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【特設】『ウェブ版 資産税通信』(配信・運営:税務研究会)

今月の資産税事例

死亡年の事業の所得に対して課せられる事業税の額を相続税の債務控除することの可否 (21/7/6更新)
Q

 被相続人甲(令和2年8月25日死亡)は、不動産貸付業として毎年事業税の納税義務者となっているところ、甲の死亡年分に係る所得税の準確定申告書を作成し、来年度に賦課される見込みの事業税の額を計算しました。
 甲死亡に係る相続税の申告に当たり、令和2年分所得税の準確定申告分、令和2年度分の事業税(令和元年の事業の所得に基づき課されるもの)で甲死亡時に未納付の額は債務控除することができるが、上記の甲の令和2年の事業の所得に基づき来年度に賦課される事業税の額を債務控除することはできますか。根拠条文を含めてご教示くだい。


A

1 相続税に関する規定

 相続税法13条1項では、「被相続人の債務で相続開始の際現に存するもの(公租公課を含む。)」は、課税価格から控除する旨が規定され、同法14条2項では、次のように規定されています(下線は引用者)。

2 前条の規定によりその金額を控除すべき公租公課の金額は、被相続人の死亡の際債務の確定しているものの金額のほか、被相続人に係る所得税、相続税、贈与税、地価税、再評価税、登録免許税、自動車重量税、消費税、酒税、たばこ税、揮発油税、地方揮発油税、石油ガス税、航空機燃料税、石油石炭税及び印紙税その他の公租公課の額で政令で定めるものを含むものとする。

 この政令委任を受けて、相続税法施行令3条1項では次のように規定されています(下線は引用者。)。

(債務控除をする公租公課の金額)
第三条 法第十四条第二項に規定する政令で定める公租公課の額は、被相続人(遺贈をした者を含む。以下同じ。)の死亡の際納税義務が確定しているもののほか、被相続人の死亡後相続税の納税義務者が納付し、又は徴収されることとなつた次に掲げる税額とする。ただし、相続人(法第三条第一項に規定する相続人をいい、包括受遺者を含む。以下同じ。)の責めに帰すべき事由により納付し、又は徴収されることとなつた延滞税、利子税、過少申告加算税、無申告加算税及び重加算税に相当する税額(地方税法の規定による督促手数料、延滞金、過少申告加算金、不申告加算金、重加算金及び滞納処分費の額を含む。)を含まないものとする。
一 被相続人の所得に対する所得税額

(2号から9号まで記載省略)

 被相続人が負担すべきであつた地方税法第一条第一項第十四号(用語)に規定する地方団体の徴収金(都及び特別区のこれに相当する徴収金を含む。)の額

 このように、被相続人の死亡後に相続税の納税義務者が納付することとなった被相続人の所得に対する所得税額(死亡年の所得税の準確定申告に係る税額)が相続税法施行令3条1項1号で、また、被相続人の死亡後に相続税の納税義務者が納付することとなった地方税法1条1項14号に規定する地方団体の徴収金が相続税法施行令3条1項10号で規定され、これらが相続税の債務控除の対象となることが規定されています。


2 地方税法に関する規定

 上記1の相続税法施行令3条1項10号が規定している「地方税法第一条第一項第十四号に規定する地方団体の徴収金」については、地方税法1条1項14号において次のとおり規定されています(下線は引用者。)。したがって、相続税法施行令3条1項10号が規定している「地方税法第一条第一項第十四号に規定する地方団体の徴収金」には地方税が含まれることになります。

(用語)
第一条 この法律において、次の各号に掲げる用語の意義は、当該各号に定めるところによる。

(1項1号から13号記載省略)

十四 地方団体の徴収金 地方税並びにその督促手数料、延滞金、過少申告加算金、不申告加算金、重加算金及び滞納処分費をいう

 また、地方税法1条1項14号が規定する「地方税」に関して、同法2条及び4条では次のとおり規定されています(下線は引用者。)。したがって、ご照会の事業税は、相続税法施行令3条1項10号が規定している「地方税法第一条第一項第十四号に規定する地方団体の徴収金」に該当することになります。

(地方団体の課税権)
第二条 地方団体は、この法律の定めるところによつて、地方税を賦課徴収することができる。

(3条、3条の2記載省略)

(道府県が課することができる税目)
第四条 道府県税は、普通税及び目的税とする。
2 道府県は、普通税として、次に掲げるものを課するものとする。ただし、徴収に要すべき経費が徴収すべき税額に比して多額であると認められるものその他特別の事情があるものについては、この限りでない。
一 道府県民税
二 事業税

(3号から9号記載省略)

 さらに、地方税法9条では、次のように規定され、相続があった場合には、その相続人は被相続人に課されるべき、又は被相続人が納付し、若しくは納入すべき地方団体の徴収金を納付し、又は納入しなければならないと規定され(下線は引用者。)、国税の場合に国税通則法5条により被相続人の納税義務が相続人に承継されることが規定されていることと同様に規定されています(国税通則法5条は被相続人の所得税の準確定申告(死亡年1月1日から死亡日までの所得申告)について相続人が承継する根拠規定です。)。

(相続による納税義務の承継)
第九条 相続(包括遺贈を含む。以下本章において同じ。)があつた場合には、その相続人(包括受遺者を含む。以下本章において同じ。)又は民法(明治二十九年法律第八十九号)第九百五十一条の法人は、被相続人(包括遺贈者を含む。以下本章において同じ。)に課されるべき、又は被相続人が納付し、若しくは納入すべき地方団体の徴収金(以下本章において「被相続人の地方団体の徴収金」という。)を納付し、又は納入しなければならない。ただし、限定承認をした相続人は、相続によつて得た財産を限度とする。
2 前項の場合において、相続人が二人以上あるときは、各相続人は、被相続人の地方団体の徴収金を民法第九百条から第九百二条までの規定によるその相続分によりあん分して計算した額を納付し、又は納入しなければならない。
3 前項の場合において、相続人のうちに相続によつて得た財産の価額が同項の規定により納付し、又は納入すべき地方団体の徴収金の額をこえている者があるときは、その相続人は、そのこえる価額を限度として、他の相続人が同項の規定により納付し、又は納入すべき地方団体の徴収金を納付し、又は納入する責に任ずる。
4 前三項の規定によつて承継する義務は、当該義務に係る申告又は報告の義務を含むものとする。

 加えて、地方税法72条の49の11第1項では、次のように、事業税の課税標準は、当該年度の初日の属する年の前年中における個人の事業の所得によることが規定され、同条2項では、年の途中において事業を廃止した場合(死亡した場合を含みます。)の事業税の課税標準は、その年(死亡した年)の1月1日から事業廃止の日(死亡の日)までの事業の所得によることが規定されています(下線は引用者。)。

(個人の事業税の課税標準)
第七十二条の四十九の十一 個人の行う事業に対する事業税の課税標準は、当該年度の初日の属する年の前年中における個人の事業の所得による。
2 個人が年の中途において事業を廃止した場合における事業税の課税標準は、前項に規定する所得によるほか、当該年の一月一日から事業の廃止の日までの個人の事業の所得による。

 そして、年の中途において事業を廃止した場合(死亡した場合を含みます。)の事業税の具体的な賦課方法について、地方税法72条の50第4項では次のとおり、事業を廃止した(死亡した)年の1月1日から事業の廃止の日(死亡した非)までの期間の所得を決定して賦課する旨が規定され、また、その納期について72条の51第3項では次のとおり、直ちに課するものとされています。

(個人の事業税の賦課の方法)
第七十二条の五十

(1項から3項記載省略)

4 年の中途において事業を廃止した個人の行う事業に対し事業税を課する場合には、第一項の規定によるほか、道府県知事は、その調査によつて、当該年度の初日の属する年の一月一日から事業の廃止の日までの期間に係る所得を決定して事業税を課するものとする。


(個人の事業税の納期)
第七十二条の五十一

(1項及び2項記載省略)

3 年の中途において事業を廃止した場合における個人の行う事業に対する事業税は、前二項の規定にかかわらず、当該事業の廃止後(当該個人が当該年の一月一日から三月三十一日までの間において事業を廃止した場合においては、当該年の三月三十一日後)直ちに課するものとする


3 ご照会について

 上記1及び2によれば、ご照会については、甲の令和2年1月1日から死亡した8月25日までの間の事業の所得に対して事業税が課税され、その事業税は、甲の死亡後に相続人が承継して納付することになります。そして、相続人が承継するこの事業税の額は、相続税法14条2項の政令委任を受けた相続税法施行令3条1項10号が規定する、被相続人が負担すべきであった地方税法1条1項14号に規定する地方団体の徴収金の額として債務控除することになります。
 上記の関係規定をご確認ください。




(税理士懇話会・資産税研究会事例より)
   

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