株価評価における借地権の考え方

2024年7月17日

 

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株価評価における借地権の考え方


[質問]

A法人の株主は甲及び乙であり、乙が代表者になっています。保有株式数は甲が40%、乙が60%です。

甲は自己の所有する土地を賃貸借契約によりAに貸し付けており、契約にあたり無償返還の届を連名で所轄税務署に提出しています。

乙は、令和5年10月に死亡し乙の相続が開始しました。A社の株式評価における純資産の計算において、乙は土地の所有者でもないのに借地権相当額の20%を純資産の額に借地権として計上しなければならないのでしょうか。

土地所有者の所有する株式の評価計算であるならば、土地の評価において無償返還の届が提出されているとしても借地権相当額として20%の減算ができるので、この見返りとして、その20%を株式の純資産の計算において加算することにより均衡を図るのであり、土地所有者が被相続人でなければ20%相当額を純資産に加算する必要はないと考えますがいかがでしょうか。

将来、甲は生前に所有株式を全て子供丙に贈与して、甲の相続開始時点では株を保有していない場合にも、甲がA社に貸し付けていた土地の評価計算は20%相当額を減算してよいものかについても教えてください。

 

 

[回答]

1 相当地代通達8《「土地の無償返還に関する届出書」が提出されている場合の貸宅地の評価》は、被相続人が同族関係者となっている同族会社に対し土地を貸し付け、当該土地について無償返還届出書が提出されている場合には、相当地代貸宅地通達(昭和43年10月28日付け直資3-22ほか「相当の地代を収受している貸宅地の評価について」をいう。)の適用がある旨定めています。そして、相当地代貸宅地通達は、この場合には、当該同族会社の株式の評価上、当該土地の自用地としての価額の20%に相当する金額(借地権の価額)を同社の純資産価額に算入する旨定めています。

これは、①被相続人が同族関係者となっている同族会社に対し土地を貸し付けている場合には,当該被相続人が自ら当該土地を利用している場合と実質的に変わりがないにもかかわらず、前者の場合は,相続税の計算上、自用地としての価額の80%に相当する金額で評価される一方で、後者の場合には、相続税の計算上、自用地としての価額の100%に相当する金額で評価されるという課税上の不公平が生じるため、当該土地の価額を個人と法人を通じて100%顕在させることが課税の公平上適当であると考えられること、②無償返還届出書の提出があるとしても、借地借家法によって保護される借地権の存在が否定されるものでないことから、当該同族会社の株式の評価上、当該土地の自用地としての価額の20%に相当する金額を、借地権の価額として、同社の純資産価額に算入することとしたものであると解されています(東京地裁平成27年7月30日判決)。

 

2 ご照会のケースは、被相続人乙はA法人の株式を保有していたものの、乙が所有している土地をA法人に無償返還の届出に基づき貸し付けているわけではないことから、そもそも相当地代通達8の適用はありません。

そうすると、貴見のとおりA法人の1株当たりの純資産価額を評価するに当たり、甲が貸し付けている土地の自用地としての価額の20%相当額についてA法人の純資産価額に算入する必要はないと考えます。

 

3 次に、将来、甲がその子に、A法人の株式を贈与した場合ですが、相当地代通達8と同様な趣旨で設けられている相当地代通達6《相当地代を収受している場合の貸宅地の評価》の注書の取扱いが、贈与のケースに適用されるか否か争われた裁判例等(福岡高裁宮崎支部平成19年2月2日判決、平成27年3月25日公表裁決)では、相当地代通達6の注書の制定趣旨は、相当の地代を収受して同族会社に土地を賃貸する方法を採る場合と権利金及び通常の地代を収受して同族会社に土地を賃貸する場合とで、課税の取扱い上不公平が生じないようにしたものであることなどからすると、同社の株式等の相続又は遺贈の場合に限らず、贈与の場合であっても、その適用があると判示等されています。

そうすると、甲がその子に、A法人の株式を贈与した場合には、相当地代通達8の適用があると考えます。

 

 

(税理士懇話会・資産税研究会事例より)

 

 

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