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【特設】『ウェブ版 資産税通信』(配信・運営:税務研究会)

今月の資産税事例

配偶者居住権に基づく敷地利用権の範囲 (21/4/7更新)
Q

 配偶者居住権の目的となっている建物の敷地の用に供される土地等の範囲についてご教授ください。
 例えば、農家の自宅のように塀で囲まれた敷地の中に被相続人と配偶者の住む自宅建物の敷地のほかに
@ 広大な庭
A 出荷をしていない家庭菜園
B 自家用車を停める駐車スペース
C 使用貸借で相続人の建物が建っているところ
があるような場合、どこまでを配偶者居住権の及ぶ敷地と考えるのでしょうか。

 自宅敷地の評価単位よりも、配偶者居住権の及ぶ敷地の方が狭い(建ぺい率の範囲内等)と考えるのでしょうか。
 もしくは、ほぼ自宅敷地とイコールと考えるのでしょうか。




A  

 配偶者居住権に基づく敷地利用権(以下「配偶者敷地利用権」といいます。)については、民法上、その範囲等も含めて定義する規定はなく、配偶者居住権を取得した場合は、居住建物の使用及び収益に必要な限度でその敷地を利用することができると解されている権利のようです。その意味では、配偶者敷地利用権は、配偶者居住権に付随する権利ということになると思います。
 また、配偶者居住権は、借家権類似の建物についての権利とされていることから、譲渡所得の課税においては、総合課税の対象になる資産と解されているところ、配偶者敷地利用権についても、配偶者居住権に基づく敷地の使用権に過ぎないとして、同様に総合課税の対象になると解されており、すなわち、分離課税の対象となる「土地の上に存する権利」には該当しないと解されています(措置法通達31・32共ー1)。
 一方、相続税法の特例である小規模宅地等の特例においては、配偶者敷地利用権は建物でなく土地を利用する権利であること、配偶者居住権が被相続人の配偶者の従前の居住環境での生活の継続等を趣旨としていること、小規模宅地等の特例が事業又は居住の継続等への配慮を趣旨とするものであること等を踏まえ、措置法第69条の4第1項に規定する「土地の上に存する権利」に該当し、特例対象宅地等に含まれることが通達で明らかにされています(措置法通達69の4-1の2)。

 このように、配偶者敷地利用権は、居住建物の使用及び収益に必要な限度で敷地を利用する権利とされていること、配偶者居住権は借家権類似の権利であるから、配偶者敷地利用権の範囲も借家権の及ぶ範囲と同様に捉えるものと考えられることからすると、ご質問にもあるように、自宅敷地の概念よりも狭い範囲になるのではないかという疑問が生じますし、所得税(譲渡所得)と相続税で税目によって配偶者敷地利用権に対する解釈・適用が相違していることも気になるところになっています。

 配偶者居住権は、制度創設後まだ間もなく、国税庁の通達も昨年整備されたばかりで、不確定要素もあると思います。また、配偶者敷地利用権についても公共事業の損失補償の対象とされていますので、その取扱い等も参考にすべきかも知れませんが、ご質問の事例については、配偶者敷地利用権の相続税の評価についての問題だと思いますので、配偶者敷地利用権を小規模宅地等の特例の対象にすることとした上記の趣旨からして、同特例の「居住の用に供されていた宅地等」(以下「居住用宅地等」といいます。)の範囲と同じように考えても特に問題はないのではないかと考えます。その範囲を建ぺい率の範囲内とするなど、ことさら狭く捉える必要はないということです。
 とはいえ、居住用宅地等の範囲についても、これが具体的に通達等で示されているわけではなく、例えば、措置法通達69の4-7(被相続人等の居住の用に供されていた宅地等の範囲)や69の4-7の2(宅地等が配偶者居住権の目的となっている家屋の敷地である場合の被相続人等の居住の用に供されていた宅地等の範囲)を見ても、「被相続人等の居住の用に供されていた家屋で、被相続人の所有していたものの敷地の用に供されていた宅地等」などとあるだけで、ご質問に答えるような具体的な範囲は示されていませんので、結局は、事実認定の問題として個々に判断していく必要があります。
 したがって、ご質問の事例の「農家の自宅の敷地」について、@からCを具体的に検討しますと、次のとおりになると考えます。なお、自宅建物は全て居住用であることを前提とします。

@ 広大な庭
 一般の家庭より広大であっても、敷地内にあって(物理的に通路、さく、生け垣等の内側にある)、庭、庭園といえる限り、配偶者敷地利用権の範囲内と考えて差し支えないと思います。

A 出荷をしていない家庭菜園
 農家の場合、出荷をしていないことだけでは、微妙だと思います。敷地内にあること、農業委員会に農地として登録されていないこと、固定資産税の課税地目は宅地であること、は当然必要ですが、その規模を考慮する必要があると思います。全体の敷地面積に占める割合が大きい場合や通常の農地と同程度の規模の場合は、慎重に判断された方がよろしいと思います。

B 自家用車を停める駐車スペース
 自家用車の駐車場部分は、特に問題なく、範囲内であると考えます。

C 相続人の建物の敷地
 相続人が単独で所有する建物には、仮に、離れとして居住用に使っていたとしても、そもそも配偶者居住権を設定することは出来ないと思いますので、範囲外になると考えます。
 なお、同一敷地内に居住用家屋とそれ以外の建物がある場合、共用部分の判定をどうするかなどが問題になると思いますが、このような場合は、実務上、地価税通達を参考にしている例があるようです。地価税自体は執行停止中ですが、国税庁が示したもので、中身も合理的だと思いますので、ご参考までに掲載しておきたいと思います。

        

以  上


○ 「地価税法取扱通達の制定について」より抜粋

(あん分計算の基礎となる土地等)
6−3 土地等が令第3条第3項に規定する「業務目的の用にも業務目的の用以外の用にも供されている」ものに該当するかどうかは、原則として一の建物等(同項第1号に規定する建物等をいう。以下9-2までにおいて同じ。)の用に供されている土地等(以下この項において「敷地部分」という。)ごとに判定するものとする。
 この場合、一団の土地等の用途が単一でないときは、当該一団の土地等を、おおむね次のように区分し、整理した上で、それぞれに定めるところにより各建物等の敷地部分を判定するものとする。

(1) 当該一団の土地等のうち、通路、さく、生け垣等により専ら一の建物等の用に供されている土地等として他の土地等と区分されている部分 当該一の建物等の敷地部分とする。

(2) 当該一団の土地等のうち、2以上の建物等の用に一体的に利用されている部分((3)の部分を除く。)当該部分の土地等のうち、当該部分の土地等の面積を基礎としてその上に存する各建物等の建築基準法施行令第2条第1項第2号((面積、高さ等の算定方法))に規定する建築面積の比によりあん分して計算した当該各建物等に係る面積に相当する部分を当該各建物等の敷地部分とする。

(3) 当該一団の土地等のうち、通路その他の各建物等の共用の施設の用に供されている部分 当該部分の土地等のうち、当該部分の土地等の面積を基礎として(1)及び(2)の各建物等の敷地部分の面積の比によりあん分して計算した当該各建物等に係る面積に相当する部分は、それぞれ(1)及び(2)の各建物等の敷地部分に含める。

(4) 当該一団の土地等のうち、(1)から(3)までの部分のいずれにも該当しない部分いずれの建物等の敷地部分にも含めない。

(注)
1  一団の土地等の上に専ら業務目的の用に供する建物等と専ら業務目的の用以外の用に供する建物等が2以上あるような場合におけるそれぞれの建物等の敷地部分の判定についても、上記(1)から(4)までによるものとする。
2 上記(1)から(4)までにより判定することが、土地の利用状況、各建物等の使用目的、建物等の規模・構造等からみて適当でないと認められるときは、それらの事実を総合的に勘案して合理的に判定するものとする。
3 法第6条第3項第2号、第4項若しくは第5項、第7条第1項若しくは第2項、第8条又は第17条第1項若しくは第2項第2号に定める建物等若しくは施設等の用に供されている土地等の判定についても、この項に準じて取り扱う。




(税理士懇話会・資産税研究会事例より)
   

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