【ストライキの基礎知識と賃金の扱い】
働く人が知っていると得をする社会保険の知識 第9回

2023年9月28日

 

ZEIKEN PRESSコラムの更新情報を知りたかったら…@zeiken_infoをフォロー

 

○●——————————

このコラムでは働く皆さんが知っていると得をする社会保険、労働保険、あるいは周辺の労働法関係のテーマを取り扱い、「イザ」というときにみなさんに使っていただくことを狙いとしています。したがって、「読んで終わり」ではなく「思い出して使う」または「周囲の人へのアドバイス」に役立てていただければ幸いです。

さて、先日、某百貨店で「ストライキ」が行われました。大手百貨店としては実に61年ぶりのことだそうです。賃金交渉などで頻繁に行われていた時代もありましたが、以前に比べると件数も減少しているだけに、「言葉として知ってはいるが何のことかわからない」「詳しい内容までは理解していない」という方も多いのではないでしょうか。

そこで今回はいつもと内容を少し変えて「ストライキ」について取り上げたいと思います。

——————————●○

 

【ストライキの基礎知識と賃金の扱い】

ストライキとは

ストライキ(以下、「スト」といいます)とは、労働組合が行う争議行為の一つであり、難しい言葉ですが日本語では同盟罷業と言います(労働関係調整法第7条)。また、「団体行動権」(日本国憲法28条)として、労働者に認められた権利の一つでもあります。

具体的には労働組合等が主導し、労働者が一斉に仕事をせず休業することですが、その主な目的は労働者側が自分達の要求を会社に認めさせることです。ストによって労働者が一斉に休んだ場合、企業は会社活動がストップして大打撃を受けることになるため、労働者側は「ストライキの取り止め」を条件に会社との交渉材料として使うことができるからです。よく「来週〇曜日からストライキ」などと事前に発表するのは、自分たちの要求が認められた場合はストの取り止めを念頭に置いているからです。

なお、ストに参加しても、それが「正当な」ものである限り、威力業務妨害に問われたり、使用者から損害賠償を請求されたり、懲戒処分を受けたりすることはありません(労働組合法1条2項、8条、7条1号)。ストの正当性については、明文化されていませんが、その主体や目的、手続き等について社会通念に照らして判断されると考えられます。

 

ストライキの例外

わが国では「国家公務員法」および「地方公務員法」によって公務員のストは禁止されています。また、工事現場などの安全保持に影響を及ぼす可能性のある業務などもストは禁止されています。

その他、禁止まではされていませんが、公益事業として指定されている鉄道など運輸業、郵便など電気通信業、水道・電気・ガスの供給事業、病院などの医療機関等は、少なくとも10日前までに事前の届出が必要とされるなど一定の制限があります(労働関係調整法8条、37条)。

なお、ストは「団体行動権」に基づいていますので、労働者が一人だけで「ストライキだ」といって休んだとしても、一般的に法的に保護される「ストライキ」には該当しません。

 

ストライキ中の賃金

ストが事前に回避されず、実際に行われてしまった場合、その期間中企業は該当労働者に対し、給与を支払う義務はありません。ただし、先に説明した通り、法的に認められた行為ですのでストに参加したからといって、評価を下げる等の不利益な取扱いを行うことは、不当労働行為として禁止されています。

ストの期間中、給与が出ないことに対して、主導した労働組合から補填を目的として労働者に対して金銭が支給されるケースもありますが、その対応は組合によってまちまちとなっています。

また、ストの対象となっている労働組合員以外の労働者に対し、会社が「業務の運営が困難」などとして、休業を命じた場合、会社は休業手当を支給する必要があります。企業の判断で業務に従事できなくなったからです。

難しいのは企業が休業を命じたわけではないが、ストの影響で組合員以外の労働者が結果的に業務に従事することができなかった場合です。この場合、企業は休業手当を「支給する必要がある」とする説と「支給する必要はない」とする説の両方があります。後者の根拠は業務ができなかったのは「使用者の責めに帰すべき事由ではない(組合によるストが原因)」という点です。

いずれにせよストは、企業にとって売上や信用に大きなマイナス、従業員にとっては給与の不支給、と双方にダメージを被る行為であるということがみえてくると思います。

 

それでもストライキを行う理由

上記のように労使双方に痛みの出るストですが、それでも労働者側が戦うに値する事案が発生すれば、今後もストは起こりうるでしょう。冒頭の某百貨店のストは、会社側が他国の投資ファンドに売却する方針を決め、最終的な調整を進めているという背景がありました。売却ともなれば、今後、組合員である労働者の雇用が脅かされる可能性がありますので、労働組合としては組合員を守るために「戦うしかない」ということだったと思われます。

 

ロックアウトとは

この「ストライキ」と似て非なるものとして「ロックアウト」があります。これは、企業側から労働者の「労務の提供を拒否」する行為です。一般的にロックアウトは、会社自体をバリケードなどで守り、労働者を会社に入れなくすることで実施されます。この行為は企業側に認められた権利ですが、その前提条件として「労働者側の争議行為等で、会社側が著しく不利な状況に陥っている」「労使の均衡回復のための対抗的防衛手段である」場合などに限られています。

興味深いのはロックアウトが正当な労働争議であると認められる場合、ロックアウト中は企業に賃金の支払い義務は発生しないということです。これは、労働者側が企業側のロックアウト宣言を無視した場合も同様です。

 

まとめ

今回はストライキ中の賃金の扱いを中心に基本的な知識を扱いました。「ストライキ」という言葉は知っていていても、その前提条件や目的、結果等についてご存じない方もいるかと思いますので、これを機会に知識補充をしていただきたいと思います。

 

 

ZEIKEN PRESSコラムの更新情報を知りたかったら…@zeiken_infoをフォロー

 

特定社会保険労務士小野 純

一部上場企業勤務後、2003年社会保険労務士小野事務所開業。2017年法人化。企業顧問として「就業規則」「労働・社会保険手続」「各種労務相談」「管理者研修」等の業務に従事。上記実務の他、全国の商工会議所、法人会、各企業の労務管理研修等の講演活動を展開中。
主な著作:「従業員100人以下の事業者のためのマイナンバー対応(共著)」(税務研究会刊)、「社会保険マニュアルQ&A」(税研情報センター刊)、「判例にみる労務トラブル解決のための方法・文例(共著)」(中央経済社刊)、月刊誌「税務QA」(税務研究会)にて定期連載中。

» ホームページ 社会保険労務士法人ソリューション

講師画像

新着プレスリリース

プレスリリース一覧へ

注目タグ