税務用語解説

租税条約

1.租税条約とは

 租税条約とは、簡単にいうと、国と国との間で結ばれる税金の取り決めです。正式な名称は、「所得に対する租税に関する二重課税の回避及び脱税の防止のための日本国政府と××国政府との間の条約」であり、略して租税条約と呼ばれています。日本においては、令和元年5月1日時点で、129ヶ国・地域と74の租税条約を結んでいます。
 この租税条約の目的は、二国間での経済活動の活発化です。その目的を達成するために、国家間の課税権の配分に関する規定や国際的な二重課税の排除規定などが中心に置かれています。また、近年では、脱税や租税回避の防止のため、税務当局間での協力規定も重要論点となっています。
 租税条約はこのような目的で結ばれているため、国内法の規定に優先して適用されることになります。
 この租税条約は、以下のような4種類に分類されます。

所得に関する租税条約・相続に関する租税条約・租税情報交換協定・税務行政執行共助条約


 通常、我々が目にしている租税条約は、そのほとんどが所得に関する租税条約です。各国で生じた所得に対する取り決めをしているものです。
 また、相続税のうえでも国家間の調整が必要になる場合もあることから、相続税に関する租税条約も結ばれています。ただし、この相続に関する租税条約は、アメリカとのみ結んでいます。
 次に、租税情報交換協定とは、租税条約に追加される情報交換に関する議定書のことです。これは、国ではない自治領であるタックスヘイブン地域と結ばれています。
 最後に、税務行政執行共助条約とは、租税に関する情報交換、徴収共助などの行政支援を定めた多国間での条約のことです。国際的な脱税や租税回避に対応するための、各国での取り組みといえます。

 また、税の軽減や減免などの租税条約上の規定を適用する場合、租税条約における規定だけでは抽象的な部分もあるため、具体的に適用する場合の法律として、「租税条約等の実施に伴う所得税法、法人税法及び地方税法の特例等に関する法律」、いわゆる租税条約等実施特例法が設けられています。
 例えば、租税条約上において「租税の額は、当該使用料の10パーセントを超えないものとする。」と規定されている場合には、実際に何パーセントの税率で課税すべきか不明確です。そこで、租税条約等実施特例法では、「限度税率(10パーセント)によるものとする」と規定することにより、10パーセントで課税すべきが分かります。また、租税条約の適用に関する各種届出事項についても規定しています。




2.租税条約の対象税目

 所得に関する租税条約の対象税目は、法人税と所得税ですが、条約によっては地方税が対象になっているものもあります。
 また、相続に関する租税条約の対象税目は、相続税となります。

日英租税条約 
第2条(対象税目)
1 この条約は、次の租税について適用する。
(a) 日本国については、
@ 所得税
A 法人税
B 住民税
(以下「日本国の租税」という。)
(b) 英国については、
@ 所得税
A 法人税
B 譲渡収益税
(以下「英国の租税」という。)

3.適用される租税条約

 ある取引について、どの国との租税条約を適用するかは、その取引を行う法人や個人の居住地国とその取引先の居住地国との間の租税条約になります。
 したがって、日本企業の子会社が行った取引だからといって、日本との租税条約を検討するのではなく、あくまで取引当事者の居住地国間のものを適用します。日本企業の中国子会社と米国会社が行った取引であれば、米中租税条約の対象となります。

 

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