改正電子帳簿保存法の宥恕期間が終了し、本年1月から電子取引にかかる電子データ保存が完全義務化された。しかし、企業によって対応レベルに差が生じているのが実情だ。今回は、電帳法対応クラウドサービス「快速サーチャーGX」を展開する株式会社インテックの吉岡哲氏、山岸敏康氏、佐藤秀樹氏と、企業向けにバックオフィス支援のDXコンサルティングを行う辻・本郷 ITコンサルティング株式会社の菊池典明氏、松山考志氏に、電帳法の対応に向き合う各企業の現在地とケースごとの解決策について対談を行った。
1992年、株式会社インテックに入社。開発、スタッフ部門を経験し、1998年よりサービス部門のセールスとなり自社商品のマーケティング、企画、事業推進、チャネルビジネスを担当。その後国内、欧米企業との協業による国内でのライセンスビジネス、セキュリティサービス企画、ラインスタッフ経験を経て、2020年より電子帳票システム「快速サーチャーGX」、ログ管理製品、ID管理・認証製品を開発・運用する部門の責任者として従事、現在に至る。
吉岡:まずは、電子帳簿保存法の改正にともなって、各企業が対応すべき内容について簡単に伺いたいと思います。
菊池:措置が設けられ、従来と同様に電子取引を紙で保存することが容認されていました。この宥恕期間が終わり、2024年1月1日から電子取引にかかる電子データ保存が完全義務化されています。
ここで最初のポイントになるのが、改正された電子帳簿保存法(以下「電帳法」)には大きく3つの区分がある点です。「電子帳簿等の保存」「スキャナ保存」「電子取引」という区分があり、このうち電子データでの保存が義務づけられているのは電子取引のみです。例えば、何らかの取引を行ったときに、電子メールの添付ファイルで請求書が届いた、あるいはクラウドサービスで電子請求書や電子領収書を受領した、ホームページ上から帳票をダウンロードしたような場合、電子取引に該当します。
こうした電子取引については、原則として紙による保存が認められず、電子データで保存しなければなりません。さらに、電子データで保存する際に2つの要件が設けられており、「真実性の要件」としてタイムスタンプや事務処理規程の作成が、「可視性の要件」として検索要件の確保などが求められます。つまり、事務処理規程などを整えたうえで、保存した電子データを日付、金額、取引先の3つの情報で検索ができるようにしなければならないのです。
吉岡:ありがとうございます。このルールに適切に対応しないと、どのようなリスクが想定されるのでしょうか。
菊池:最大のリスクは、青色申告の承認を取り消されるおそれがある点で、欠損金の繰越控除ができなくなるなどの問題に発展する可能性があります。さらには、電子取引を証明する情報が適切に保存されていないわけですから、その取引が損金として認められなくなるといったことも考えられます。
もうひとつ、ビジネス面でもリスクがあると考えています。昨年10月にスタートしたインボイス制度によって、電子請求書の発行を求める企業が増えていますから、取引先に対して電子データではなく紙でのやりとりを求めた場合、敬遠されるリスクがあります。電帳法対応の遅れは、ビジネスチャンスの損失に繋がりかねません。
2001年、株式会社インテックに入社。自社開発製品である「快速サーチャー」シリーズの営業を担当。金融、サービス、流通業や自治体等に、帳票の管理効率化に関わる導入提案を行う。2010年にリリースした電子帳票システム「快速サーチャーGX」には、企画から携わり、販売推進マネージャーを担当、現在に至る。
吉岡:それはたしかに問題ですね。しかし、現実には電帳法のことは理解しているけども対応が難しいと考える企業が少なくないように見受けられます。松山さんは、電帳法への対応について企業から多くの相談を受けられていると思いますが、電帳法への対応が進まない背景は何なのでしょうか?
松山:中堅以上の企業においては、経営層の理解不足が大きな要因だと思います。電帳法対応には予算付けが必要になりますが、経営陣がその重要性を十分に認識していないために、十分な予算が付かず、具体的な対策に着手できていないケースが目立ちます。
一方、中小企業では大きく2つの要因があると考えています。1つはマンパワー不足で、電帳法対応によって現場の業務負担が更に増えることを懸念しているようです。もう1つは、コストに対する理解不足です。大企業ほどコンプライアンスの意識が高くない中小企業の場合、電帳法対応のために費用を捻出することに二の足を踏んでいるのが実情だと思います。
吉岡:なるほど。私どもインテックの快速サーチャーGXをご利用いただいている大企業のお客様からも、日々さまざまなご相談が寄せられています。山岸さんは、インテックの営業担当としてお客様と接する機会が多いですが、電帳法に対応するうえでどのような点がハードルになっていると思いますか?
山岸:やはり、電子化の対象となる書類の選定や、電子化の具体的な手順の決定に時間がかかるケースが多いですね。大企業であれば、電帳法への対応に合わせて社内の規程類の改訂も必要になるので、その範囲や内容の検討にも手間取られているお客様が少なくありません。
吉岡:快速サーチャーGXの製品開発を担当している佐藤さんにもお聞きしますが、お客様からどういったご相談やご要望が多いですか?
佐藤:やはり1番多くご要望いただくのが、「電帳法対応によって増える業務負荷を最小限に抑えたい」ということです。また、イニシャルコストだけでなく、その後長きにわたってかかる運用コストの増加を懸念する声も多かったです。
吉岡:企業によっていろんな背景があるので、まだ電帳法の対応に着手できていない企業もありますよね。そのような企業から菊池さんが相談を受けた時、最初の1歩として何を提案されるのかを教えてください。
菊池:まずは、令和5年度の改正で設けられた猶予措置を適用することから始めるのがよいかと思います。この猶予措置は、一定の条件のもとで、タイムスタンプなどの要件を満たさなくとも電子取引の電子データ保存を認めてくれるというものです。
ただし、この猶予措置を使うには、「相当の理由」が必要なので、単に対応が面倒というだけでは認められません。また、電子データ保存に加えて紙での保存も求められるため、かえって事務負担が増加する懸念もあります。そのため、できる限り早期に本来の保存要件に従った運用体制を構築して、電子データの保存だけで完結できるようにするのが望ましいと考えます。
2007年、株式会社インテックに入社。開発チームのリーダーとして自社開発製品である「快速サーチャー」シリーズの企画・開発に携わり、お客様の帳票活用・電子帳簿保存法対応のプロジェクトを担当。2023年より、電子帳票システム「快速サーチャーGX」のサービスマネージャーとして従事、現在に至る。
吉岡:では続いて、実際に電帳法への対応を進めている企業の話に移っていきたいと思います。菊池さん、松山さんは、数々のお客様の電帳法対応の支援をされてきたと思いますが、今現場で起きている課題について、どのようなことを耳にされていますか?
菊池:電子取引のデータ保存は、システムを活用していれば検索要件などを自動的に満たすことも可能です。ただ、システムに頼らず、手作業で索引簿を作ったり、ファイル名をつけたりして対応されている場合、運用ルールの遵守確認が非常に手間というお声をよく聞きますね。
松山:そうした自己チェックが難しいという声は私もよく聞きます。とくに中小企業の場合、きちんと社内規程を整備して電帳法のルールに則った運用を進めていても、経理部門のみの対応にとどまっていて、営業関連の書類の電子化といった全社的な取り組みが遅れがちです。
吉岡:重ねてお聞きしたいのですが、「電帳法に対応しています」という企業であっても、実は法律の解釈が間違えていたり、担当者のスキル不足によるミスが起きたりというケースがあるように思いますが、いかがでしょう。
菊池:1番多かったのは、あたかも電子データ保存の義務化があらゆる書類におよぶと勘違いされているケースです。冒頭で触れた通り、電子取引データの保存のみが義務化の対象であり、決算書などの電子帳簿等保存や、紙で受け取った書類のスキャナ保存は任意となっています。
逆に、保存対象となる書類を狭く捉えているケースも散見されます。電子取引に関するデータは基本的にすべて電子データ保存が必要なのですが、請求書や領収書だけを保存すればよいと考えている企業が少なくありません。法人税法上、電子データ保存が必要とされる書類は、電子取引に関連して発生するほとんど全ての書類ですから、対応に漏れが起きてしまっているのです。
吉岡:私が聞いた話では、「ファイルサーバーやクラウドストレージに電子データを保存しておけば電帳法は大丈夫」と判断されている企業様もいらっしゃったと記憶しています。山岸さん、実際はどうだったでしょう?
山岸:お客様の規模によって状況は異なりますが、電子取引データがそれほど大量ではない、あるいは保存対象の書類を法施行までに絞り切れないお客様の中には、「とりあえずファイルサーバーで管理する」という判断をされたケースが少なくありませんでした。
これはシステム導入に踏み切る前の暫定的な対応としては一つの選択肢だと思いますが、やはりファイル名の命名規則などが統一されておらず、属人的な運用に陥るリスクが大きいと感じました。ファイル名の付け方を誤ると、検索性が損なわれてしまい、「電帳法に対応したつもりが実はできていない」ということになってしまいます。
税理士。2012年辻・本郷 税理士法人大阪支部に入社。株式会社のほか医療法人、社会福祉法人、公益法人等の税務・会計に関する業務を中心に、法人の事業承継や個人の相続コンサルティングも担当。2015年より経営企画室に所属し、クライアントのクラウド会計の導入やDXの推進などに携わる。2021年よりDX事業推進室担当。同年12月辻・本郷 ITコンサルティング株式会社 取締役就任。多くのセミナー講師も務める。
吉岡:電帳法に対応すべく新たにシステムを導入した企業の一部で、実際の業務と合わないという問題が起きているといった話も聞きます。こういった場合はシステムのリプレイス(入れ替え)も選択肢のひとつであると思いますが、リプレイスを行う際に注意すべきポイントなどを教えてください。
佐藤:今年1月のスタートに合わせて急いでシステム導入したものの、運用がうまくいかず、結果的に電帳法に対応できていないケースが起きているようですね。そうした場合、導入後もきちんと電帳法に対応し続けられるシステムへのリプレイスを考えることが重要です。
山岸:できれば、電帳法対応の要件を満たしていることを証明する「JIIMA認証」を受けたシステムを導入するのが望ましいです。JIIMA認証のシステムを使わず、ファイルの命名規則の工夫など自前で対応をしているケースが少なくないのですが、導入時点はうまく運用されていたとしても、その後の懸念が残ります。複数年に渡る継続的な運用の視点からは、やはりJIIMA認証を受けていることを確認しておいたほうがいいでしょう。
吉岡:インテックが開発した電子帳票システム「快速サーチャーGX」は、JIIMA認証を受けており、電帳法に完全対応しています。電子取引のデータをクラウドサービスにアップロードすると、いつでもどこからでも閲覧や検索することができ、データを探す手間の軽減にもつながりますから、業務効率化にも役立つと自負しています。今後も機能を向上させていく予定ですが、開発のロードマップを説明してもらえますか?
佐藤:はい。直近では5月にAIを活用したOCR機能をリリースしました。これにより、受領した請求書などのPDFデータから必要情報を検索キー情報として自動抽出し、データ保存できるようになります。入力内容に不備があった場合のみ利用者に確認を促す仕組みも設けており、目視確認の手間を最小限に抑えられます。
ITコーディネータ。情報セキュリティ関連のベンダー数社に従事後、2015年より辻・本郷 ITコンサルティング株式会社に入社。中小企業、中堅企業を中心に、財務会計・人事給与等のバックオフィスシステムの販売に携わる。2016年頃より電子帳簿保存法対応コンサルティング業務を開始し、IT戦略の策定、ITを活用した業務標準化や効率化を目的とした業務改善支援を行う。
また、APIを介した外部サービスとの連携も更に強化していく方針です。単に電子取引の電子データを貯めることをゴールと考えるともったいないので、例えばメールなど外部サービスとの連携によるアウトプットにも注力していきたいです。
菊池:人材不足の今、バックオフィスの属人化は企業にとって大きな問題となっています。そうしたとき、しっかりと電帳法に対応したシステムを組み込んでおけば、たとえ従業員の理解度が低くても、要件に適った電子データ保存が可能になるでしょう。さらに外部サービスと連携できれば、ますます属人化の問題を解消しやすくなると思います。
私たち辻・本郷 ITコンサルティングでは、お客様の意向を踏まえて電帳法対応に特化したシステムをご提案するケースと、現行業務のフロー、課題、将来像などを可視化した上で、最適なシステム選定と導入計画まで立案するケースの2つがあります。いずれにしろ、単なるシステム導入支援ではなく、業務プロセス全体の改善にお役に立ちたいと考えています。
吉岡:業務プロセス全体を俯瞰して考え直すことは重要ですね。今までのDX関連サービスの多くは、既存の業務をデジタルで置き換えただけの、いわばアナログの延長線上のものが中心でしたが、これからはAIの活用によって、業務プロセス全体が抜本的に変わっていくでしょう。システムを正しく選択し、AIと連携することで、煩雑な手作業から解放され、より付加価値の高い仕事にシフトできるはずです。私どもインテックとしても、快速サーチャーGXを起点としたデジタルエコシステムを充実させ、電帳法対応のみならず、企業の幅広い課題を解決していきたいと思います。
※JIIMA認証とは、公益社団法人日本文書情報マネジメント協会(JIIMA)が、電子帳簿保存法で規定されている要件を満たしているかどうかを示す認証のことです。
お客様の経営戦略に沿った情報化戦略の立案からシステムの企画、開発、アウトソーシング、サービス提供、運用保守まで、IT分野において幅広く事業を展開しています。インテックは、1964年の創業以来培ってきた技術力をもとに、AI、RPA等のデジタル技術の活用や、新たな市場の創造にも積極的に挑戦しています。常にオープンな姿勢で、人、企業、社会を技術でつなぎ、自らも変革しながら「豊かなデジタル社会の一翼を担う」企業としてお客様に新しい価値を提供してまいります。
[コーポレートサイト]
電子帳票システム(快速サーチャーGX)|商品・サービス|インテック (intec.co.jp)
辻・本郷 ITコンサルティングは、辻・本郷 税理士法人のグループ会社で、ITを活用したビジネス・コンサルティング(IT戦略、BPR、業務改善、情報セキュリティ管理等)、経理・財務システムの評価、分析、構築、ERP、CRMシステム導入、構築、運用管理のIT支援等を行っております。
[コーポレートサイト]
辻・本郷 ITコンサルティング株式会社|無数の選択肢から、より良い決断に導く (ht-itc.jp)
(前列左から)株式会社インテック 吉岡 哲さん、辻・本郷 ITコンサルティング株式会社 菊池 典明さん
(後列左から)株式会社インテック 佐藤 秀樹さん、山岸 敏康さん、辻・本郷 ITコンサルティング株式会社 松山 考志さん