【雇用保険 高年齢求職者給付金】
~65歳定年退職者はなぜ1か月前の退職を希望するのか~
働く人が知っていると得をする社会保険の知識 第3回

2023年3月29日

 

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このコラムでは働く皆さんが知っていると得をする社会保険、労働保険、あるいは周辺の労働法関係のテーマを取り扱い、「イザ」というときにみなさんに使っていただくことを狙いとしています。したがって、「読んで終わり」ではなく「思い出して使う」または「周囲の人へのアドバイス」に役立てていただければ幸いです。

連載3回目は【雇用保険 高年齢求職者給付金】~65歳定年退職者はなぜ1か月前の退職を希望するのか~というテーマでお届けします。

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【雇用保険 高年齢求職者給付金】
~65歳定年退職者はなぜ1か月前の退職を希望するのか~

65歳の節目

我が国で会社に雇用されている多くの従業員の方にとって、65歳という年齢は節目になっているのではないでしょうか。それは過去に高年齢者雇用安定法が65歳を一つの目安として定めたからと思われます。高年齢者雇用安定法は平成18年、平成25年、令和3年、と改正が加えられてきましたが、最初の平成18年の改正で以下のことが決められました。

<平成18年改正内容>

定年年齢を65歳未満としている事業主は、次の①から③の措置(高年齢者雇用確保措置)のいずれかを実施しなければならない。

①(65歳まで)定年年齢を引上げ

②(65歳まで)継続雇用制度(定年後再雇用)の導入(注)

③  定年の廃止

注)継続雇用制度(定年再雇用)については、会社が労使協定によって制度の対象となる者の基準を定め、基準に適合した者のみを対象としても措置を講じたものとみなす。

上記の改正により、会社は65歳までの①定年延長か、②継続雇用(定年後再雇用)、あるいは③定年の廃止、のいずれかを選択しなければならなくなり、結果として多くの企業は②の継続雇用制度(定年後再雇用)、次に65歳の定年延長を選択しました。

 

そして今の時代は…

その後、令和3年の高年齢者雇用安定法の改正により、以下のように70歳という数字が出てきています。

① 70 歳までの 定年年齢の引上げ

② 定年制の廃止

③ 70 歳までの継続雇用制度(再雇用制度・勤務延長制度)の導入

④ 70 歳まで継続的に業務委託契約を締結する制度の導入

⑤ 70 歳まで継続的に以下の事業に従事できる制度の導入

a.事業主が自ら実施する社会貢献事業

b.事業主が委託、出資(資金提供)等する団体が行う社会貢献事業

のいずれかの措置を講ずるよう努めることとされています。

しかし、文末にあるようにこの改正は「努力規定」です。これは「努力して下さい」というもので、努力しても実現できない場合は仕方がないとされる扱いです。そのため、多くの会社はいまだに65歳までの継続雇用制度(定年後再雇用)、あるいは65歳定年制を継続しています。

 

(通常の)65歳以降退職での給付内容

上記のように多くの会社では65歳までの継続雇用制度(定年後再雇用)、あるいは65歳定年制を継続していますので、何か特別なことがない場合は65歳到達で「契約期間満了」または「定年」で退職となります。

この退職した日以前の1年間に、雇用保険の被保険者期間が6か月以上ある場合、下記のように雇用保険から給付金が支給されます。

高年齢求職者給付金
要件 退職した日以前の1年間に、雇用保険の被保険者期間が6か月以上ある 65歳以降の失業で高年齢求職者給付金が支給される。
 

給付額

雇用保険の被保険者期間が
1年未満 基本手当日額30日分
1年以上 基本手当日額50日分

上記のように要件を満たして65歳を迎えて退職すると、高年齢求職者給付金が一時金として基本手当日額の50日分、または30日分給付の対象になります。

 

64歳11か月以降退職の給付内容

法律通りの運用であれば65歳の退職ですが、その1か月前の64歳11か月で退職したいという従業員が最近増加している感があります。おそらく理由は下記の失業給付(基本手当)の日数にあると考えられます。

 

失業給付(基本手当)
 

要件

定年退職・自己都合退職等離職  

退職した日以前の2年間に、雇用保険の被保険者期間が12か月以上ある
特定受給資格者*1
特定理由離職者*2
退職した日以前の1年間に、雇用保険の被保険者期間が6か月以上ある

上記のいずれかの条件を満たし、勤続年数で下記表該当日数となる。

 

被保険者として雇用された期間 1年未満 1年以上
5年未満
5年以上
10年未満
10年以上
20年未満
20年以上
定年退職・自己都合退職等 90日 120日 150日

特定受給資格者*1、特定理由離職者*2の場合

30歳未満 90日 120日 180日
30歳以上35歳未満 90日 120日 180日 210日 240日
35歳以上45歳未満 90日 150日 180日 240日 270日
45歳以上60歳未満 90日 180日 240日 270日 330日
60歳以上65歳未満 90日 150日 180日 210日 240日

 

*1 特定受給資格者…倒産、解雇等で離職

*2 有期雇用で契約更新を希望したものの、更新できずに離職等

 

比較の結果、大きな差が!

上記の65歳と64歳11か月を比較すると、例えば退職時に20年以上勤務して雇用保険に加入していた場合、65歳では高年齢求職者給付金として基本手当日額50日分が支給対象ですが、64歳11か月では基本手当日額150日分と3倍の差がついていることがわかります。従業員がなぜ期限の65歳を目前にして退職を希望するのかが理解できると思います。

 

注意すべきは会社側の対応

ここで注意しなければならないのが会社側の対応です。本人が64歳11か月で退職を希望した場合、会社の制度上は65歳定年、または継続雇用上限の65歳ですのでそれより前の退職になります。つまりは「自己都合」ということでの処理をしなければなりません。

また、60歳以降の継続雇用(定年再雇用)では多くの場合、1年間の有期雇用で65歳上限となっていると思いますが、従業員の中には64歳11か月になった際「1年更新の65歳までの有期雇用契約であったが、これを11か月で契約したことにしてくれないか?」と言ってくる方がいます。これは特定理由離職者*2に該当することを狙ってのことかもしれませんが、1年の契約だったものを11か月に改ざんして給付日数を増やそうとするのは正しい行為とはいえません。また、就業規則で「1年更新」と記載があるのに特定の雇用契約のみ11か月にすることはできません。規則を下回る雇用契約は無効だからです。解決策になるかはわかりませんが、あらかじめ規則を1年更新から6か月更新へと変更しておき、「本人の希望があれば(64歳以降は)6か月も選択できる」という規則にしておくということも有効かもしれません。64歳更新時で6か月契約、そして退職という選択肢を本人が採れば、退職時期は早まりますが64歳時点での退職となり、多めの受給日数に該当すると思われます。

 

まとめ

【会社側】 65歳と64歳11か月では退職時期は1か月しか違いませんが、給付日数は大きく変わります。しかし、だからと言って会社側が規則に違反するようなことをするのは望ましくありません。そのような申出には「自己都合扱いとなるがそれでも良いか?」と確認したうえで退職時期を決めていただきたいと思います。

【従業員側】 本文のように1か月前倒しすることで給付日数が大幅に増加する可能性がありますが、本来、65歳で終了するルール(契約)を自分の都合で前倒しするのですから自己都合退職です。定年が65歳の会社の場合、退職金額等が大幅に減額となるケースがあります。また、定年後再雇用で64歳から1年間の契約を締結しているのに、遡って11か月の契約内容に修正することは、正しい行為ではありません。短絡的に行動せず、よく検討した上でお決めいただきたいと思います。

 

 

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特定社会保険労務士小野 純

一部上場企業勤務後、2003年社会保険労務士小野事務所開業。2017年法人化。企業顧問として「就業規則」「労働・社会保険手続」「各種労務相談」「管理者研修」等の業務に従事。上記実務の他、全国の商工会議所、法人会、各企業の労務管理研修等の講演活動を展開中。
主な著作:「従業員100人以下の事業者のためのマイナンバー対応(共著)」(税務研究会刊)、「社会保険マニュアルQ&A」(税研情報センター刊)、「判例にみる労務トラブル解決のための方法・文例(共著)」(中央経済社刊)、月刊誌「税務QA」(税務研究会)にて定期連載中。

» ホームページ 社会保険労務士法人ソリューション

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