【労災保険の仕組み(2)】
~社会保険基礎シリーズ<1>~
働く人が知っていると得をする社会保険の知識 第7回
2023年7月26日
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このコラムでは働く皆さんが知っていると得をする社会保険、労働保険、あるいは周辺の労働法関係のテーマを取り扱い、「イザ」というときにみなさんに使っていただくことを狙いとしています。したがって、「読んで終わり」ではなく「思い出して使う」または「周囲の人へのアドバイス」に役立てていただければ幸いです。
基礎シリーズ第2回目となる今回は【労災保険の仕組み(2)】として労災保険についてさらに詳しくみていきます。
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【労災保険の仕組み(2)】
~社会保険基礎シリーズ<1>~
前回の主な内容
労働者災害補償保険(以下、労災保険といいます)の第1回目では、労災保険の適用を受ける場合には①(原則として)労災指定病院で受診、②病院の窓口で労災適用である旨の申出、③労災申請用紙を持参するまでは原則立替払い、であることをお伝えしました。
そして一番使用頻度が高いであろう、業務上に被災した際に病院等に提出する【労災様式5号「療養補償給付たる療養の給付請求書」(以下、5号様式)】について説明しました。
様式5号(厚生労働省ホームページ)
https://www.mhlw.go.jp/content/11200000/001094540.pdf
休みが4日以上発生した場合
通院での治療だけであれば、一般的には上記5号様式だけで大丈夫と思われます。しかし、被災したケガや病気の影響で労務不能の状態となり、4日以上の休業が続いた場合は、【労災様式8号「休業補償たる休業給付請求書」(以下8号様式といいます)】の提出が必要になります。これは、労務不能で休業し、給与が支払われなくなった際の生活保障として、休業4日目から1日当たり約60%(特別支給20%を加えると約80%)の額が申請により支給される仕組みです(給与が支払われた場合は全額または一部が支給されません)。申請にあたってはこの様式に、休業時の金額を決定するため、下記のように直近3か月間の賃金額等を記入し、平均賃金額を算出する必要があります。
<平均賃金額欄のイメージ(B欄省略)>
様式8号(厚生労働省ホームページ)
https://www.mhlw.go.jp/content/11200000/001095739.pdf
また、休業補償の対象となるまでの最初の3日間の休業については、事業主が平均賃金の6割以上を負担する必要があります。
忘れてはならない「死傷病報告書」
この8号様式は5号様式とは異なり、病院経由ではなく直接、所轄労働基準監督署に提出し、窓口で受理してもらう必要があります。ここで重要なのがこの8号様式提出前に「死傷病報告書」の提出をしているか、ということです。実は、労災(業務上災害)による休業が4日以上の場合は、「死傷病報告書」(様式23号)を遅滞なく、所轄労働基準監督署に提出しておくことが義務付けられており、様式8号提出の際、この23号の事前提出又は同時提出がなされないと8号が受理されなくなってしまうのです。したがって、休業が4日以上となった場合は、8号様式を提出する前、または遅くとも提出時には23号様式も記入して提出の準備をしておいてください。
通勤時の労災は様式が異なる!
同じ労災でも業務によって被災した場合と通勤途中で被災した場合では、提出する労災保険の様式が異なります。業務上で被災した場合の病院の治療費に充てるのは様式5号でしたが、通勤での災害の場合は様式16号の3を用います。同様に休業4日目以降の扱いも様式8号ではなく様式16号の6となります。なお、休業4日以上となった場合でも、最初の3日間について会社が平均賃金6割を負担する義務はなく、前出の様式23号「死傷病報告書」の提出は必要ありません。
まとめ
使用する様式についてまとめると下記のようになります。
<早見表> |
業務での災害 | 通勤での災害 | |
治療費・薬剤等 | 様式5号 | 様式16号の3 |
休業4日以上 | 様式8号 | 様式16号の6 |
死傷病報告書(休業4日以上) | 必要 | 不要 |
休業4日以上の様式8号(通勤災害は16号の6)の作成には直近3か月の賃金データが必要になります。また、業務災害の場合には様式23号「死傷病報告書」の提出が必要になりますので、会社担当者はデータ収集をし、被災した本人及び関係者にヒアリングした上で作成するように心掛けてください。
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特定社会保険労務士小野 純
一部上場企業勤務後、2003年社会保険労務士小野事務所開業。2017年法人化。企業顧問として「就業規則」「労働・社会保険手続」「各種労務相談」「管理者研修」等の業務に従事。上記実務の他、全国の商工会議所、法人会、各企業の労務管理研修等の講演活動を展開中。
主な著作:「従業員100人以下の事業者のためのマイナンバー対応(共著)」(税務研究会刊)、「社会保険マニュアルQ&A」(税研情報センター刊)、「判例にみる労務トラブル解決のための方法・文例(共著)」(中央経済社刊)、月刊誌「税務QA」(税務研究会)にて定期連載中。