【カスハラ指針素案のポイント検討】
| 働く人が知っていると得をする社会保険の知識 第37回

2026年1月22日

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このコラムでは働く皆さんが知っていると得をする社会保険、労働保険、あるいは周辺の労働法関係のテーマを取り扱い、「イザ」というときにみなさんに使っていただくことを狙いとしています。したがって、「読んで終わり」ではなく「思い出して使う」または「周囲の人へのアドバイス」に役立てていただければ幸いです。

第35回でも取り上げましたが、昨年(令和7年)6月11日公布の改正労働施策総合推進法にカスハラ対策が盛り込まれています。この改正法では「企業等が措置を講ずるにあたっての指針を国が示し、具体的な政策を進めていく」とされましたが、この指針の大元になる【職場におけるカスタマーハラスメントに関して雇用管理上講ずべき措置等に関する指針の素案】が令和7年11月の労働政策審議会 雇用環境・均等分科会の資料として公表されています。今回は、その内容について、特に企業がどのような準備をしておけばよいか、という観点からポイントを検証していきます。

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【カスハラ指針素案のポイント検討】

「職場におけるカスハラの内容」

まず指針素案ではその基本となる職場のカスハラについて【①顧客等の言動であって、②その雇用する労働者が従事する業務の性質その他の事情に照らして社会通念上許容される範囲を超えたものにより、③労働者の就業環境が害されるものであり、①から③までの要素を全て満たすもの】と定義しています。が、ここでは以下の点に注意が必要です

A <顧客(抜粋)>

「取引の相手先」「施設利用者」も含まれるとされており、具体例として「取引先の担当者」「企業間での契約締結に向けた交渉を行う際の担当者」も含まれています。一般的な「お客」だけではないことに注意しなければなりません。

B <社会通念上許容される範囲を超えたもの(抜粋)>

 多数記載されていますがここでは特に会社の立場から注意すべき点を選んで紹介します。

言動の内容 対応が著しく困難な又は対応が不可能な要求 ・契約金額の著しい減額の要求をすること。
手段や態様 精神的な攻撃 ・店舗の物を壊すことをほのめかす発言やSNSへ悪評を投稿することをほのめかす発言によって労働者を脅すこと。

・労働者の人格を否定するような言動を行うこと。

・土下座を強要すること。

・盗撮や無断での撮影をすること

・大きな声をあげて労働者や周囲を威圧すること。
電子メール等を不必要に繰り返し送りつけること。
長時間に渡る居座りや電話で労働者を拘束

 

「事業主が雇用管理上講ずべき措置」

次に事業主が行うべき雇用管理上の必要な措置として以下の記載がなされています。

C <方針等の明確化>

やるべきこと 具体例
毅然とした態度で対応し、労働者を保護する旨の方針を明確化し、管理監督者を含む労働者に周知・啓発すること ・社内報、パンフレット、社内ホームページ等広報又は啓発のための資料等に職場におけるカスハラには毅然とした態度で対応し、労働者を保護する旨の方針を記載し配布する。

・職場におけるカスハラへの対処の内容と併せて研修、講習等の実施を行う。

D<職場におけるカスハラ対処の方法や手順>

職場においてカスハラが発生した際、労働者から管理監督者等に報告があった際の対応、報告を受けた管理監督者等の適切な対応方法について、その内容を以下のように定めるべきとしています。

以下、内容例(順番等は入れ替え)

<事前準備>

・職場におけるカスハラ対処の内容を定め、カスハラ規程と併せて、職場におけるカスハラの内容を労働者に対して周知しておく。

・顧客等への対応に関するマニュアル等に、職場におけるカスハラ内容及び職場におけるカスハラ対処の内容を記載し、労働者に対して周知しておく。

*上記内容を労働者に対して周知するための研修、講習等を実施する。

<発生時対応>

(1) 担当労働者から管理監督者等に直ちに報告し、その場の対応の方針について指示を仰ぐ。

注意点~可能な限り労働者を一人で対応させない。必要に応じて管理監督者等が対応する。

(2) 顧客等とのやり取りを録音・録画する

注意点~録音・録画については顧客等の個人情報を適切に取り扱う。

(3)担当労働者から十分な説明を行う。

注意点~要求が続く場合、一定の時間の経過をもって退店を求めたり、電話を切ったりすること。

(4)暴行、傷害、脅迫などの犯罪に該当し得る言動については、警察へ通報

注意点~現場対応が困難な場合においては、本社・本部等へ情報共有を行い、指示を仰ぐこと。

(5) 法的な手続が必要な場合には、法務部門等と連携し、弁護士へ相談すること。

E<相談対応>

労働者からの相談に対し、会社は以下の体制整備をすることとされています。

・相談窓口の整備…窓口設置、担当者選定、あるいは外部機関への委託

・窓口担当者等の整備…関係部署との連携の仕組構築、対応マニュアルの作成、担当者への研修

 

「社労士の視点から」

今回の指針素案については、従来の他のハラスメント対策とは一線を画す内容であると感じられます。まず、顧客については自社従業員が被害者になるだけではなく、関係先の会社従業員に対して行為者にもなってしまう危険性が考えられます。例えば仕入れ先に対する著しい値引き要求などです。これについては社員研修等での教育が必要でしょう。

次に、整備する事項が多数あるという点です。例えば、自社におけるカスハラの具体例や対応フローを想定した従業員マニュアルの作成と規程の整備や管理監督者の発生時対応手順確認や相談窓口整備です。また、今回は触れていませんがカスハラ発生の防止につなげるための顧客等への対応力の強化も求められており、指針確定後に準備し始めたのでは間に合わない可能性もあります。

 

 

 

まとめ

今回は指針の素案について取り上げましたが、そもそも事前に素案が出たということはそれだけ準備が大変であるということの裏返しであるとも考えられます。今年の10月に改正施行とも言われていますが、ぜひ今のうちから自社での調査を進めていただきたいと思います。

 

 

 

 

 

 

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特定社会保険労務士小野 純

一部上場企業勤務後、2003年社会保険労務士小野事務所開業。2017年法人化。企業顧問として「就業規則」「労働・社会保険手続」「各種労務相談」「管理者研修」等の業務に従事。上記実務の他、全国の商工会議所、法人会、各企業の労務管理研修等の講演活動を展開中。
主な著作:「従業員100人以下の事業者のためのマイナンバー対応(共著)」(税務研究会刊)、「社会保険マニュアルQ&A」(税研情報センター刊)、「判例にみる労務トラブル解決のための方法・文例(共著)」(中央経済社刊)、月刊誌「税務QA」(税務研究会)にて定期連載中。

» ホームページ 社会保険労務士法人ソリューション

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