【労災保険の仕組み(1)】
~社会保険基礎シリーズ<1>~
働く人が知っていると得をする社会保険の知識 第6回
2023年6月22日
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このコラムでは働く皆さんが知っていると得をする社会保険、労働保険、あるいは周辺の労働法関係のテーマを取り扱い、「イザ」というときにみなさんに使っていただくことを狙いとしています。したがって、「読んで終わり」ではなく「思い出して使う」または「周囲の人へのアドバイス」に役立てていただければ幸いです。
過去5回まではトピック的なテーマを取り上げてきましたが、今回からは「社会保険基礎シリーズ」として、会社担当者の方が「これは知っておかなければならない」とする内容もお届けしたいと思います。もちろん、法改正含めトピック的な事項等も適宜挟んでまいりますので引き続きよろしくお願いいたします。
基礎シリーズ第1回目は【労災保険の仕組み(1)】というテーマでお届けします。
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【労災保険の仕組み(1)】
~社会保険基礎シリーズ<1>~
保険制度は自動ではない
今回扱う労災保険とは正式には「労働者災害補償保険」という名称になります(ここでは労災保険といいます)。「労働者」とあるよう、この保険は会社等で雇用される従業員の方が、仕事等(業務上)に起因してケガや病気になった際、必要な治療や費用を受けられる制度です。労働者にとって大変ありがたい制度になりますが、忘れてはならないのは保険という制度は原則として「自動ではない」ということです。勤務する会社が保険加入の手続きを行い、保険料を納めていることにより、「イザ」という時の役に立つのです。
すべての病院が対象になるわけではない
労災保険はどこの医療機関でも使えるというわけではありません。医療機関が労災保険を扱うためには各都道府県労働局長に医療機関から加入申請を行い、「労災指定医療機関」として登録されることが必要です。労働者が労災保険を使う場合、この労災指定医療機関を利用することが必要ですので、会社担当者の方はあらかじめ会社近くのどの医療機関が労災指定医療機関であるかを調べておき、会社で作業中にケガをした場合などには「○○病院に行って!」と即座に指示が出せるようにしておくと良いでしょう。
受診の場合も一言申し出を!
労災指定医療機関で受診した場合でも黙っていては労災保険の対象にはなりません。労災保険の適用を受けようと思ったら、病院の窓口等で「労災です!」と自己申告することが重要です。窓口で言われるままに保険証を出してしまうと、労災保険の対象にはなりませんので、会社から従業員へ最低限の教育は必要になります。
労災指定医療機関で業務上のケガや病気が原因で受けた診療、治療、療養の費用については、労災保険法で定められた範囲の「療養補償給付」という名称で現物給付(医療行為)を、自己負担金を支払うことなく受けることができます。
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労災保険で受診に至るパターン例
上記のようなルールを知っていても、実際の発生現場で活かすためにはふだんからのシミュレーションが欠かせません。そこで以下、労災保険で医療機関に受診するパターンの例をみてみましょう。
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上記はあくまで一例です。なお、薬局の場合も⑦の書類は必要です。
労災書式の有効期限など
上記の労災様式5号「療養補償給付たる療養の給付請求書」は一度提出すれば、その医療機関でその内容で継続受診する場合、追加提出の必要はありません。その代わり、医療機関が変更になった場合は、様式6号「療養補償給付たる療養の給付を受ける指定病院等(変更)届」を所轄労働基準監督署宛に提出することが必要です。また、緊急時の場合は労災指定医療機関以外で受診し、後から費用を請求する場合もあります(そのようなイレギュラーなケースについては、回を改めて解説します)。
まとめ
労災保険は会社の従業員にとってなくてはならない保険制度です。しかし、それを有効に利用するために会社の加入はもとより、制度の仕組みに関する教育や指導、そして書式の整備対応が必要不可欠になります。従業員さんのためにも会社担当者は必要な体制整備と運用を心掛けてください。
今回は労災保険の基本的な事項を解説しましたが、次回以降ではさらに詳しく解説していく予定です。
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特定社会保険労務士小野 純
一部上場企業勤務後、2003年社会保険労務士小野事務所開業。2017年法人化。企業顧問として「就業規則」「労働・社会保険手続」「各種労務相談」「管理者研修」等の業務に従事。上記実務の他、全国の商工会議所、法人会、各企業の労務管理研修等の講演活動を展開中。
主な著作:「従業員100人以下の事業者のためのマイナンバー対応(共著)」(税務研究会刊)、「社会保険マニュアルQ&A」(税研情報センター刊)、「判例にみる労務トラブル解決のための方法・文例(共著)」(中央経済社刊)、月刊誌「税務QA」(税務研究会)にて定期連載中。