第266回 中小企業経営強化税制の拡充
~令和7年度税制改正により、建物およびその附属設備も対象に~
2025年2月1日
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■令和7年度税制改正による拡充
令和7年度税制改正大綱に、中小企業経営強化税制の拡充措置が明記されました。売上高100億円超を目指す成長意欲の高い中小企業の設備投資に対してインセンティブを与える趣旨の措置が新設され、一定の要件を満たした建物およびその附属設備も対象になり得ます。
以下は、令和7年度税制改正大綱ベースの内容になります。今後の法案およびその成立をご確認いただければと思います。
■中小企業経営強化税制の内容
中小企業経営強化税制は、青色申告書を提出する中小企業者または農業協同組合等もしくは商店街振興組合(以下、「中小企業者等」といいます)で中小企業等経営強化法の経営力向上計画の認定を受けたものが、生産等設備を構成する機械装置、工具、器具備品、建物附属設備およびソフトウエアで、特定経営力向上設備等に該当するもののうち、一定の規模以上のものの取得等(取得または製作もしくは建設)をして、その特定経営力向上設備等を国内にあるその法人の指定事業の用に供した場合には、その指定事業の用に供した日を含む事業年度(解散(合併による解散を除く)の日を含む事業年度および清算中の各事業年度を除く)において、その特定経営力向上設備等の普通償却限度額との合計でその取得価額までの特別償却(即時償却)とその取得価額の7%(特定中小企業者等(注)の場合は10%)の税額控除との選択適用ができるとされるものです。
(注)資本金または出資金が3,000万円以下の法人、農業協同組合等、商店街振興組合および個人事業者をいいます。
生産等設備とは、例えば、製造業を営む法人の工場、小売業を営む法人の店舗または自動車整備業を営む法人の作業場のように、その法人が行う生産活動、販売活動、役務提供活動その他収益を獲得するために行う活動の用に直接供される減価償却資産で構成されるものをいいます。新品が対象であり、貸付けの用に供するものは対象になりません。
■対象となる特定経営力向上設備等とは
この税制措置の適用を受けることができる「特定経営力向上設備等」とは、経営力向上設備等のうち経営力向上に著しく資する一定のもので、その法人の主務大臣による認定を受けた経営力向上計画に記載されたものをいいます。中小企業経営強化税制の適用対象となる経営力向上設備等とは、中小企業等経営強化法に規定する次のA類型からD類型までのいずれかの設備をいいます。
経営力向上設備等
生産性向上設備
(A類型) |
収益力強化設備
(B類型) |
デジタル化設備
(C類型) |
経営資源集約化設備
(D類型) |
最低取得価額要件 | ||
販売開始時期 | 生産性向上要件 | |||||
機械装置 | 10年以内 | 旧モデル比で年平均1%以上生産性が向上 | 年平均5%以上の投資利益率が見込まれるものであることにつき経済産業大臣の確認を受けた投資計画に記載されたもの | 遠隔操作、可視化、自動制御化のいずれかを可能にする設備 | 修正ROAまたは有形固定資産回転率が一定以上上昇する経営力向上計画(事業承継等事前調査に関する事項の記載があるものに限る)を実施するために必要不可欠な設備 | 一台または一基当たり取得価額160万円以上 |
工具(A類型のみ測定工具および検査工具に限る) | 5年以内 | 一台または一基当たり取得価額30万円以上 | ||||
器具備品 | 6年以内 | 一台または一基当たり取得価額30万円以上 | ||||
建物附属設備 | 14年以内 | 一の取得価額60万円以上 | ||||
ソフトウエア | 5年以内 | 不要 | 一の取得価額70万円以上 |
■令和7年度税制改正による拡充措置
令和7年度税制改正大綱には、次のようにB類型についての拡充措置が盛り込まれました。すなわち、特定経営力向上設備等に、その投資計画における年平均の投資利益率が7%以上となることが見込まれるものであることおよび経営規模の拡大を行うものとして経済産業大臣が定める要件に適合することにつき経済産業大臣の確認を受けた投資計画に記載された投資の目的を達成するために必要不可欠な設備(機械装置、工具、器具備品、建物およびその附属設備ならびにソフトウエアで、一定の規模以上のもの)が追加されます。
経済産業大臣が定める要件は、次の要件とされます。
|
基準事業年度の売上高が10億円超90億円未満である事業者が、売上高 100 億円超および年平均 10%以上の売上高成長率を目指す投資計画を作成し、当該投資計画に基づいて売上高の増加に貢献する一定規模以上の設備投資を行い、設備の導入に伴い建物およびその附属設備の新設または増設をするものであること等の要件が求められており、それらの要件に適合することにつき経済産業大臣の確認を受けることも必要になります。
建物およびその附属設備の最低取得価額要件ですが、一の建物およびその附属設備の取得価額の合計額が1,000万円以上のものが対象になります。
なお、上記の設備には、医療保健業を行う事業者が取得等をするものおよび発電の用に供する設備で主として電気の販売を行うために取得等をするものを含みません。
■建物およびその附属設備の特別償却率または税額控除率
建物およびその附属設備の特別償却率はその取得価額の15%または25%とされ、税額控除率は1%または2%とされます。建物およびその附属設備を事業の用に供する事業年度(以下「供用年度」といいます)の給与増加割合が 2.5%以上である場合には、それぞれ 15%または1%とされ、供用年度の給与増加割合が5%以上である場合には、それぞれ25%または2%とされます。ただし、供用年度の給与増加割合が2.5%未満の場合または投資計画に記載された供用年度の給与増加割合が 2.5%未満の場合には、建物およびその附属設備については、特別償却および税額控除は適用できないこととされます。
■他の特例税制の適用制限
先に説明した経済産業大臣の確認を受けた中小企業者等は、その確認を受けた投資計画の計画期間中は、中小企業投資促進税制および中小企業者等の少額減価償却資産の取得価額の損金算入特例の適用を受けることができないこととされる点に留意する必要があります。
■その他の税制改正
第1に、A類型について、旧モデル比で経営力の向上の指標が年平均1%以上向上するものであるものの経営力の向上の指標について、単位時間当たり生産量、歩留まり率または投入コスト削減率のいずれかにより評価することとされます。工業会の証明書は、それらの指標に基づいて要件を満たすものであることのものになります。
第2に、B類型について、その投資計画における年平均の投資利益率が5%以上となることが見込まれるものであることにつき経済産業大臣の確認を受けた投資計画に記載された投資の目的を達成するために必要不可欠な設備の投資利益率を7%以上に引き上げるものとされます。
第3に、従前のC類型は廃止されます。令和7年3月31日をもって終了します。
第4に、暗号資産マイニング業の用に供する設備は対象外とされます。
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