【雇用調整助成金】
~知らないと危険!雇用調整助成金の今と今後~
働く人が知っていると得をする社会保険の知識 第2回
2023年2月22日
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このコラムでは働く皆さんが知っていると得をする社会保険、労働保険、あるいは周辺の労働法関係のテーマを取り扱い、「イザ」というときにみなさんに使っていただくことを狙いとしています。したがって、「読んで終わり」ではなく「思い出して使う」または「周囲の人へのアドバイス」に役立てていただければ幸いです。
連載2回目は【雇用調整助成金】~知らないと危険!雇用調整助成金の今と今後というテーマでお届けします。
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【雇用調整助成金】
~知らないと危険!雇用調整助成金の今と今後~
あの頃は…
新型コロナが流行しはじめて3年。ようやく屋外でのマスク義務化が解除されるような議論がなされるようになりましたが、流行が開始した年は本当に大変でした。まだワクチンも開発されておらず、ひたすら予防と消毒、そして感染者の隔離と、近年体験したことのない大騒ぎとなりました。そして政府による「外出自粛」と「可能な限りの在宅勤務」、加えて「飲食店等の営業自粛」等の要請により、経済活動は大ダメージを受けました。あの頃は当事務所でも「顧問先の3割はなくなってしまうのでは…」と覚悟した時期でしたので、飲食業やサービス業の方々は本当に大変だったことと思います。
企業のお助け制度
新型コロナで通勤も自粛となれば在宅勤務しかありません。しかし、工場勤務者などは家に機械があるはずもなく、そもそも経済活動が低迷しきった状態では注文さえ入ってこなかったのですから会社の判断で自宅待機するしかありませんでした。しかし、自宅待機させるということは会社が命じたことになりますので、労働基準法における休業手当を1日あたり平均賃金の60%以上支払わなければなりません。100%よりはマシとはいえ、売上げが激減している状況下ではこの金額さえも厳しいものになりました。そこで白羽の矢が立ったのが「雇用調整助成金」です。
この助成金は景気の変動、産業構造の変化その他の経済上の理由により、計画的に休業する際、条件を満たした場合に限り、会社が負担した休業手当の補填的役割として給付金が支給される制度でしたが、これを今回の新型コロナ対策用に流用したのです。
支給要件緩和措置(緊急対応期間)の中身
この「雇用調整助成金」、本来は事前に休業計画を管轄ハローワークまたは管轄労働局の助成金センターに提出し、内容が審査されOKとなってから初めて休業が支給対象になるというもので、新型コロナが目の意前で急拡大し、企業存続が危ないという状況下にはとても対応できない内容でした。
そこで政府は「支給要件緩和措置」を設け、以下のような特例を期間限定(令和2年4月30日~6月30日)で認めて開始しました。
<緊急対応期間(特例期間)における具体的な緩和策(令和2年4月導入時)>
特例以外の場合の雇用調整助成金 | 緊急対応期間(特例期間) |
経済上の理由により、事業活動の縮小を余儀なくされた事業主 | 新型コロナウイルス感染症の影響 を受ける事業主(全業種) |
生産指標要件 3か月10%以上低下生産指標要件 |
生産指標要件 *1か月5%以上低下 |
雇用保険の被保険者が対象 | *雇用保険の被保険者以外も対象 →緊急雇用安定助成金 |
助成率 2/3(中小)1/2(大企業) | 助成率 4/5(中小)、2/3(大企業) (解雇等を行わない場合は 9/10(中小)、3/4(大企業) |
計画届は事前提出 | *計画届の事後提出を認める |
1年のクーリング期間が必要 6か月以上の雇用保険被保険者期間が必要 |
*クーリング期間を撤廃 保険者期間要件を撤廃 |
支給限度日数 1年100日、3年150日 | *同左+緊急対応期間 |
短時間一斉休業のみ | 短時間休業の要件を緩和 |
休業規模要件 1/20(中小)、1/15(大企業) | 休業規模要件を緩和 1/40(中小)、1/30(大企業) |
残業相殺 | *残業相殺を停止 |
教育訓練が必要な被保険者に対する教育訓練 助成率 2/3(中小)1/2(大企業) 加算額1,200円 |
助成率 4/5(中小)、2/3(大企業) (解雇等を行わない場合は 9/10(中小)、3/4(大企業)) 加算額 2,400円(中小)、1,800円(大企業) |
上記のうち助成率や1日あたりの上限金額を調整しつつ、これまで緊急対応が継続されてきましたが、これが令和4年11月30日をもって終了し、その後の経過措置も令和5年3月31日で終了予定と厚生労働省から発表されています。
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/koyou/kyufukin/pageL07.html
雇用調整助成金の今後
令和5年4月1日以降の雇用調整助成金の正確な中身についてはこれからですが、おそらくは原則の制度に近いものになるのではと思われます。注意ポイントは上記表の*マークの部分です。これまでは休業をした後に提出すればよかったものが、今後は事前の計画時から提出が必要になるほか、対象日数が大幅に減少し、かつ、一度取得してしまうとクーリング期間を空けないと取得できない、といった箇所がどうなるかが要注目ポイントです。今後のご相談は最寄りのハローワークまたは管轄労働局の助成金センターが窓口になります。
上記の実行後はこれまでのように「とりあえず仕事がなくても休業させておこう」といった考えは通用しなくなると思われますので、労働力が余った状態が今後も続くことが見込まれる会社の場合には、希望退職の募集など本当の意味での雇用調整も検討が必要でしょう。
雇用保険料の改正
なお、雇用調整助成金の財源は主に雇用保険の保険料収入から賄われていたため、令和4年度に続き令和5年4月から再度の値上げになります。
雇用保険料率表(令和5年4月~令和6年3月)
*1 ()内の下段は令和4年10月~令和5年3月の雇用保険料率表
*2 令和4年度は4月と10月の2度にわたって雇用保険料率が改定されましたので、令和5年度の年度更新時については、「確定保険料算定内訳」を使用した上で、「労働保険概算・確定申告書」を作成することになる見込みです。
まとめ
長きにわたって行われてきた雇用調整助成金ですが、いよいよ緊急対応期間も終わりを告げようとしています。今後はこの助成金に頼らず、本来の営業収益や人員構成で対応していくことが求められる時代になりそうです。
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特定社会保険労務士小野 純
一部上場企業勤務後、2003年社会保険労務士小野事務所開業。2017年法人化。企業顧問として「就業規則」「労働・社会保険手続」「各種労務相談」「管理者研修」等の業務に従事。上記実務の他、全国の商工会議所、法人会、各企業の労務管理研修等の講演活動を展開中。
主な著作:「従業員100人以下の事業者のためのマイナンバー対応(共著)」(税務研究会刊)、「社会保険マニュアルQ&A」(税研情報センター刊)、「判例にみる労務トラブル解決のための方法・文例(共著)」(中央経済社刊)、月刊誌「税務QA」(税務研究会)にて定期連載中。