、実務において結婚・子育て資金の一括贈与に係る贈与税の非課税措置は、この制度を利用する信託銀行等の金融機関で口座を開設し、その非課税申告の手続きも金融機関を通じて行うことになる。すなわち、税理士の申告実務が伴わない非課税制度である。
 したがって、税理士は本制度の内容や活用に当たってのメリット・デメリットなどを顧客に説明する。相談対応が主な実務となり、贈与者が死亡した時の相続税の申告実務を行うことになる(必要な場合)。

2.制度の概要
 受贈者(20歳以上50歳未満の者に限る)の結婚・子育て資金の支払に充てるためにその直系尊属が金銭等を拠出し、金融機関に信託等をした場合には、信託受益権の価額又は拠出された金銭等の額のうち受贈者1人につき1,000万円(結婚に際して支出する費用については300万円を限度)までの金額に相当する部分の価額については、平成27年4月1日から平成31年3月31日までの間に拠出されるものに限り、贈与税を課さないこととする。
(注)結婚・子育て資金とは、内閣総理大臣が定める次の金銭をいう。
@ 結婚に際して支出する婚礼(結婚披露を含む。)に要する費用、住居に要する費用及び引越に要する費用のうち一定のもの
A 妊娠に要する費用、出産に要する費用、子の医療費及び子の保育料のうち一定のもの

3.非課税申告
 受贈者は、本特例の適用を受けようとする旨等を記載した結婚・子育て資金非課税申告書を金融機関を経由し、受贈者の納税地の所轄税務署長に提出しなければならない。

4.払出しの確認等
 受贈者は、払い出した金銭を結婚・子育て資金の支払に充当したことを証する書類(領収書等)を金融機関に提出しなければならない。
 金融機関は、提出された書類により払い出された金銭が結婚・子育てに充当されたことを確認し、その確認した金額を記録するとともに、その書類及び記録を結婚・子育て資金を管理するための契約の終了の日の翌年3月15日後6年を経過する日まで保存しなければならない。

5.終了時(残額の取扱い)
(1)受贈者が50歳に達した場合
 非課税拠出額(金融機関に預けた金額)から結婚・子育て資金支出額(結婚・子育て資金の支払いに使った金額)を控除した残額については、受贈者が50歳に達した日に贈与があったものとして贈与税を課税する。
(2)受贈者が死亡した場合
 非課税拠出額(金融機関に預けた金額)から結婚・子育て資金支出額(結婚・子育て資金の支払いに使った金額)を控除した残額については、贈与税を課さない。

6.期間中に贈与者が死亡した場合の取扱い
(1)相続税
 信託等があった日から結婚・子育て資金管理契約の終了の日までの間に贈与者が死亡した場合には、その死亡の日における非課税拠出額(金融機関に預けた金額)から結婚・子育て資金支出額(結婚・子育て資金の支払いに使った金額)を控除した残額については、受贈者が贈与者から相続又は遺贈により取得したものとみなして、その贈与者の死亡に係る相続税の課税価格に加算する。この場合において、その残額に対応する相続税額については相続税額の2割加算の対象としないこととする。
(2)贈与税
 その残額は、結婚・子育て資金支出額(結婚・子育て資金の支払いに使った金額)とみなす。したがって、上記5(1)の課税はない。

7.実務の留意点
 本制度の中で税理士の申告実務が伴うのは、@終了時(受贈者が50歳に達した時など)の非課税拠出額(金融機関に預けた金額)から結婚・子育て資金支出額(結婚・子育て資金の支払いに使った金額)を控除した残額について贈与税申告を行うケースと、A贈与者死亡時の非課税拠出額(金融機関に預けた金額)から結婚・子育て資金支出額(結婚・子育て資金の支払いに使った金額)を控除した残額について相続税申告を行うケースだけである。
 しかし、本制度は顧客の相続対策(生前贈与対策)を検討する上で使える一つの選択肢である。また、結婚・子育て資金の非課税規定には本制度の他に扶養義務者からの生活費の贈与(その都度贈与)もある。
 顧客に活用ニーズがある場合には、一括贈与とその都度贈与の両者を説明し活用を検討することが望まれる。

8.利用状況
 信託協会によると、平成27年9月末までの結婚・子育て支援信託の契約件数(累計)は2,695件、信託財産設定額(累計)は63億円になっている。1件当たりの信託財産設定額は単純平均で2,337,662円となる。




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