更新日:2022年9月2日
動産
(土地に付着した物)
1 土地の定着物は不動産であるが、仮植中の草木、小規模の工事で土地に固定されたもの、例えば、使用中の動揺を防ぐためボルト、くぎ、スパイク等で固定しただけの機械類等単に土地に付着しているだけのものは、定着物とはいえないから、動産として差し押さえる(大正10.8.10大判、昭和4.10.19大判参照)。
(未完成の建物)
2 建物は不動産であるが、その使用の目的に応じて使用可能な程度に完成していなければ建物とはいえないから、例えば、木材を組み立てて地上に定着させ、屋根をふきあげただけのもの等は、動産として差し押さえる(大正15.2.22大判参照)。
なお、建物が完成した場合には、改めて不動産としての差押えの手続をとる必要がある。
(未分離の果実等)
3 未分離の果実等は、土地の定着物である樹木と一体をなすものであって、本来動産ではないが、動産として取引されるもの(おおむね1月以内に収穫することが確実であるもの。執行法第122条第1項参照)は、独立した動産として差し押さえることができる(大正9.5.5大判参照)。
(登記されない船舶)
4
(登録のない航空機等)
5 (注) 滑空機及び飛行船その他航空法施行令で定める航空の用に供することができる機器は、登録をしてもその登録は第三者に対する対抗要件ではなく(航空法第2条第1項、第3条の3参照)、
(登録のない自動車)
6
(登記のない建設機械)
7 所有権保存登記のない建設機械は、記号の打刻の有無にかかわらず、
また、建設機械を動産として差し押さえている場合には、所有権保存の登記がされても差押債権者に対しては効力を生じない(建設機械抵当法第3条第2項)から、動産として滞納処分の続行をすることができる。
(外国通貨)
8 外国通貨(本邦通貨以外の通貨。外国為替及び外国貿易法第6条第1項第4号)は、動産として差し押さえる。この場合において、徴収職員は、速やかに、差し押さえた外国通貨を本邦通貨と両替した上、金銭を差し押さえた場合と同様に処理する(23、24参照)。 (注) 本邦通貨とは、日本円を単位とする通貨をいう(外国為替及び外国貿易法第6条第1項第3号)。
(従物である動産)
9 従物である動産(例えば、建物に備え付けられた畳、建具、冷暖房器、空調器等。昭和55.1.28東京地判参照)の差押えについては、次のことに留意する。 なお、雨戸、建具、入口の戸扉その他建物の内外を遮断する建具類は、これらが建物に備え付けられた後は建物の一部を構成し、従物ではないから、その取外しの難易にかかわらず、独立した動産として差し押さえることができない(昭和5.12.18大判参照)。
(工場抵当との関係)
10 工場抵当法による工場抵当(工場財団を組成しない工場抵当)の目的となっている土地又は建物に備え付けられている機械、器具その他工場の用に供されている動産(以下10において「備付物」という。)については、次のことに留意する。
(財団に属する動産)
11 工場財団、鉱業財団、漁業財団、道路交通事業財団、港湾運送事業財団、鉄道財団、軌道財団、運河財団又は観光施設財団に属する動産は、これらの財団が1個の財産とみなされているから、個々の動産として差し押さえることができない。ただし、抵当権者の同意を得て分離した動産については、この限りでない(工場抵当法第14条、第15条、鉱業抵当法第3条、漁業財団抵当法第6条、道路交通事業抵当法第19条、港湾運送事業法第26条、鉄道抵当法第20条、軌道ノ抵当ニ関スル法律第1条、運河法第13条、観光施設財団抵当法第11条)。
(貨物引換証等の発行されている物品)
12 貨物引換証、倉庫証券又は船荷証券が発行されている物品については、動産として差し押さえることはできず、これらの証券を有価証券として差し押さえるものとする(
有価証券
(意義)
13 (注) 上記の場合には、債権の差押えを行い、上記の証拠証券又は免責証券は債権証書として取り上げる( (注) 上記の金券は、動産の差押手続に従って差し押さえる。
(有価証券の種類)
14 「有価証券」には、手形、小切手、国債証券、地方債証券、社債券、株券(株主会員制によるゴルフ会員権に係るものを含む。)、出資証券、信託の受益証券(信託法第185条第1項参照)、投資信託又は貸付信託の無記名受益証券、特定目的信託の受益証券(資産の流動化に関する法律第222条参照)、抵当証券(抵当証券法第1条、第12条参照)、倉庫証券、貨物引換証( (注)1 「社債券」とは、 2 「出資証券」とは、日本銀行の出資証券(日本銀行法第9条)、独立行政法人日本原子力研究開発機構の出資証券(独立行政法人日本原子力研究開発機構法第7条)、協同組織金融機関の優先出資証券(協同組織金融機関の優先出資に関する法律第29条第2項)、特定目的会社の優先出資証券(資産の流動化に関する法律第48条)等をいう。 3 投資信託又は貸付信託の受益証券のうち記名式のものは、有価証券ではなく証拠証券である( 4 「倉庫証券」には、預り証券、質入証券及び倉荷証券の3種があるが、なお次のことに留意する。
なお、持分会社の出資に関する証券は、有価証券ではなく証拠証券である。
(権利株等)
15 株式の引受けによる権利(いわゆる権利株)を表す株式の申込証拠金領収証、株券発行前の株式を表す株式払込金領収証及び新株の引受権を表す割当通知書は、株券の受領のための委任状及び株式の譲渡を証する書面(譲渡のための委任状を含む。)が添付されているときは、株券に準じて取り扱うものとする(昭和26.2.9東京地判、昭和27.1.28東京地判参照)。
差押手続
(占有による差押え)
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(差押調書の作成等)
18 徴収職員が動産又は有価証券を差し押さえたときは、差押調書を作成し、その謄本を滞納者に交付しなければならない(
(未完成の手形等)
19 未完成の手形、小切手その他の金銭の支払を目的とする有価証券でその権利の行使のため定められた期間内に引受け若しくは支払のための提示又は支払の請求を要するものを差し押さえた場合は、直ちに滞納者に対し、当該未完成の手形等に記載すべき事項を補充させるものとする(執行規則第103条第2項参照)。
(有価証券の保管)
20 差し押さえた有価証券(物品の給付を目的とする権利を表彰する船荷証券、倉庫証券及び貨物引換証等を除く。)は、政府保管有価証券取扱規程第2条《政府保管有価証券の寄託》の規定により、原則として日本銀行に寄託するものとするが、近い将来において換価をする予定のもの又は (注) 税務署長は、船荷証券、倉庫証券及び貨物引換証等の物品の給付を目的とする権利を表彰する有価証券を保管するに当たっては、保管上の必要に応じ、貸金庫等を利用するものとする。
差押えの効力
21 動産又は有価証券の差押えは、徴収職員がこれらの財産を占有した時にその効力を生ずる。したがって、占有を欠くとき、例えば、差押調書の作成又は差押調書の謄本の交付だけをしたとき等の場合には、差押えの効力は生じない。
なお、
金銭の差押え
(金銭)
22 (注)1 上記の「通貨」とは、法律上強制通用力を与えられた支払手段である貨幣及び日本銀行法第46条第1項《日本銀行券の発行》の規定により日本銀行が発行する銀行券をいい(通貨の単位及び貨幣の発行等に関する法律第2条第3項)、小切手等は含まない。 2 貨幣で、その模様の認識が困難なもの又は著しく量目が減少したものは、強制通用力を有しない(通貨の単位及び貨幣の発行等に関する法律第9条)。
(徴収したものとみなす)
23
なお、国税の納付に使用することができる有価証券を差し押さえた場合において、その支払がなかったときは、滞納者の国税の納税義務は消滅しない(証券ヲ以テスル歳入納付ニ関スル法律第2条参照)。
(差押金銭の受入れ)
24 差し押さえた金銭は、直ちに歳入歳出外現金出納官吏の資格において、受け入れる(出納官吏事務規程第1条第5項参照)。
差押財産の保管責任と損害賠償
(動産等の保管)
25 差し押さえた動産又は有価証券( (注) 善良な管理者の注意とは、差し押さえた動産又は有価証券を保管する税務署長として、一般に要求される程度の相当の注意をいう。
(損害賠償)
26 税務署長が、その職務を行うについて故意又は過失により違法に差押財産を亡失し、又はき損し、滞納者等に損害を与えたときは、国は国家賠償法第1条第1項《国等の損害賠償責任》の規定により、滞納者等に対してその損害を賠償する責めを負う。
(管理)
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動産譲渡に係る登記
(動産譲渡登記の効果)
28 動産及び債権の譲渡の対抗要件に関する民法の特例等に関する法律(以下「動産・債権譲渡特例法」という。)第3条第1項《動産の譲渡の対抗要件の特例等》の動産譲渡登記は、譲渡の対象となる動産の譲渡の事実を公示するにすぎず、譲渡契約の有効性までも証明するものではない。
したがって、滞納処分による差押えに先行して動産譲渡登記がされている場合であっても、動産譲渡契約が無効であるときには、差し押さえることができる。
(動産譲渡登記と滞納処分による差押えが競合した場合)
29 動産譲渡登記がされた動産の譲渡と滞納処分による差押えが競合した場合における優先関係は、動産譲渡登記がされた時と徴収職員が差押動産を占有した時の先後により優劣を判定する。
したがって、法人である滞納者の動産を差し押さえた場合には、動産譲渡登記の有無を確認するため、滞納者の本店所在地の法務局等において滞納者への概要記録事項証明書の交付を請求する必要がある。
なお、動産譲渡登記には、「登記の年月日」(動産・債権譲渡特例法第7条第2項第8号)に加えて「登記の時刻」も記録される(動産・債権譲渡登記規則第16条第1項第4号)ため、動産譲渡登記と滞納処分による差押えの先後関係を明確にするため、動産の差押えに当たっては、差押調書に差し押さえた時刻を付記することに留意する。
動産
(土地に付着した物)
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