【雇用保険 失業等給付】
~離職票の離職理由を確認すべし~
働く人が知っていると得をする社会保険の知識 第4回

2023年4月21日

 

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このコラムでは働く皆さんが知っていると得をする社会保険、労働保険、あるいは周辺の労働法関係のテーマを取り扱い、「イザ」というときにみなさんに使っていただくことを狙いとしています。したがって、「読んで終わり」ではなく「思い出して使う」または「周囲の人へのアドバイス」に役立てていただければ幸いです。

連載4回目は【雇用保険 失業等給付】~離職票の離職理由を確認すべし~というテーマでお届けします。

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【雇用保険 失業等給付】
~離職票の離職理由を確認すべし~

終身雇用制度の崩壊

以前は新卒で入社し、定年まで同じ会社での雇用が続く終身雇用制度が我が国の特徴とされていましたが、今ではその形態は崩れ、転職によってステップアップやさらなる能力発揮を目指すなどは珍しいことではなくなってきました。しかし、その際に問題となるのが、「次の就職が決まるまでの期間をどうしのぐか」という問題です。退職する際に次の就職先が決まっていて空白なく転職した場合はともかく、一般的には転職活動中は収入がなくなるため、その間の生活費を考えておく必要があるわけです。

 

雇用保険の失業等給付

そのような時に頼りになるのが、雇用保険の「失業等給付」という制度です。失業等給付は、雇用保険の被保険者だった人が離職(退職)した際に、安心して仕事探しができるように失業期間中の生活費として給付金が支給される制度のことです。

失業等給付には詳しくは基本手当、求職促進給付、教育促進給付、雇用継続給付の4つがありますが、失業時にもらえる手当とは一般的に基本手当のことをいいます。 退職して働く意思と能力があるものの、再就職していない場合に給付されるもので、給付額は離職時の賃金水準と勤続期間に応じて決定します。

 

会社都合と自己都合

基本手当の受給においてよく問題となるのが、自分から辞めた(自己都合)のか、解雇や倒産等(会社都合)で辞めたのかという区分(理由)です。後者の場合、原則7日間の待期期間を過ぎればすぐに基本手当の支給対象になりますが、前者となると待機期間の後、さらに3か月間の給付制限期間が生じ、基本手当の支給が遅くなります。

影響が大きい給付日数

影響は給付制限期間の有無だけではありませんまた。自分から辞めた(自己都合)場合は離職の日以前2年間に被保険者期間が通算して12か月以上(賃金支払基礎日数が11日以上又は賃金支払基礎時間数が80時間以上で1か月カウント)あることが必要ですが、解雇や倒産等(会社都合)の場合は被保険者期間が6か月以上でも給付の対象になります。

もっと影響が大きいのが基本手当の「給付日数の差」です。自分から辞めた(自己都合)場合の給付日数は年齢に関係なく90日から150日ですが、解雇や倒産等(会社都合)の「特定受給資格者」や「特定理由離職者(有期雇用契約の期間が満了、かつ、当該更新がない、又は正当な理由のある者)」に該当した場合、年齢によっても異なりますが給付日数が90日から最長で330日の期間になります。

①「特定受給資格者」「特定理由離職者」

被保険者であった期間
1年未満 1年以上
5年未満
5年以上
10年未満
10年以上
20年未満
20年以上
30歳未満  

 

 

90日

90日 120日 180日 ー 
30歳以上
35歳未満
120日  

180日

210日 240日
35歳以上
45歳未満
150日 240日 270日
45歳以上
60歳未満
180日 240日 270日 330日
60歳以上
65歳未満
150日 180日 210日 240日

 

② ①以外

被保険者であった期間
1年未満 1年以上
5年未満
5年以上
10年未満
10年以上
20年未満
20年以上
全年齢 90日 120日 150日

 

「解雇等」には「労働者の判断によるもの」も含まれる

上記①の「特定受給資格者(倒産・解雇等)」のうちの「解雇等」には、【採用条件と事実が異なっていた、期日までに3分の1を超える額の給与が支払われなかった、連続3か月残業時間が45時間超だった、セクハラ・マタハラの事実を把握しながら雇用管理上の必要な措置を会社が講じなかった】等の事実があると労働者が判断した場合が含まれます。解雇等という扱いですが、上記のように労働者判断の場合も含まれることに注意が必要です。

また、同じく①の「特定理由離職者」には「有期雇用契約の期間が満了、かつ、当該更新がされない」という雇止めや、「正当な理由のある者」として、【体力の不足・心身の障害等による離職、家庭の事情が急変したことによる離職、配偶者等と別居生活を続けることが困難となっての離職、結婚・育児・事業所移転等により通勤困難となった離職等】が該当します。このように自分の体調不良や家庭の都合等で退職した場合でも、特定理由離職者として基本手当の日数が多くなるケースがあります。

 

離職票を確認する箇所と必要な申出

上記のように労働者の判断によるものでも、「特定受給資格者」や「特定理由離職者」に該当する場合があります。ハローワークでは主に会社発行の離職票で退職理由を判断しますので、事実通りに記載がされていなかった、または読み取れなかった場合は、一般的な「自分から辞めた(自己都合)」として処理されてしまう可能性があります。

例えば、離職票の離職理由で【5 労働者の判断によるもの「(1)職場における事情による離職」】の①~⑦(具体的理由)のいずれかに〇印がつけられていれば担当者は「特定受給資格者」ではないかと気づき、本人に詳しい理由を聞くと思いますが、【5「(2)労働者の個人的な事情による離職(一身上の都合、転職希望等)」】に〇印がつけられていれば、一般的な自己都合として処理される可能性が高いでしょう。

このことから会社から自分の離職票が送られてきた際は必ず離職理由の欄を確認し、正しい項目に〇または理由等が書かれていなかった場合は、ハローワークの担当官に自分から申出することが必要です。

 

まとめ

離職票の記載内容で基本手当の日数は大きく変わってしまいます。現在では以前のように「自己都合か会社都合か」という分類だけではなくなっていますので、会社担当者の方は会社所定の退職届に最初から「一身上の都合による」と印字された書式を渡すのではなく、退職理由の欄は空欄にしておき、届出された退職届の記載内容と実際の状況をヒアリングした上で離職票を作成されることをお勧めいたします。

 

 

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特定社会保険労務士小野 純

一部上場企業勤務後、2003年社会保険労務士小野事務所開業。2017年法人化。企業顧問として「就業規則」「労働・社会保険手続」「各種労務相談」「管理者研修」等の業務に従事。上記実務の他、全国の商工会議所、法人会、各企業の労務管理研修等の講演活動を展開中。
主な著作:「従業員100人以下の事業者のためのマイナンバー対応(共著)」(税務研究会刊)、「社会保険マニュアルQ&A」(税研情報センター刊)、「判例にみる労務トラブル解決のための方法・文例(共著)」(中央経済社刊)、月刊誌「税務QA」(税務研究会)にて定期連載中。

» ホームページ 社会保険労務士法人ソリューション

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