遺言はいらないと思っていた

少額でももめてしまった
山田家のストーリー

父、一郎はがんを患い、病状が急速に悪化し亡くなってしまった。遺言書はない。遺産相続にあたり、長男の元彦一家は賃貸暮らしなので、一郎のマンションに引っ越すことを決める。「それにしても古いな。リフォームが必要だ。代金は親父の預金ですべてまかなおう」と元彦。長女の花子に相談することはなかった。

娘の花子は他県に住まいがあり、一郎のことは弟の元彦一家に任せきりだった。「義姉さんは何もしなかった。義姉さんに財産は渡さない」という元彦の妻加奈子の視線がある。納得いかない花子。あたりに重苦しい雰囲気が漂う四十九日の法要になってしまった…。

亡くなった一郎は
どうしてほしかったのか

一郎さんの遺産は約1500万円。
少額だからもめないだろうと思っていました。ただ、一郎さんは長男の元彦さん一家には、入院中、こう言っていました。
「私はね、なにより、週末、孫の茜がやもめ暮らしの家によく遊びに来てくれたのがうれしかったんだ」

一郎さんは自分の亡き後、このマンションに元彦さん一家の三人が暮らしてくれたら、それはよいことだと思っていました。

とはいえ、一郎さんにとって花子さんも可愛い娘。
「花子にも財産を少し分けてあげたい。それから、孫の鞠子は来年成人式、晴れ着は私が用意したい」

晴れ着の用意は亡き妻和子さんの願いでもありました。晴れ着代と合わせて300万円くらいは花子に渡したい、というのが一郎さんの願いでした。

遺留分のことも考えて遺言書を作る

遺言書がなかったばかりに、一郎さんの想いはかなわず、子どもたちにいやな想いが残ってしまいました。

一郎さんが亡くなる前に、下のような遺言書を書いていたら、このような想いを子どもたちにさせずにすみました。花子さんに晴れ着代などを残したければ、具体的に「300万円を…」と書くよりも、預金口座の全額を花子に渡す、としておいたほうがスムーズです。300万円程度ある預金は、相続の時点で残高が変わってしまいトラブルになり得るからです。

また、花子(子)さんは、遺留分といって、最低限もらえる相続額が法律で決まっています。遺留分に足りない金額を弟に請求することも法律上は可能です。ですが、そんなもめごとは一郎さんは望まないはずです。この場合、花子さんの遺留分は相続財産の2分の1の2分の1で375万円になりますので、375万円を別の口座にあらかじめ移しておくとよいでしょう。

法定相続分で分けるとしたら?

一郎さんの遺産を法定相続分で分けるとしたら、姉弟2人で等分することになります。

相続財産の総額は1,500万円なので、半々となると花子さんが750万円、元彦さんが750万円となります。

元彦さんがマンションだけ相続した場合、マンションの価額は1,000万円ですので750万円との差額、250万円は元彦さんの持っている預金から花子さんに渡すのが「法定相続分どおりに分ける」ということです。

遺産価額別の遺産分割事件数

財産の額が少なければもめないということではない!

1,000万円以下、5,000万円以下の争いの件数がとても多くなっています(約7割超)。

出典:平成29年度 司法統計

※本コラムは書籍「失敗しない遺言とお墓のはなし」から転載しています。

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