所得税基本通達59-6における土地保有特定会社の取扱い
2025年2月18日
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所得税基本通達59-6における土地保有特定会社の取扱い
[質問]
取引相場のない株式の評価のうち、土地保有特定会社の判定について質問します。
相続税法上の取引相場のない株式の評価においては、評価会社が中会社に該当し土地保有割合が90%未満のため、土地保有特定会社には該当しません。
一方、所得税法上の取引相場のない株式の評価(所通59-6)においては評価対象者が中心的な同族株主に該当するため、その者が保有する取引相場のない株式は小会社に該当するものとして評価することになります。この場合、評価会社の土地保有特定会社の判定は財通189(3)の小会社に準じて、その評価会社の帳簿価額に応じて判定することになりますか。
所通59-6は所得税の考え方から一定程度の純資産価額を加味して評価することを求めているため中心的な同族株主が保有する株式の評価を小会社に準じて算定するだけであり、しんしゃく割合の考え方同様に土地保有特定会社の判定も財通178の区分に応じた会社規模(本件では中会社)に応じて判定しても差し支えないでしょうか。
[回答]
1 個人が取引相場のない株式を法人に譲渡する場合の価額
個人が取引相場のない株式を譲渡する場合、所得税法上その価額(時価)が問題となるのは、同法第59条《贈与等の場合の譲渡所得等の特例》に該当する資産の譲渡、いわゆる「みなし譲渡」に該当する場合が考えられます。
それでは、個人が法人に取引相場のない株式を譲渡する場合、その所得税法上の価額(時価)をどのように算定するかですが、所得税法基本通達59-6《株式等を贈与等した場合の「その時における価額」》の定めにより算定した価額によるものとされています。
2 所得税法上の取引相場のない株式の価額の算定方法
ご承知のとおり、所得税基本通達59-6の(2)は「当該株式の価額につき財産評価基本通達179の例により算定する場合(同通達189-3の⑴において同通達179に準じて算定する場合を含む。)において、当該株式を譲渡又は贈与した個人が当該譲渡又は贈与直前に当該株式の発行会社にとって同通達188の⑵に定める「中心的な同族株主」に該当するときは、当該発行会社は常に同通達178に定める「小会社」に該当するものとしてその例によること。」とされています。
この規定の趣旨は、令和2年9月30日国税庁資産課税課「『所得税基本通達の制定について』の一部改正について(法令解釈通達)の趣旨説明」の別添において、次のように説明されています。
「中心的な同族株主」とは、議決権割合が25%以上となる特殊関係グループに属する同族株主をいうところ、評価会社が「中心的な同族株主」で支配されているような場合において、同族株主にとってその会社の株式の価値は、その会社の純資産価額と切り離しては考えられないところではないかと考えられ、また、本通達の制定に先立って行われた取引相場のない株式の譲渡に関する実態調査においても、持株割合が高い株主ほど純資産価額方式による評価額により取引されている傾向があったことが確認されている。このため、「中心的な同族株主」の有する株式については、たとえその会社が大会社又は中会社に該当する場合であっても、小会社と同様に「純資産価額方式」を原則とし、選択的に「類似業種比準方式と純資産価額方式との併用方式」による算定方法によることとしている。
一方、「類似業種比準価額」を算出する計算において類似業種の株価等に乗ずる「しんしゃく割合」を会社規模に応じたものとしている趣旨は、次のとおりである。 類似業種比準方式による評価額は、評価会社の実態に即したものになるように、評価会社の事業内容が類似する業種目の株価を基として、評価会社と類似業種の1株当たりの①配当金額、②利益金額及び③純資産価額の3要素の比準割合を乗じて評価することとしている。しかしながら、株価の構成要素としては、上記の3要素のほか、市場占有率や経営者の手腕などが考えられるが、これらを具体的に計数化してその評価会社の株式の評価に反映させることは困難である。また、 評価会社の株式は現実に取引市場を持たない株式であることなどのほか、大半の評価会社はその情報力、組織力のほか技術革新、人材確保、資金調達力等の点で上場企業に比し劣勢にあり、一般的にその規模格差が拡大する傾向にあるといえる社会経済状況の変化を踏まえると、評価会社の規模が小さくなるに従って、上場会社との類似性が希薄になっていくことが顕著になってくると認められる。このため、この上場会社と評価会社の格差を評価上適正に反映させるよう、大会社の「0.7」を基礎として、中会社を「0.6」、小会社を「0.5」とするしんしゃく割合が定められている。
以上のとおり、本通達の⑵において「中心的な同族株主」の有する株式の価額を、評価会社が「常に『小会社』に該当するものとして」財産評価基本通達179の例により算定することとした趣旨と、類似業種比準価額を求める算式におけるしんしゃく割合を評価会社の規模に応じたしんしゃく割合としている趣旨は異なっており、本通達の⑵において「中心的な同族株主」の有する株式の価額を、評価会社が「常に『小会社』に該当するものとして」 財産評価基本通達179の例による算定方法を用いることとした趣旨からしても、本通達の⑵は、財産評価基本通達180の類似業種比準価額を算出する計算において類似業種の株価等に乗ずるしんしゃく割合まで小会社の「0.5」とするものではない。
一方で、財産評価基本通達では、土地保有特定会社の評価は、179《取引相場のない株式の評価の原則》により算定する際の前提となる評価会社の区分を定めた178《取引相場のない株式の評価上の区分》」のただし書きで、189《特定の評価会社の株式》の定めによって評価するとされ、179の評価の原則から除かれています。
以上のことから、所得税基本通達59-6の(2)の定めは、財産評価基本通達189の(3)の土地保有特定会社の判定まで、評価会社が大会社又は中会社に該当する場合であっても「小会社」とするものではないと考えられます。
(税理士懇話会・資産税研究会事例より)
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