トップへ

【特設】『ウェブ版 資産税通信』(配信・運営:税務研究会)

今月の資産税事例

宅地のみを相続した場合の小規模宅地等の特例(家なき子)の適用の可否 (20/6/17更新)
Q

 被相続人の居住の用に供されていた宅地(被相続人の配偶者、相続開始直前において同居していた相続人はいない。)について、相続人が2人(兄・弟)おります。
 弟については、相続開始3年以内に自己、自己の配偶者、三親等内の親族等の所有する家屋に居住したことがない等、いわゆる「家なき子」の要件を満たしています。
 兄については、「家なき子」の要件を満たしません。
この場合に、その宅地の上に存する家屋を兄が相続し、その宅地を弟が相続したときは、特定居住用宅地等として80%減額ができると理解していますが、間違いはないでしょうか。
 また、何か特段に留意すべき点はないでしょうか。




A  

 小規模宅地等の特例の適用対象となる特定居住用宅地等の要件のうち、いわゆる「家なき子」の要件については、平成30年度税制改正により見直しがされており、改正後は、次の要件をすべて満たす場合に「家なき子」に該当することとされています(措置法69の4B二ロ)。
@ 被相続人の居住の用に供されていた宅地等を取得した者で、相続税法第1条の3第1項第1号若しくは第2号の規定に該当する者又は同項第4号の規定に該当する者のうち日本国籍を有する者であること
A 被相続人に配偶者がいないこと
B 相続開始の直前において被相続人の居住の用に供されていた家屋に居住していた被相続人の相続人(相続の放棄があった場合には、その放棄がなかったものとした場合の相続人)がいないこと
C 相続開始前3年以内に日本国内にある取得者、取得者の配偶者、取得者の三親等内の親族又は取得者と特別の関係がある一定の法人が所有する家屋(相続開始の直前において被相続人の居住の用に供されていた家屋を除く)に居住したことがないこと
D 相続開始時に取得者が居住している家屋を相続開始前のいずれの時においても所有していたことがないこと
E その宅地等を相続開始時から相続税の申告期限まで有していること

 ご質問の事例については、「家なき子」の要件を満たさない兄が家屋を相続し、当該要件を満たす弟が宅地を相続するということで、弟が家屋を相続しないことを危惧されてのご質問だと思いますが、「家なき子」の要件は上記@〜Eのとおりですので、被相続人の家屋に共に居住していた親族や被相続人と生計を一にする親族に係る居住継続要件は付されていませんし、別に家屋の取得要件が設けられているわけではありません。
 また、措置法第69の4第1項本文前段の規定に抵触するところもありませんので、ご見解のとおり、小規模宅地等の特例を適用して差し支えないと考えます。

 以上が結論になりますが、「家なき子」について少し付言すると、財務省主税局作成の平成30年度税制改正の解説では、この「家なき子」の要件について、「特定居住用宅地等の要件のうち、勤務の都合等により被相続人と同居できず、かつ、持ち家を持たない相続人が被相続人の死亡後に被相続人が居住していた家屋に戻る場合を想定した要件」と説明しており、同要件の改正の趣旨について、次のように説明されています。
 「既に自己の名義の家屋を持っている相続人が、その家屋を譲渡や贈与により自己又はその配偶者以外の名義に変更し、居住関係は変わらないまま、持ち家がない状況を作出して被相続人が居住の用に供していた宅地等について本特例を適用することも可能となっていました。また、自らは家屋を所有しない孫に対して被相続人が居住の用に供していた宅地等を遺贈することにより本特例を適用するケースも指摘されていました。相続人の居住の継続のためという本特例の趣旨に照らすと、このようなケースは自己が居住する家屋を実質的に維持したまま、被相続人が居住していた宅地等の課税価格を減額するものであり、制度の趣旨を逸脱しているとみることもできます。そこで、平成30年度税制改正では、この要件が本特例の趣旨に即したものとなるよう見直しされました。」
 このような趣旨説明をみると、ご質問の事例のように、家屋を相続せず、居住もしない場合に(実際には居住するのかも知れませんが)、特例の適用を認めるのは、個人的には疑問を感じますが、平成30年度の税制改正で見直しされた点は、ご案内のとおり、相続開始前3年以内に取得者の3親等内の親族又は特別の関係がある法人が所有する家屋に居住したことがないことと、相続開始時に取得者が居住していた家屋を所有していたことがないこと(上記要件のC及びD)の2点ですから、「家なき子」の要件を設けたときから、相続取得後の居住要件や家屋の相続取得要件は付されていませんので、「家なき子」を設けた趣旨からすると、やや甘いのではないかという感もありますが、そこまで縛ることはできず、当該宅地等の取得継続要件に止める割り切りがあったのではないかなと思っています。

 なお、留意すべき事項ということですが、本件には関係ありませんし、既にご承知のことと思いますが、「家なき子」に関していえば、令和2年3月31日までに相続等で取得した宅地等について経過措置が設けられているということ、分割内容について申し上げるのはなんですが、家屋も弟が相続して代償分割を行う方法もあるのではないかと思いました。いずれも特段の留意事項ということではなく、余談に過ぎないと思いますがご容赦ください。




(税理士懇話会・資産税研究会事例より)
   

資産税研究会(税理士懇話会)のご案内へ
≪≪ トップに戻る税務研究会ホームページ