【労働条件明示ルールの変更!】
働く人が知っていると得をする社会保険の知識 第8回

2023年8月25日

 

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このコラムでは働く皆さんが知っていると得をする社会保険、労働保険、あるいは周辺の労働法関係のテーマを取り扱い、「イザ」というときにみなさんに使っていただくことを狙いとしています。したがって、「読んで終わり」ではなく「思い出して使う」または「周囲の人へのアドバイス」に役立てていただければ幸いです。

今回は、令和6年4月1日からの「労働条件明示ルールの変更」について取り上げます。地味ながらも「早めに対応しておかないと後になって困る」という内容ですので、会社担当者の方も労働者の方もしっかり確認しておきましょう。

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【労働条件明示ルールの変更!】

労働条件の明示

労働基準法では会社が労働者と労働契約を締結する際、トラブルとならないように労働者に対し「賃金、労働時間その他の労働条件を明示しなければならない」と定められています。具体的には労働基準法施行規則により以下の内容が示されています。

書面での
明示事項
労働契約期間、就業場所・従事する業務の内容、始業・終業の時刻、残業の有無、休憩・休日・休暇、賃金の決定・計算・支払の方法、締日・支払日、退職に関する事項(解雇含む)
口頭でもよい
明示事項
昇給、退職手当、臨時の賃金・賞与、労働者が負担するべき食費や仕事で使う作業品、安全・衛生、職業訓練、災害補償、表彰・制裁、休職

 

4つの変更ポイント

今回、「労働基準法施行規則及び労働時間等の設定の改善に関する特別措置法施行規則の一部を改正する省令」が公布されました。これにより「労働条件通知書の記載内容」に以下の4つの変更を加味する必要が発生します。

具体的には(1)就業場所・業務の変更の範囲、(2)【有期契約労働者に対する】更新上限の明示、(3)【有期契約労働者に対する】無期転換申込機会の明示、(4)【有期契約労働者に対する】無期転換後の労働条件の明示、の4つです。大別すると「すべての労働者に対する就業場所・業務の変更の範囲」と「有期労働契約者の更新回数上限と無期雇用転換」の2グループに分けることができます(参考資料 厚生労働省ホームページ https://www.mhlw.go.jp/content/11200000/001080722.pdf)。

以下、個別に確認していきましょう。

 

(1)【すべての労働者に対する】就業場所・業務の変更の範囲

従来から労働契約を締結する際には「就業場所・従事する業務の内容」は明示すべき事項に定められていました。しかし、これはあくまで入社時の話であって、その後の内容までは考慮されていませんでした。これが今回の改正により、配置転換等によって勤務地の変更や業務内容の変更が想定される場合には、最初からその範囲についても記載して明示しておくことが必要になりました。

< (1)記載例 >*赤字が今回の改正点

就業の場所 (雇入れ直後)      (変更の範囲)
・本社           ・県内当社営業所
従事すべき
業務の内容
(雇入れ直後)      (変更の範囲)
・一般事務職        ・営業事務もしくは営業職

 

(2)【有期契約労働者に対する】更新上限の明示

契約期間に定めのある有期契約労働者に対し、最初の契約締結時と更新時に更新上限(通算契約期間または更新回数の上限)の有無と内容の明示が必要になります。これまでは「契約期間」と「更新の有無」そして「更新有の場合は更新する際の条件」の明示が必要でしたが、これに「更新する回数の上限、または、通算期間の上限」の明示も必要になります。

< (2)記載例 >*赤字が今回の改正点

なお、下記の場合に会社は、更新上限を新たに設ける、または短縮する理由をあらかじめ労働者に説明しなければなりません。

・最初の労働契約を締結した後に、「更新上限(回数や年限)」を新たに設ける場合

・最初の労働契約を締結した際に設けていた「更新上限(回数や年限)」を短縮する場合

 

(3)【有期契約労働者に対する】無期転換申込機会の明示

無期転換を申し込む権利が発生する都度、無期転換を申し込むことができる旨(無期転換申込権)の明示が必要になります。

 

(4)【有期契約労働者に対する】無期転換後の労働条件の明示

上記(3)の際の「転換後の労働条件の明示」が必要になります。

< (3)、(4)記載例 >*赤字が今回の改正点

【通算契約期間が5年を超える有期雇用契約の締結の場合】

貴殿は今回の契約により「無期労働契約申込み」の権利を取得します。本契約期間中に無期転換の申出をした場合、本契約末日の翌日(令和○年〇月〇日)より無期契約労働者に転換となります。
この無期転換後の労働条件の有無⇒ 変更なし

 

注意すべきポイント

今回の改正の注意ポイントですが、まず、未来の状態まで想定しての明示が必要だという点です。働く場所や労働条件については、これまで採用時を想定して明示していました。これが改正後は遠い将来の配置転換の内容まで必要になりますので、「どこまで変更する可能性があるのか」をあらかじめ決めておかなければ明示はできないでしょう。
次に、更新上限の回数または年限を明示するという点です。上限を設けなければ、原則として無期転換権は発生しますので「自社の方針」を決めておくことが必要です。最後に、更新後の条件は今までのように「更新時に考える」という手法は使えませんので、この点についても自社方針をあらかじめ決めておかなければなりません。

 

まとめ

今回の改正は、結果として労働条件通知書等の変更対応が必要になるということです。しかも、雇入れ時に将来の配置転換や無期転換権の発生も想定して決めなければいけませんので、「様式だけ変えておけばいい」とはなりません。「施行は来年だから…」と油断せず、早めにシミュレーションをしておくと良いでしょう。

また、令和5年6月28日に「職業安定法施行規則の一部を改正する省令」が公布、令和6年4月1日より施行ですが、こちらでも今回の労働基準法施行規則と同様に、 有期労働契約を更新する場合の基準に関する事項(当該更新回数の上限等を含む。)並びに就業の場所及び従事すべき業務の変更の範囲が追加されています。興味のある方は厚生労働省ホームページ(https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/koyou/haken-shoukai/r0604anteisokukaisei1.html)をご確認ください。

 

 

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特定社会保険労務士小野 純

一部上場企業勤務後、2003年社会保険労務士小野事務所開業。2017年法人化。企業顧問として「就業規則」「労働・社会保険手続」「各種労務相談」「管理者研修」等の業務に従事。上記実務の他、全国の商工会議所、法人会、各企業の労務管理研修等の講演活動を展開中。
主な著作:「従業員100人以下の事業者のためのマイナンバー対応(共著)」(税務研究会刊)、「社会保険マニュアルQ&A」(税研情報センター刊)、「判例にみる労務トラブル解決のための方法・文例(共著)」(中央経済社刊)、月刊誌「税務QA」(税務研究会)にて定期連載中。

» ホームページ 社会保険労務士法人ソリューション

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