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【特設】『ウェブ版 資産税通信』(配信・運営:税務研究会)

税理士先生の???・・・を即座に解消!専門家向けQ&A集

遺留分制度の趣旨と遺留分に関する民法特例の必要性 (2008.12.02更新)
Q  「中小企業における経営の承継の円滑化に関する法律」(経営承継円滑化法)には「遺留分に関する民法の特例制度」が規定されています。遺留分とはどのような制度で、事業承継に際して遺留分に関する民法特例が必要となった理由は何でしょうか。

A

(1)遺留分の意義と制度の趣旨(民法1028条、1031条)
 被相続人は、原則として生前贈与や遺言により自由に自分の財産を処分できます。しかし、相続人間の分配の衡平を図ったり、被相続人から財産を承継できるという相続人の期待感を保護したりする必要があることから、兄弟姉妹以外の相続人には、最低限の相続の権利として、一定割合の権利(遺留分)が保障されています。
 この遺留分を侵害する生前贈与や遺贈があった場合には、侵害された相続人が遺留分減殺請求を行うことができます。

(2)遺留分の額(民法第1028条)
 遺留分の額は、遺留分算定基礎財産の価額の2分の1(直系尊属のみが相続人である場合は、3分の1)に法定相続割合を乗じた金額

(3)遺留分算定基礎財産の価額(民法第1029条)
 この金額は、@被相続人が相続開始時に有した財産+A相続前1年以内の生前贈与+B特別受益−C債務の合計、で算定します。 Bの特別受益は、すべての遺贈、婚姻のための贈与(結納金、持参金など)や「生計の資本」として受けた贈与が該当します。相続税の課税価格を計算する場合に加算する生前贈与財産の価額は、3年以内分のみですが、遺留分算定基礎財産の価額の場合は、年数を問わないことに留意が必要です。また、「生計の資本」の範囲は、最終的には司法判断になりますが、相当に広く解釈されており、自社株式の贈与は、通常は特別受益に該当することになります。さらに、この生前贈与された財産は、贈与時の価額ではなく、相続開始時になお現状のままであるとした場合の価額(すなわち相続時点での評価額)となります。

(4)特別受益が事業承継を阻害する事例
【事例】

相続人は子A(事業承継者)と子B(事業承継者以外の者)です。10年前、父から子Aに自社株のすべてを生前贈与しました。贈与時の評価は0円でしたが、事業承継者であるAが努力した結果、父の相続時の評価額は8億円となりました。父の相続財産は、現金のみ2億円です。

【遺留分】
 相続税の課税価格は2億ですが、遺留分算定基礎財産の価額は10億円(=2億円+8億円)です。したがって、子A、子Bのいずれにとっても、遺留分の金額は、10億円×1/2(遺留分の割合)×1/2(法定相続割合)=2億5,000万円となります。
【遺留分の減殺の請求】
 仮に、遺言で現金2億円のすべてを子Bに相続させるとしていても、BはAに対して、さらに5,000万円の遺留分減殺請求をすることができます。なぜならば、Aが父から生前贈与を受けた財産は8億円であり、Bは2億円しか相続していないからです。Aが自社株式の価値の増加は自分の努力の結果であると主張しても、認められません。

(5)遺留分に関する民法の特例制度の必要性
 上記(4)の事例の場合、事業承継者の努力によって得られた自社株式の価値の増加が、事業承継者以外の者の遺留分の額を増大させることになっています。このような事態を避けるために、遺留分に関する民法の特例制度として、事業承継者に生前贈与された株式等については、遺留分算定基礎財産に算入しない措置(除外合意)や算入する金額を事前に固定する措置(固定合意)が創設されたのです。


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