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【特設】『ウェブ版 資産税通信』(配信・運営:税務研究会)

今月の資産税事例

社長所有の株式を評価額より高額で従業員持株会に譲渡する場合の取扱い (20.4/3更新)
Q

 非上場会社M社(資本金4,000万円、発行株式数8万株)の社長A(現在、持ち株比率82.5%)は、このたび従業員持株会に対して自社株1万株を1株500円で譲渡する計画を立てています。
 ここにおいて、配当還元方式による株式評価額は1株250円ですが、差額の250円×1万株=250万円は、贈与と認定される可能性はあるでしょうか。


A  相続税法第7条《低額譲受け》は、「著しく低い価額の対価で財産の譲渡を受けた場合においては、…当該財産の譲渡を受けた者が、当該対価と当該譲渡があつた時における当該財産の時価…との差額に相当する金額を当該財産を譲渡した者から贈与…により取得したものとみなす」として、いわゆる低額譲受けの場合は、贈与税を課税することとしています。
 一方、同法第9条《その他の利益の享受》は、「対価を支払わないで…利益を受けた場合においては、当該利益を受けた時において、当該利益を受けた者が、当該利益を受けた時における当該利益の価額に相当する金額…を当該利益を受けさせた者から贈与…により取得したものとみなす」と規定していますから、いわゆる高額譲渡の場合も、その高額部分について贈与税が課税されることになります(競走馬の譲渡価額のうち正常価額を超える部分の金額は贈与に当たるとした裁決事例(昭59.8.23裁決・裁決事例集28-281頁)があります。)。

 ところで、ご質問の場合は、オーナー社長が自社株式を従業員持株会(民法上の組合として話を進めます。)に譲渡する場合に、1株当たりの配当還元価額が250円であるところ、これを500円で譲渡するということですが、この自社株の原則的評価方式による評価額(例えば1株当たりの純資産価額)が500円以上である場合には、オーナー社長は、この株式の譲渡によって、上記9条の「利益を受けた場合」に該当しませんから、高額譲渡の場合のみなし贈与の規定の適用はありません。
 すなわち、財産評価基本通達188-2に定める配当還元価額は、事業経営への影響の少ない従業員株主のような少数株主は、単に配当を期待するにとどまるという実質のほか、評価手続きの簡便性をも考慮して特例的に採用された配当還元方式による価額ですが、オーナー社長自身にとっての自社株の価額(時価)は、同通達179に定める原則的評価方式による価額(あるいはそれ以上の価額)ですから、オーナー社長が従業員に自社株を原則的評価方式による価額で譲渡しても、その従業員から何ら利益を受けたことにはならないからです。


             (税理士懇話会・資産税研究会事例より)

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