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【特設】『ウェブ版 資産税通信』(配信・運営:税務研究会)

今月の資産税事例

小規模宅地の適用について (20.3/4更新)
Q

 台風災害(19号)による申告期限延長時の小規模宅地等の特例の保有継続要件についてご教示ください。
 下記の場合においても相続人は小規模宅地等の特例の適用を受けることができるでしょうか。

(概要)
 被相続人甲は平成31年1月5日に亡くなり、その相続人である子Aと子Bが甲所有の土地を相続した。
 子Aは千葉に所在する甲の居住用だった宅地を、子Bは都内某区に所在する賃貸用建物の敷地を相続した。
 その後、台風19号による災害が起きたが、特に被害もなく準備が整ったので、令和元年11月20日に相続税の申告書を期限内に提出した。その際、子Bは某区の土地について、貸付事業用宅地等の要件(措法69の4B4号)を満たすものとして小規模宅地等の特例により評価減を受けている。
 申告後の令和元年12月5日に子Bは某区の土地を売却した。

(時系列の整理)
@被相続人甲の相続発生日 平成31年1月5日
A台風19号発生 令和元年10月10日
B申告書提出日 令和元年11月20日
C当初申告期限 令和元年11月5日(納税地:千葉県内)
D某区の土地の売却日 令和元年12月5日
E措法により延長された期限 令和2年8月11日(政令第129号、措置法69の8第1項)

 台風19号が特定非常災害に指定され、千葉県全域の土地が特定地域に該当することとなったため、千葉県の土地を相続した子Aは、措置法69条の6「特定土地等及び特定株式等に係る相続税の課税価格の計算特例」の適用を受けることができることとなりました。これにより、子A・子Bともに甲に係る相続税申告書の提出期限が令和2年8月11日に自動延長されました。この延長に伴い、小規模宅地等の特例の適用要件となっている「申告期限までの」保有継続要件も8月11日まで延長されてしまい、12月に土地を売却してしまった相続人Bは継続保有条件を満たさないものとして、小規模宅地等の特例の適用を受けられなくなるでしょうか。

 措法69条の8@が「〜財産を取得した者が相続税法第27条第1項又は第2項の規定により提出すべき申告書の提出期限が特定日の前日以前であるときは、当該申告書の提出期限は、特定日※とする。」と定めていますが、法の趣旨が災害被害を受けた者への救済措置であることを考えれば、適用要件を荷重するものではないと考えます。また、小規模宅地等の特例で求める保有継続要件の「申告期限」(措法69の4C)は、あくまでも相続税法27条の申告期限で判定し、災害による自動延長にかかわらず相続人Bは小規模宅地等の特例を受けられると考えますが、そのような解釈でよろしいでしょうか。
※特定日・・・今回の場合、令和2年8月11日


A 保有要件を満たさないこととなりますので、小規模宅地等の特例の適用は受けられませんので、令和2年8月11日までに訂正申告が必要と考えます。

(解説)
 措置法第69条の8は、「同一の被相続人から相続又は遺贈により財産を取得した全ての者のうちに第69の6第1項の規定の適用を受けることができる者がいる場合において、・・・相続税法第27条第1項又は第2項により提出すべき申告書の・・・当該申告書の提出期限は、特定日とする。」と規定されています。

 条文上、「第69の6第1項の規定の適用を受けることができる者がいる場合」と規定されていることから、実際に第69の6第1項の規定の適用を受けたか否かに関係なく、特定土地を所有していた者がいる場合は、自動的に期限が延長されてしまいます。

 また、申告期限は、特定日とするとの強行規定であり、特定日とすることができるとの規定でないことから、選択の余地はありません。

 そして、措置法第69条の4は、相続税法第27条の規定による申告書の提出期限まで引き続き保有することが要件とされています。

 したがいまして、措置法第69条の8におきまして、「相続税法第27条第1項又は第2項により提出すべき申告書の・・・当該申告書の提出期限は、特定日とする」と規定されていることから、小規模宅地等の特例の保有要件の期限も延長されたものとなります。

 なお、小規模宅地等の特例の創設趣旨は、事業又は住居の用に供されていた宅地のうち最小限必要な部分については、相続人等の生活基盤維持のため欠くことのできないものであって、その処分については相当に制約を受けるのが通常であることから設けられたものです。

 そして、平成6年に改正されて保有要件は、相続後すぐに譲渡した土地等は、相続人等の生活基盤維持のため欠くことのできないものとは言えないことから、少なくとも相続税法の提出期限までは保有していることを要件としたものです。

 したがいまして、今回の申告書の提出期限の延長が被害を受けた者への救済措置であるとしても、保有要件は趣旨が異なることから、小規模宅地等の特例の適用はないこととなります。


             (税理士懇話会・資産税研究会事例より)

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