税務用語解説

事前確定届出給与

1. 事前確定届出給与とは
 役員給与のうち損金に算入されるものは、@定期同額給与、A事前確定届出給与、B業績連動給与のいずれかに該当するものに限られます。これは このうち事前確定届出給与は、事前に、納税地の所轄税務署長に対して、個人別に支給時期と支給金額を記載した「事前確定届出給与に関する届出書」を提出し、その届出どおりに支給をした場合には、その支給した役員給与が損金に算入されるという制度です。この制度は、役員に対して、従業員と同じ時期に賞与を支給したい場合などに利用することができます。
 届出書の提出期限は、次のいずれか早い日までとされています。

1.職務執行開始日又は株主総会等の決議日のいずれか早い日から1月を経過する日
2.事業年度開始の日から4月を経過する日

 具体例を使って、届出書の提出期限と支給した役員給与の取扱いを確認してみましょう。

【具体例】
  当社(3月決算法人)は、×1年6月26日の定時株主総会において、代表取締役 税研太郎に対して、下記の給与を支給する旨を決議した。職務の執行期間は、株主総会開催日の×1年6月26日から、×2年6月25日までの1年間とする。
 なお、各支給時期に、届出書に記載した金額どおりに支給している。

役職
氏名
報酬月額
事前確定届出給与
代表取締役 税研太郎 50万円 第1回(×1年12月25日支給)
第2回(×2年6月25日支給)
100万円
100万円

 

(1)事前確定届出給与に関する届出書の提出期限
 事前確定届出給与に関する届出書の提出期限は、次のいずれか早い日までです。したがって、×1年7月26日が届出書の提出期限になります。

1.株主総会(職務の執行開始日)から1月を経過する日・・・×1年7月26日
2.事業年度開始の日から4月を経過する日・・・×1年7月31日

(2)支給した役員給与の取扱い
 届出書に記載した各支給時期に、記載した金額どおりに支給をした場合には、その支給金額は法人税の所得の金額の計算上、損金に算入されます。したがって、会計上、役員報酬として処理をした各100万円は、法人税の計算上、申告調整を行う必要はありません。

2. 届出どおりに支給をしなかった場合の取扱い
 税務署長に届け出た金額と実際の支給額が異なる場合には、支払った給与は事前確定届出給与に該当しません。その場合は、会計上、費用処理した金額の全額が、法人税の計算上、損金不算入となります。ここで注意をしなければならないのは、例えば、届け出た金額よりも多く支給した場合に、差額のみを申告調整するのではなく、支給額全額が損金不算入になるという点です。届出どおりの金額でなければ、多く支給しても、少なく支給しても、支給額の全額が損金不算入となるのです。

 役員給与が届出どおりに支給されたかどうかは、支給が複数回にわたる場合には、職務執行期間全体をひとつの単位として判定することが原則と考えられています。この度の判決は、この考え方が支持されたものです。事案の概要など詳細は、No.3275 平成25年8月26日号6頁を参照してください。
 上記の具体例で、届出どおりに支給しなかった場合の取扱いを次の二つのケースで検討してみましょう。

【ケース1】12/25支給額:80万円・6/25支給額:100万円

 役員給与が届出どおりに支給されたかどうかは、職務執行期間全体をひとつの単位として判定しますので、第1回(12/25)の支給が届出どおりに行われなかった場合には、同じ職務執行期間内に支給する第2回(6/25)の給与が、仮に届出どおりに支給されたとしても、その両方が事前確定届出給与に該当しません。したがって、第1回(12/25)支給分の80万円、第2回(6/25)支給分の100万円のいずれもが損金不算入となります。

【ケース2】12/25支給額:100万円・ 6/25支給額:80万円

 【ケース2】についても、原則どおり、職務執行期間全体(×1年6月26日〜×2年6月25日)をひとつの単位として判定すると、第2回(6/25)の支給が届出どおりに支給されなかった場合には、第1回(12/25)支給分と第2回(6/25)支給分のいずれもが事前確定届出給与に該当しないと考えられます。
 しかし、第2回(6/25)支給時には、既に前の事業年度(×2年3月期)は終了しています。このようなケースにおいては、過去の課税所得に影響を与えることがないように、第2回(6/25)支給分の80万円のみを損金不算入の調整を行い、第1回(12/25)支給分の100万円は損金に算入するという例外的な取扱いをしています。この例外的な取扱いに関する考え方は、国税庁HP「定めどおりに支給されたかどうかの判定(事前確定届出給与)」で公表されています。

 事前確定届出給与は、届け出た支給時期と支給金額が、実際の支給と完全に一致することが要件とされています。この制度を利用する際には、将来における利益の予測など、事前の十分な検討が必要です。

【解説者】税理士 石井幸子
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