第243回 試験研究費の税額控除制度に係る令和5年度税制改正の内容

2023年3月1日

 

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■はじめに

試験研究費の税額控除制度について、令和5年度税制改正により大幅な見直しが行われる予定です。そのポイントを解説します。なお、記述している内容は法案ベースのものであり、今後成立する法令等の内容を再確認していただければと思います。

 

■改正点

次の3つの改正内容からなっています。

  • 控除率、控除上限額の見直し(研究開発投資を促すためのインセンティブ強化)
  • オープンイノベーション型の対象範囲の追加
  • 試験研究費の範囲の見直し(サービス開発型試験研究費等)

 

改正後の取扱いは、令和5年4月1日以後に開始する事業年度に適用される見込みです(令和5年改正法案附則38条)。

 

■控除率の見直し

一般試験研究費の税額控除制度および中小企業技術基盤強化税制ともに、増減試験研究費割合が12%超か12%以下かによって税額控除率の計算式が区分されます。12%を超えると、税額控除額が逓増する仕組みになっています。上乗せ措置は、従前と変わりません。

 

一般試験研究費の税額控除制度

現行 修正後
〇増減試験研究費割合が9.4%超の場合(上限14%)

10.145%+(増減試験研究費割合-9.4%)×0.35

〇増減試験研究費割合が9.4%以下の場合(下限2%)

10.145%-(9.4%-増減試験研究費割合)×0.175

(上乗せ措置)

試験研究費割合が10%超の場合(上限10%)

上記控除率×{(試験研究費割合-10%)×0.5}を上乗せ

〇増減試験研究費割合が12%超の場合(上限14%)

11.5%+(増減試験研究費割合-12%)×0.375

〇増減試験研究費割合が12%以下の場合(下限1%)

11.5%-(12%-増減試験研究費割合)×0.25

(上乗せ措置)

試験研究費割合が10%超の場合(上限10%)

上記控除率×{(試験研究費割合-10%)×0.5}を上乗せ

 

中小企業技術基盤強化税制

現行 修正後
〇増減試験研究費割合が9.4%超の場合(上限17%)

12%+(増減試験研究費割合-9.4%)×0.35

〇増減試験研究費割合が9.4%以下の場合(下限12%)

一律12%

(上乗せ措置)

試験研究費割合が10%超の場合(上限10%)

上記控除率×{(試験研究費割合-10%)×0.5}を上乗せ

〇増減試験研究費割合が12%超の場合(上限17%)

12%+(増減試験研究費割合-12%)×0.375

〇増減試験研究費割合が12%以下の場合

一律12%

(上乗せ措置)

試験研究費割合が10%超の場合(上限10%)

上記控除率×{(試験研究費割合-10%)×0.5}を上乗せ

 

■控除上限額の見直し

控除上限額については、コロナ特例が期限をもって廃止される上で、変動措置が新設される点がポイントになります。

 

一般試験研究費の税額控除制度

現行 修正後
法人税額×25%

 

(上乗せ措置1)

試験研究費割合が10%超の場合(上限:法人税額×10%)

法人税額×(試験研究費割合-10%)×2を上乗せ

(上乗せ措置2)

研究開発を行う一定のベンチャー企業

法人税額×15%を上乗せ

上乗せ措置(コロナ特例)

令和3年4月1日から令和5年3月31日までの間に開始する各事業年度のうち基準年度比売上金額減少割合が2%以上であり、かつ、試験研究費の額が基準年度試験研究費の額を超える事業年度の控除税額の上限に当期の法人税額の5%を上乗せ

法人税額×25%

 

(上乗せ措置1)

同左

 

(上乗せ措置2)

同左

 

上乗せ措置(コロナ特例)

 廃止

(令和5年4月1日以後に開始する事業年度から廃止)

 

控除上限額の変動措置(新設)

〇増減試験研究費割合が4%超の場合

法人税額×(増減試験研究費割合-4%)×0.625%の上乗せ(上限:法人税額×5%)

→試験研究費割合が10%超の場合は、(上乗せ措置1)の控除上限額と比較して大きい方を選択

〇増減試験研究費割合が△4%超の場合

法人税額×(△増減試験研究費割合-4%)×0.625%の減額

(上限:法人税額×△5%)→最大で△5%減額

(注)太字が改正部分です。

 

中小企業技術基盤強化税制

現行 修正後
法人税額×25%

 

(上乗せ措置1)

試験研究費割合が10%超の場合

(上限:法人税額×10%)

法人税額×(試験研究費割合-10%)×2を上乗せ

(上乗せ措置2)

増減試験研究費割合が9.4%超の場合

法人税額×10%を上乗せ

 

 

上乗せ措置(コロナ特例)

令和3年4月1日から令和5年3月31日までの間に開始する各事業年度のうち基準年度比売上金額減少割合が2%以上であり、かつ、試験研究費の額が基準年度試験研究費の額を超える事業年度の控除税額の上限に当期の法人税額の5%を上乗せ

法人税額×25%

 

(上乗せ措置1)

同左

 

 

(上乗せ措置2)

増減試験研究費割合が12%超の場合

法人税額×10%を上乗せ

(上乗せ措置1)または(上乗せ措置2)のいずれかを上乗せ

上乗せ措置(コロナ特例)

 廃止

(令和5年4月1日以後に開始する事業年度から廃止)

(注)太字が改正部分です。

 

■オープンイノベーション型の拡充等(特別試験研究費に係る税額控除の見直し)

1.オープンイノベーション型の対象企業の拡充

幅広いベンチャー企業との共同研究・委託研究を促す観点から、オープンイノベーション型の対象範囲の拡充がされます。「特別新事業開拓事業者」との共同研究・委託研究が対象とされます(現行の研究開発型ベンチャー企業との共同研究・委託研究は除外)。「特別新事業開拓事業者」とは、産業競争力強化法の新事業開拓事業者のうち同法の特定事業活動に資する事業を行う会社(すでに事業を開始しているもので、一定の投資事業有限責任組合を通じてまたは国立研究開発法人から出資を受けていること、設立後 15 年未満で研究開発費の額の売上高の額に対する割合が 10%以上であること等の要件に該当するものに限る)で、その経営資源が、その特定事業活動における高い生産性が見込まれる事業を行うことまたは新たな事業の開拓を行うことに資するものであることその他の基準を満たすことにつき経済産業大臣の証明があるものをいいます。

 

特別新事業開拓事業者の主な要件

  • すでに事業を開始していること
  • 一定の投資事業有限責任組合を通じてまたは国立研究開発法人から出資を受けていること
  • 設立後15年未満であること
  • 研究開発費の額の売上高に対する割合が10%以上であること

改正前は、経済産業大臣の認定を受けたベンチャーファンド等による出資を受けたベンチャー企業に限定されていましたが、改正後はより広い範囲のベンチャー企業が対象になることが想定されています。

 

2.オープンイノベーション型の対象範囲の拡大

企業が博士号を保有する高度な研究人材や研究業務経験者を外部から積極的に雇用することを促す観点から、オープンイノベーション型の試験研究の類型に、一定の要件を満たした試験研究に係る「新規高度研究業務従事者」に係る人件費が対象とされます。「新規高度研究業務従事者」とは、次の要件を満たすその法人の役員または使用人である者です。

  • 博士の学位を授与された者で、その授与された日から5年を経過していないもの
  • 他の者(その法人との間に一定の資本関係がある者を除く)の役員または使用人として10年以上専ら研究業務に従事していた者で、その法人(その法人との間に一定の資本関係がある者を含む)の役員または使用人となった日から5年を経過していないもの

 

■試験研究費の範囲の見直し

ビッグデータを活用した「サービス開発」のための試験研究費の範囲として、従来は新たにビッグデータを収集する場合のみが対象でしたが、既存のビッグデータの活用も対象として認められるものとされます。

また、従来はデザインに基づく「設計・試作」であって性能向上を目的としていなくても試験研究費の対象とされていましたが、性能向上を目的としないことが明らかな「設計・試作」は対象から除外されます。

 

 

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