【106万円の壁を乗り切る!106万円の壁と政府の支援策】
働く人が知っていると得をする社会保険の知識 第10回
2023年10月26日
ZEIKEN PRESSコラムの更新情報を知りたかったら…@zeiken_infoをフォロー
○●——————————
このコラムでは働く皆さんが知っていると得をする社会保険、労働保険、あるいは周辺の労働法関係のテーマを取り扱い、「イザ」というときにみなさんに使っていただくことを狙いとしています。したがって、「読んで終わり」ではなく「思い出して使う」または「周囲の人へのアドバイス」に役立てていただければ幸いです。
さて、最近「106万円の壁について教えてください!」という質問が増えてきました。これまでも「103万円の壁」とか「130万円の壁」などいくつかの壁がありましたが、やはりこの手の保険料や税金に関連する内容にはみなさん関心が高いのですね。そこで今回は「106万円の壁」とこれに対する政府の「支援パッケージ」について取り上げたいと思います。
——————————●○
【106万円の壁を乗り切る!106万円の壁と政府の支援策】
103万円の壁と130万円の壁
106万円の壁について説明する前に、「103万円の壁」と「130万円の壁」について確認しておきましょう。まず、103万円の壁とは、給与によって得た1年間の収入が103万円までであれば、この方には所得税はかからないというルールのことです。そしてこの方が配偶者の扶養に入っている場合、扶養している配偶者は配偶者控除が受けられますので、その分の所得税も安くなります(配偶者の給与所得により効果金額は異なる)。
ですから、主婦であるパートの方などはこの金額にこだわる方が多いのです(この103万円には定期代などの交通費などは含まれません)。
次に「130万円の壁」とは社会保険の扶養の範囲内のことで、この金額内であれば社会保険は家族の扶養に入れますが130万円を超えれば自分自身で社会保険に加入しなければなりません。自分自身で社会保険に加入するということは、自分自身で健康保険と年金保険料を負担することになりますので、手取り額が大幅に減少します(この場合の130万円には定期代などの交通費も含まれます)。このように103万円、130万円の壁を超えた場合は負担増となるため、わざと「扶養内でしか働かない」という人が存在するのです。
106万円の壁
今回のテーマである「106万円の壁」とは、社会保険の適用拡大により、この壁を超えると新たに社会保険の加入対象となってしまうことです。2022年10月からは適用拡大により、以下の要件に該当する方は社会保険の被保険者になることが義務付けられています。
|
そして、2024年10月からは「常時101人以上」という要件が「常時51人以上」に拡大されることが決定しています。これらの会社で勤務している場合、1週間20時間以上勤務し、1か月の給与額が8.8万円(8.8万円×12ヶ月=年間105.6万円)以上になると、勤務する会社の社会保険に自分自身で加入しなければなりません。これが106万円の壁です。
これまで130万円の壁を超えないように働き方をセーブしてきた方でも、社会保険の適用拡大措置で対象となった場合、自分の意思に関係なく社会保険に加入し、保険料を納めなければなりません。
政府の支援パッケージ
政府はパート等の労働者がこの「106万円の壁」を意識せず働くことを支援するため、以下の「支援パッケージ」を設けることにしました。
【社会保険促進手当】
パート労働者が適用拡大によって新たに社会保険の対象となった際、会社が社会保険料の負担額を軽減するために新たに「社会保険促進手当」等を支給した場合、新たに発生する本人負担分の保険料相当額を上限として、保険料算定の基礎となる標準報酬月額・標準賞与額の算定の「基礎としない」という扱いを行う。
要件 ① 標準報酬月額10.4万円以下 ② 報酬から除外する手当の上限額は新たに発生した本人負担分の保険料相当額まで ③ 最大2年 出典 厚労省資料 https://www.mhlw.go.jp/content/12500000/001150703.pdf |
【キャリアアップ助成金】
新たに「社会保険適用時処遇改善コース」を新設(2023年10月1日以降分より適用)。
<手当等支給メニュー(手当等により収入を増加させる場合)>
要件 | 1人あたり助成額 |
① 賃金の15%以上の助成額を労働者に追加支給*1 | 20万円(大企業は3/4の額) |
② 賃金の15%以上分を労働者に追加支給*1するとともに、3年目以降、下記③の取組が行われること | 20万円 〃 |
③ 賃金の18%以上を増額*2されていること | 10万円(大企業は3/4の額) |
*1…一時的な支給も可
*2…基本給の他、適用時の一時的な手当を恒常化する場合も含む
<労働時間延長メニュー(労働時間延長を組み合わせる場合)>
週所定労働時間の延長 | 賃金(基本給)の増額 | 1人当たり助成額 | |
① | 4時間以上 | ー | 30万円 (大企業は3/4の額) |
② | 3時間以上4時間未満 | 5%以上 | |
③ | 2時間以上3時間未満 | 10%以上 | |
④ | 1時間以上2時間未満 | 15%以上 |
注)取組みから6か月後に支給申請 出典 上記厚労省資料内
・キャリアアップ助成金「社会保険適用時処遇改善コース」 厚労省ホームページ
まとめ
106万円の壁は、政府の支援パッケージを会社がうまく活用できるかがカギとなるでしょう。最新情報を確認しながら検討を進めてください。
*キャリアアップ助成金の手当等支給メニューの表の数字に一部誤りがあったため修正しました(2023.11.17)。
ZEIKEN PRESSコラムの更新情報を知りたかったら…@zeiken_infoをフォロー
特定社会保険労務士小野 純
一部上場企業勤務後、2003年社会保険労務士小野事務所開業。2017年法人化。企業顧問として「就業規則」「労働・社会保険手続」「各種労務相談」「管理者研修」等の業務に従事。上記実務の他、全国の商工会議所、法人会、各企業の労務管理研修等の講演活動を展開中。
主な著作:「従業員100人以下の事業者のためのマイナンバー対応(共著)」(税務研究会刊)、「社会保険マニュアルQ&A」(税研情報センター刊)、「判例にみる労務トラブル解決のための方法・文例(共著)」(中央経済社刊)、月刊誌「税務QA」(税務研究会)にて定期連載中。