税務用語解説

「政省令」「本法」と「法令」

 政省令とは、政令と省令をあわせた呼び方で、ともに法律を補足するために制定されるものです。政令や省令と区別するために、補足する基となる法律のことを「本法」と呼び、これら3つを総称して「法令」といいます。
 政令は内閣が、省令は各省の大臣(税法の場合には、財務大臣)が制定する命令です。本法(法律)の改正は国会の承認が必要になるため、短期間で改正を行うことができませんが、政令や省令は、内閣や各省の権限で改正をするため、比較的短期間で改正を行うことが可能です。世の中の情勢に合わせて機動的な改正を行うために、規定の根幹に関わる部分は本法(法律)で規定し、詳細な計算方法や手続きに関する事項は政令や省令で規定する、という役割分担をしているのです。政令や省令は、各税法に対応しておおむね1つずつあり、所得税法や法人税法では、次のようになります。

 

本  法 政  令 省  令
所得税法 所得税法施行令 所得税法施行規則
法人税法 法人税法施行令 法人税法施行規則

 

 棚卸資産の評価方法を変更する場合を例にとって、本法と政令や省令との関係を確認してみましょう。まず、はじめに確認をするのは本法です。法人税法(本法)では、棚卸資産の評価に関して、次のように定めています。

法人税法 第29条(棚卸資産の売上原価等の計算及びその評価の方法)
 内国法人の(〜略〜)期末棚卸資産の価額は、棚卸資産の取得価額の平均額をもって事業年度終了の時において有する棚卸資産の評価額とする方法(〜略〜)により評価した金額(〜略〜)とする。
2 前項の選定をすることができる評価の方法の特例、評価の方法の選定の手続、棚卸資産の評価額の計算の基礎となる棚卸資産の取得価額その他棚卸資産の評価に関し必要な事項は、政令で定める。

 法人税法には、棚卸資産の評価に関する定めはこれだけしかなく、評価方法を変更する場合の取扱いは定められていません。ここで注目したいのが、第2項の「その他棚卸資産の評価に関し必要な事項は、政令で定める」という文言です。これは、法律がその事項に関する具体的な取扱いなどを、政令や省令で定めることを委任(おまかせ)したということです。この委任に基づいて、法人税法施行令(政令)では、棚卸資産の評価方法の変更に関して、次のように定めています。

法人税法施行令 第30条(棚卸資産の評価の方法の変更手続)
 内国法人は、棚卸資産につき選定した評価の方法(〜略〜)を変更しようとするときは、納税地の所轄税務署長の承認を受けなければならない。
2 前項の承認を受けようとする内国法人は、その新たな評価の方法を採用しようとする事業年度開始の日の前日までに、その旨、変更しようとする理由その他財務省令で定める事項を記載した申請書を納税地の所轄税務署長に提出しなければならない。

 第1項では、棚卸資産の評価方法を変更したい場合には、税務署長の承認を受ける必要があることを定めています。そして、第2項では、その承認を受ける際には、申請書を提出する必要があることを定めていますが、その申請書に記載する具体的な内容は、財務省令(財務大臣が定める省令)で定めるとしています。これに基づき、法人税法施行規則(省令)では、申請書に記載する具体的な事項に関して、次のように定めています。

法人税法施行規則 第9条の2(棚卸資産の評価方法の変更申請書の記載事項)
 令第32条第2項 (棚卸資産の評価の方法の変更手続)に規定する財務省令で定める事項は、次に掲げる事項とする。
一  申請をする内国法人の名称及び納税地並びに代表者の氏名
(以下省略)

 本法(法人税法)から政令(法人税法施行令)、省令(法人税法施行規則)までひと通り確認することにより、棚卸資産の評価方法を変更する場合の取扱いが判明しました。このように、税法の取扱いは、本法にそのすべてが定められているのではなく、政令や省令に具体的な取扱いなどが定められているものがあります。法律を確認する際には、該当する政令や省令がないかどうかのチェックを忘れないように注意しましょう。

【解説者】税理士 石井幸子
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