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【特設】『ウェブ版 資産税通信』(配信・運営:税務研究会)

今月の資産税ニュース

気を付けたい出国税による課税 (15.10/2更新)
   平成27年度の税制改正により創設された出国税(国外転出をする場合の譲渡所得等の特例)。この出国税は、一定期間、日本で居住した後に、海外に移住して非居住者(国内に住所または居所を有しない)となる者のうち、出国時に対象資産(有価証券等)を1億円以上有している者に対しては、その未実現のキャピタルゲイン(含み益)に課税する制度。

 この制度の適用は、平成27年7月1日以後の国外転出、または同日以後の贈与、相続もしくは遺贈からで、既に制度の適用は開始されているが、事業承継にかかり会社株式を相続・贈与等した後に、後継者が海外に出国する場合に制度が影響する事例も指摘されており、海外に出国し非居住者となる際には気を付ける必要があると言えそうだ。

 そもそもこの制度は、OECDのBEPS(税源浸食と利益移転)プロジェクトの報告書で、出国時における未実現のキャピタルゲインに対する譲渡所得課税の特例が租税回避防止措置として位置付けられたのを受けて創設されている。租税条約上、株式等のキャピタルゲインは居住している国で課税されることから、キャピタルゲインに課税しない国へ出国した後に売却することによる課税逃れの防止が、制度の主な目的とされる。

 しかしながら、創設された出国税は、課税逃れを意図している、していないにかかわらず、出国して非居住者となる者が、対象資産(有価証券等)を1億円以上有しているのであれば適用される。

例えば、父親が社長で、息子がその会社を継いでおり、その会社が海外に事業を展開し、その息子が海外の事業部へ赴任するような場合に、息子がその会社株式を保有しており、保有している会社株式の評価額が1億円以上であるときは出国税の適用対象となり、息子の出国の際には、その含み益に課税される。このケースで、息子の海外の事業部への赴任は経営上のものであり、課税逃れの意図はないと考えられるが、このような場合でも制度は適用されることとなる。

 このように出国税については、制度の適用が思わぬところへ影響するケースも想定されるが、この制度には、納税猶予の規定が設けられており、出国が一時的なもので、出国期間中に資産売却を行うことなく帰国を予定しているのであれば、出国時に納税管理人の届出を行い、担保を提供すること等により、出国時特例分の納税猶予(原則5年、申請により最長10年)が可能とされている。よって、出国時に対象資産となる有価証券等を1億円以上有している場合には、納税猶予等の手続を検討することも肝要となろう。
 

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