トップへ

【特設】『ウェブ版 資産税通信』(配信・運営:税務研究会)

今月の資産税事例

施設に入っている妻が相続する夫婦共有の居住用財産に係る3000万円控除の適用について (22/4/7更新)
Q

<前提条件>
@令和3年5月まで夫婦2人で居住(家屋:夫100%、土地:夫2/5、妻3/5所有)
A令和3年6月、妻が要介護2状態となり施設に入所したため、夫が1人で居住。
B令和3年12月、夫死亡。
C自宅は妻が相続する予定で、令和4年中に売却する予定。
D自宅は妻がいつでも戻ってきて生活できるように光熱費等の生活インフラはそのままにしている。
E妻は介護が必要な状態なので、1人暮らしは無理で、実際には自宅に戻ることは不可能。
F妻の住民票は施設入所後も自宅となっている。

(質問)
@居住用財産の譲渡に係る3,000万控除は適用できるか。
 妻が相続したとしても「所有者として1度も居住した」事実がないことになるので本特例は使えないと考えますがいかがでしょうか。

A被相続人の居住用財産の譲渡に係る3,000万控除は適用できるか。
 要件の1つに「相続開始直前に被相続人以外に居住していた者がいない」がありますが、夫は死亡直前には1人暮らしをしていたことになるので、この要件に該当すると思われます。これに該当すれば他の要件は満たしていますので、本特例は適用できるのではないかと考えていますがいかがでしょうか。


A  

〔回答〕

1 自己の居住用財産を譲渡した場合の3,000万円控除の特例について
 措置法第35条第2項に規定する居住用家屋とは、その個人が所有者として居住の用に供している家屋をいうものと解されています(最高裁三小平成元年3月28日判決・税資169号1260頁)。
 ご質問の場合、家屋の所有者である夫の死亡時点において、妻の生活の拠点が入所している施設であるとすると、妻は、譲渡する家屋に所有者として居住の用に供していたことがないため、自己の居住用財産を譲渡した場合の3,000万円控除の特例を適用することはできないことになります。

〇 最高裁平成元年3月28日判決要旨(税資169号1260頁)
租税特別措置法35条(居住用財産の譲渡所得の特別控除)1項の後半部分の規定は、居住用財産を処分しようとする場合に、社会の実情としては、譲渡時まで引き続いて当該家屋に居住することの困難な事情があることが少なくないところから、当該家屋を居住の用に供しなくなったのち一定期間内の譲渡についても、右特別控除を認めることとしたものである。すなわち、右規定は、当該家屋を居住の用に供しなくなったのちの所定期間内の譲渡は、依然社会通念上居住用財産の譲渡といいうるとみて、これにつき右特別控除を認めるものと解される。そうすると、同条の後半部分の規定は、その前半部分の規定と統一的に理解すべきものであって、それと同様に、当該個人が、当該家屋を、譲渡所得の帰属者の立場において、すなわちその所有者として居住の用に供していたことを右特別控除を認めるための要件とするものとみなければならない。したがって、かつて当該家屋を居住の用に供していた個人が、それを居住の用に供しなくなったのちにその所有権を取得した場合には、たとえ同項後半部分の所定期間内にそれを譲渡しても、右特別控除を認める余地はない。このことは、その所有権取得の原因が相続であっても、当該個人自身が所有者として当該家屋を居住の用に供していたことがない以上、異なるところはない。

 

2 被相続人の居住用財産を譲渡した場合の3,000万円控除の特例について
 この特例には、「その相続の開始の直前においてその被相続人以外に居住をしていた者がいなかったこと」という要件があります。
 ご質問の場合、夫婦2人で居住していたところ、夫が死亡する前に、妻の生活の拠点が施設になったということであれば、「被相続人(夫)の相続の開始の直前においてその被相続人以外に居住をしていた者がいなかったこと」になりますから、他の要件を満たす限り、妻は、被相続人の居住用財産を譲渡した場合の3,000万円控除の特例を適用することができます。




(税理士懇話会・資産税研究会事例より)
   

資産税研究会(税理士懇話会)のご案内へ
≪≪ トップに戻る税務研究会ホームページ