この対談は書籍『すっきりわかる!海外赴任・出張 外国人雇用 ~税務と社会保険・在留資格・異文化マネジメント』(藤井恵 ロッシェル カップ 共著/2019年3月 税務研究会発行)に掲載の対談“海外に人材を出す・海外から入れるときにおさえておきたいこと”の続きです。 毎回テーマを決めて、今現場で起きていることや、他社はそれをどのように解決しているのか?など、人材にまつわるあれこれを、コンサルタントのお二人に語っていただきます。

もくじ

第1回 海外人材をどう選択すべきか?
→第2回 海外赴任がつらくなってしまうとき

第2回 海外赴任がつらくなってしまうとき

今回は海外赴任の問題点について取り上げます。人材が不足しているからなのか、最初は2~3年間駐在という話だったのが、もう1年、もう1年と延びて、なかなか日本に戻してもらえないというケースが目立つようですが?

日本の企業では時々ありますね。ビザの関係でアメリカだったら普通は5年以上にならないのですけど、国によりますね?

そうですね。アジアでは、ビザがずっと延長できる国もあります。ヨーロッパのほうは、いまは厳しく短いので、若い人を頻繁に入れ換えている傾向にあります。帰国の年数の約束は守っている会社ばかりではないようです。
まず、次に来る人がいないと約束が守れないので、もう1年と延ばすこともありますが、そもそも期限なしの会社もあります。そんなことだと、余計に駐在に行きたくないですよね。いつ帰れるかわからないのですから。

期限なしで送り出すのは本当によくないですね。いつまでむこうにいなくてはいけないのか先がみえないと、出発前からいやな気持ちになってしまいます。

会社に「なぜ期限なしなのですか」と聞くと、「3年と決めても、帰せるかわからないし約束はできないから」といわれました。「役に立たなければ1年で帰るかもしれないし」というような回答でした。でも、長い人は10年、15年という人もいます。

15年!そんなに長く海外勤務になる人もいるのですか!驚きです。

どのくらいの赴任期間が適当かについて、いろいろな企業の海外赴任を経験した方にアンケートをとっています。30年海外にいた人にも2年で戻った人にも。でも、だいたい答えは一緒で、「5年」と書いてくるんですよ。理由は、もうそれ以上長くなると帰ったら浦島太郎になって日本のことがわからなくなる、と。かといって、2~3年だとようやく慣れた頃で、そこからというところで帰されるというのは嫌だということでした。でもやっぱり期限がないのは、家族との関係をどうするのか、連れて行くかどうかの選択も含めて、期限がない状態での決断は難しすぎます。そう思っていても、会社に強く言えないんですよね。カップさん、海外赴任者は働かせ放題となってしまうようなところがありませんか?

そうですね。それはよい指摘ですね。会社に対して強く言えない。なぜ強く言えないかというと、日本の終身雇用の中では、辞めたら他の会社に移りにくいと会社も従業員も思っているからでしょう。ですから、日本では従業員が弱い立場にいるわけですね。私が聞いたところによると、日本の労働ルールによると、正社員に異動命令が下ったら、ノーと言えばそれは辞めますと言うことと同じに見なされるみたいですね。それは会社が権力を悪用してしまうことになりますね。

そうですね。日本では正社員には、職種や勤務地などが限定された雇用契約の社員でない限り、会社の配置転換命令権は強く肯定されています。
また、海外赴任となれば、日本との時差で夜遅くに会議をする場合も多く、結局、長時間労働になってしまっています。日本の労働法は海外に出向している社員であっても、そこでは適用外です。従業員にとってはなかなか苦しいですね。

そうね。でも、そういう意味では、こういうふうに言うのはちょっと失礼かもしれないですが、日本の人事部は会社にもっと強く言っていいと思います。人事という役割をきちんと果たしてほしい。日本の人事は、もっとがんばってください。

まぁ、そうですね。日本の人事は研修を企画したり能力開発したりはもちろん自分たちでやるのですが、大きい会社ですと、それぞれ何々事業部というところのほうが力があるので、その中に人事の動きを決める部門があります。本社の全体の人事部は、「海外駐在にこの人を送ります」と言われるだけで、人事に上がって来た時点では、もう何も言えない…みたいな感じが多いようですね。

そうそう。日本の企業の人事に対する考え方はアメリカとはかなり違っています。今の日本のビジネスにとっては、知的労働はとても重要です。ですから、知的労働を管理する時には、人を人間として扱うべきですね。機械ではなくて。よい人材の確保が今後ますます課題になります。そんな中でアメリカでは人事の役割はかなり重要になってきています。人事は力があって組織の中で発言力のある部署であるべきですけど、日本では企業も人事をそのように考えていないし、人事の人は自分自身がその役割にいると感じていない。実はこれが多くの問題の根本だと思います。

それから、海外に仕事で出ている社員であっても、結局健康を損ねたりとか、ストレス過多になったりしないように本社が理解してあげるようにするしかないのかもしれないですね。日本の法律の範囲からは外れるとしても。
特に、先進国への赴任だと出す側も気軽に考えてしまって、「ドイツいいね。きれいな国でしょ」「スウェーデンいいでしょ。楽しいでしょ」と、問題が何もないように思ってしまいます。でも、逆に欧米のほうが大変なことは多くて、現地化が進んでいるから、駐在員からすると自分の居場所を作らなければいけない、言葉も日本語に合わせてくれることはないので、ストレスが結構多いのです。なのに、会社から、「給料もいっぱい払っているし、あちこち観光行けるでしょ、楽しんでるじゃない?」みたいに言われると、赴任した人はほんとうにがっくりきてしまう、という話はきいています。
例えば、アジアの国ではハードシップ手当が出るなど金銭的にも余裕があるし、仕事が終わってから夜に出かけるところもいろいろあって時間をつぶすことができます。しかし、ヨーロッパ赴任ですと夜は家に帰って家族で過ごす国なので、それこそ単身赴任だと一人だとますます孤独感が強まってしまいます。そういったしんどさも考える必要があると思います。

そうですね、アメリカも、大都市部以外はそうなりやすいですね。

やはり、本社の人事の人がそういう問題意識をもって、定期的に状況を見に来て直接話をする機会を作った方がいいのではないでしょうか。経営層の人は海外に来ても通り一遍の視察しか行わないのでわからないですよね。赴任している人達も役員の前で不満等、よほど信頼していたり、意見を言えば対応してくれる人だと考えていたりしない限り、機嫌を損ねるようなことは言わないです。我慢していますから。また、赴任先で立場が上の人は、日本に帰って来る機会も多いので文句も言えますけれど、若い下のほうで苦しんでいる人達は、そういうことを言う場が少ない、聞き出してくれる機会もない。自分で言えばいいんですけど、みんなおとなしいのでなかなか言わず、突然「辞めます」ということになってしまいます。赴任中に辞めてしまう人もいますし、帰って来て早々に辞める人達は結構たくさんいます。

それはほんとうにもったいないこと!せっかく海外に赴任するほどの実力がある人なのに、費用もかけて海外にだしたのに、丁寧に聞き取りなどをしていないばかりに辞められてしまうなんて!! 外国語もできて海外のビジネスがわかる人材はこれからますます必要です。日本の本社は人材をもっと大事にしてリテンション(人材の維持)に力を入れた方がいいと思いますよ。

この対談に興味を持ったあなたへ

私たちの共著が出ました!

書籍情報

すっきりわかる!
海外赴任・出張 外国人労働者雇用
税務と社会保険・在留資格 異文化マネジメント
著者:
藤井 恵
三菱UFJリサーチ&コンサルティング株式会社 税理士
ロッシェル・カップ
ジャパン・インターカルチュラル・コンサルティング社長
定価:2,200円(税込)