遺言書に負債についての記載がない場合の債務の取扱いについて

2022年9月6日

 

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遺言書に負債についての記載がない場合の債務の取扱いについて

[質問]

【前提】

被相続人:父

相続人:母、長男、次男の3人。(母は高齢で認知症(意思能力なし))

遺言公正証書:被相続人は遺言公正証書を残していました。

その内容は、「駐車場として賃貸している土地(2,000万円相当)を次男に相続させる。上記駐車場用地以外の一切の財産を長男に相続させる。」との内容で、負債の承継についての記載はありません。

遺産:収益物件(オフィスビル2億円相当)

預貯金約8,000万円

銀行借入5,000万円

上記銀行借入は、上記収益物件を購入した際の借入

収益物件には抵当権が設定されています。

長男と次男の合意

次男は、遺言の内容に不満は一切抱いておらず、また、銀行借入については遺産の大半を相続する長男が承継することで、長男・次男とも納得しています。

また、銀行も借入の返済原資は、収益物件からの賃料であるため、収益物件を相続する長男が債務を承継し、母及び次男については免責とすることを承諾しています。

 

【質問】

本件では、遺言には債務を誰に承継させるのかについて記載がなく、また、母が重度の認知症であるため、相続人3名で債務の承継に合意することができません。

銀行からは、母が意思表示できないのであれば「長男に5,000万円を融資するので従来の父名義の借入は一度完済してください。」との提案を受けています。

銀行が提案する処理をしても「債務者の承諾があったもの」とされ、課税上問題なく「長男が債務を引き継ぎ、他の相続人は債務を免れる。」との認識でよいでしょうか。

厳密には承諾をしていないので「法定相続分の弁済義務を負う」とされますと、母へ2,500万円、二男へ1,250万円の贈与があったことになってしまうのではないと危惧しています。

 

[回答]

1 可分債務は、法定相続分により分割承継するのが原則です。このため、当事者間の合意なく1人の相続人が弁済した場合において、他の相続人が分割承継した債務について負担しない場合は、ご心配されるように、他の相続人に対して贈与税課税の問題が生じると考えます。

本件の場合は、母が認知症で、相続人間での合意はできない状況とのことですが、長男が債務を負担することについて、銀行も承諾し、長男も二男も納得している中で、上記のような原則的な考え方を適用して贈与税課税を云々するのは、実態に即したとはいえないと考えます。

 

2 相続の一般的な効力について「相続人は、相続開始の時から、被相続人の財産に属した一切の権利義務を承継する。」(民法896)とされています。 この場合の「権利」とは一般的に「財産」と、また、「義務」とは「債務」と考えられている。つまり、相続によって被相続人から相続人に承継されるものには、積極的な財産 (プラスの財産)のみならず、消極的な財産(マイナスの財産)も含まれる。」とされています。

そうすると、遺言の解釈の問題ですが、「上記駐車場用地以外の一切の財産を長男に相続させる。」との文言中の「一切の財産」とは、債務も含むと解釈するのが、被相続人の意思に合致し、実態に即したものになると考えられます。

この点については、相続させる旨の遺言で特定の者に債務を集中させることについて、平成21年3月24日付最高裁判決では「相続人のうちの1人に対して財産全部を相続させる旨の遺言により相続分の全部が当該相続人に指定された場合,遺言の趣旨等から相続債務については当該相続人にすべてを相続させる意思のないことが明らかであるなどの特段の事情のない限り、当該相続人に相続債務もすべて相続させる旨の意思が表示されたものと解すべきであり、これにより、相続人間においては、当該相続人が指定相続分の割合に応じて相続債務をすべて承継することになると解するのが相当である。」として肯定されています。本件もこれに倣って判断するのが相当と考えます。

したがって、本件は、長男が相続させる旨の遺言により債務を承継しているとして、相続税の計算を行うのが相当と考えます。課税当局、銀行と協議してみてはいかがでしょうか。

 

(税理士懇話会・資産税研究会事例より)

 

 

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