第226回 債権放棄による貸倒れに係る留意点~債務者が行方不明であるときの対応を含む~

2021年10月1日

 

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■債権放棄による貸倒損失の計上

法人税基本通達9-6-1の(4)において、債務者の債務超過の状態が相当期間継続し、その金銭債権の弁済を受けることができないと認められる場合において、その債務者に対し書面により明らかにされた債務免除額について、貸倒損失の計上が認められる旨が示されています。その金銭債権の弁済を受けることができないと認められることが要件になりますので、債務者の資産状況、支払能力等について十分な調査を行うことは当然ですが、必要な回収努力を行った上で最終的に判断していくことになります。

■債務免除の法的効果の発生について

「その債務者に対し書面により明らかにされた」と記述されているのは、民法第97条において「意思表示は、その通知が相手方に到達した時からその効力を生ずる」と規定されており、その通知が相手方に到達した時に、債務免除の効果(=債権の消滅)が生じると解されるからであると考えられます。債務免除した場合の貸倒損失の損金算入要件を満たすためには、税務調査に備えて、債務免除をした証拠を残しておくことが必要不可欠であり、通常は内容証明郵便という形式で行われます。

 

■債務者に到達しない場合

内容証明郵便の場合、何らかの事情で、債務者の手元に届かないということもあり得ます。その場合、「意思表示の到達」がないということで、債務免除が有効に成立したのかどうかという問題が生じ得るものと考えられます。例えば内容証明郵便の受取拒否がある場合に、民法第97条のいう「到達」があると言えるかどうかが問題になり得ます。この「到達」の意義について、過去の判例(最判・昭和43年12月17日)が、相手方によって直接受領されまたは了知されることを要するものではなく、意思表示または通知を記載した書面が、相手方のいわゆる支配圏内に置かれることをもって足りるという解釈を示しています。したがって、相手方が直接受領しなくても、相手方の住所地のポストに投函されれば、相手方の支配圏内に置かれたと評価され、到達の効力が生ずると考えられます。

例えば内容証明郵便と同一内容の特定記録郵便を併せて送り、内容証明の文末に「なお、念のため同一内容の文書を特定記録郵便でも発送したことを申し添えます。」と記載し、封筒に日付を記載し、コピーを保存する対応を行う方法が考えられます。その郵便物は相手の意思にかかわらず、たとえ不在であっても、ポストに投函されます。その場合は、先の判例の「相手方の支配圏内」に置かれたと評価されることになります。

 

■債務者が行方不明の場合

債務者が行方不明である場合、内容証明郵便が返送されてしまい、相手先に到達しないため、相手方の支配圏内に置かれたとはいえず、「書面により明らかにされた」という通達(法基通9-6-1(4))の要件を欠くのではないかとの疑念を持つ向きがあります。

その場合に、民法第98条の「公示による意思表示」という制度を利用する方法も考えられます。官報掲載または区役所掲示より2週間で意思表示の効力が発生するとされるもので、裁判所が到達証明書を発行します。申請時、裁判所に相手方の所在についての調査報告書を提出する必要があります。ただし、裁判等で、相手方の所在が分からなかったことに過失があると証明された場合には無効になり得ます。あくまでも本当に相手が見つからない場合の証拠として利用する趣旨のものであり、相手方の受領拒否のみでは利用できない制度です。なお、費用は収入印紙代と郵便切手代を合わせて2,000円程度です。

 

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