被相続人の居住用財産の譲渡における譲渡の対価の額の判定

2024年4月22日

 

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被相続人の居住用財産の譲渡における譲渡の対価の額の判定


[質問]

父、母、子3人の家族で、平成25年の父死亡の相続の遺産分割において、父所有の自宅の土地・家屋を母2分の1、子がそれぞれ6分の1を相続しました。

令和4年に母が死亡し、その遺産分割において母の持分を子がそれぞれ3分の1ずつ相続しました。

それにより自宅の土地・家屋の所有は子3人がそれぞれ3分の1となりました。

今般、その土地・家屋を譲渡することとなったのですが、全体の譲渡金額が1億5千万円です。

被相続人の居住用財産の譲渡の特例の適用については売却代金が1億円という要件がありますが、今回の譲渡では特例の対象となる部分の譲渡は母から相続した部分である全体の2分の1で、売却金額としては1億5千万円の2分の1の7,500万円となり、当該特例の適用要件を満たすと考えますがいかがでしょうか(他の要件については満たすものとします)。

 

 

 

[回答]

1 特例の対象となる「被相続人居住用家屋」

被相続人の居住用財産(空き家)に係る譲渡所得の特別控除の特例(以下「空き家の譲渡所得の特例」といいます。)の対象となる「被相続人居住用家屋」とは、相続の開始の直前において被相続人の居住の用に供されていた家屋で、次の3つの要件すべてに当てはまるもの(主として被相続人の居住の用に供されていた一の建築物に限ります。)をいいます(租税特別措置法第35条第4項第1号~第3号)。

⑴ 昭和56年5月31日以前に建築されたこと。

⑵ 区分所有建物登記がされている建物でないこと。

⑶ 相続の開始の直前において被相続人以外に居住をしていた人がいなかったこと。

 

2 特例の対象となる「被相続人居住用家屋の敷地等」

空き家の譲渡所得の特例の対象となる「被相続人居住用家屋の敷地等」とは、相続の開始の直前において被相続人居住用家屋の敷地の用に供されていた土地又はその土地の上に存する権利をいいます(租税特別措置法第35条第4項)。

 

3 特例の適用を受けるための要件

⑴ 譲渡者が、相続または遺贈により被相続人居住用家屋及び被相続人居住用家屋の敷地等を取得したこと(租税特別措置法第35条第3項)。

⑵ 次のイ又はロの譲渡をしたこと(租税特別措置法第35条第3項第1号、第2号)。

イ 相続若しくは遺贈により取得した被相続人居住用家屋又は被相続人居住用家屋とともに相続若しくは遺贈により取得した被相続人居住用家屋の敷地等を譲渡したこと。

この場合、被相続人居住用家屋は次の①及び②の要件を、被相続人居住用家屋の敷地等は次の①の要件を満たす必要があります。

① 相続の時から譲渡の時まで事業の用、貸付けの用または居住の用に供されていたことがないこと。

② 譲渡の時において一定の耐震基準を満たすものであること。

ロ 相続または遺贈により取得した被相続人居住用家屋の全部の取壊し等をした後に被相続人居住用家屋の敷地等を譲渡したこと。

この場合、被相続人居住用家屋は次の①の要件を、被相続人居住用家屋の敷地等は次の②及び③の要件を満たす必要があります。

① 相続の時から取壊し等の時まで事業の用、貸付けの用または居住の用に供されていたことがないこと。

② 相続の時から譲渡の時まで事業の用、貸付けの用または居住の用に供されていたことがないこと。

③ 取壊し等の時から譲渡の時まで建物または構築物の敷地の用に供されていたことがないこと。

⑶ 相続の開始があった日から3年を経過する日の属する年の12月31日までに譲渡したこと(租税特別措置法第35条第3項)。

⑷ 譲渡の対価の額が1億円以下であること(租税特別措置法第35条第3項)。

 

4 譲渡の対価の額の判定

ご照会の事例では、上記3⑷の譲渡の対価の額が1億以下であること以外の要件は満たしているということですので、「その譲渡の対価の額が1億円を超えるかどうか」について検討します。

空き家の譲渡所得の特例は、被相続人居住用家屋又は被相続人居住用家屋の敷地等を取得した相続人(以下「居住用家屋取得相続人」といいます。)が、その相続の時から特例の適用を受ける方のその特例の適用を受ける譲渡(以下「対象譲渡」といいます。)をした日の属する年の12月31日までの間に、その対象譲渡をした資産と相続の開始の直前において一体として被相続人の居住の用に供されていた家屋又はその家屋の敷地(以下「対象譲渡資産一体家屋等」といいます。)の譲渡(以下「適用前譲渡」といいます。)をしている場合において、その適用前譲渡に係る対価の額とその対象譲渡に係る対価の額との合計額が1億円を超えることとなるときは、適用しないとされています(租税特別措置法第35条第5項)。

したがって、例えば、譲渡をした被相続人居住用家屋又は被相続人居住用家屋の敷地等に居住用家屋取得相続人となる他の共有者がいる場合には、その共有者の譲渡も「適用前譲渡」に係る対価の額になるため、他の共有者の譲渡に係る対価の額も含めて1億円を超えるかどうかの判定を行うことになります(租税特別措置法通達35-20《その譲渡の対価の額が1億円を超えるかどうかの判定》(1)注書き)。

また、租税特別措置法第35条第5項の規定は、適用前譲渡(及び適用後譲渡)の対象となる対象譲渡資産一体家屋等について、被相続人から相続又は遺贈により取得したものに限っていませんので、居住者家屋取得相続人が相続の開始直前において所有していた譲渡資産も「対象譲渡資産一体家屋等」に含まれるとされています(租税特別措置法通達35-22《「対象譲渡資産一体家屋等」の判定》(1))。このため、被相続人の相続開始前から所有していた持分に係る譲渡に係る対価の額も含めて1億円を超えるかどうかの判定を行うことになります。

以上のことから、ご照会の事例では、適用前譲渡に係る対価の額(子3人が平成25年に父から相続により取得した被相続人居住用家屋又は被相続人居住用家屋の敷地等の持分各6分の1)とその対象譲渡に係る対価の額(子3人が令和4年に母から相続により取得した被相続人居住用家屋又は被相続人居住用家屋の敷地等の各6分の1)との合計額が1億円を超えることから、その家屋と敷地を譲渡した子3人は、空き家の譲渡所得の特例の適用を受けられないものと考えられます。

 

 

(税理士懇話会・資産税研究会事例より)

 

 

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