【これは労災になる?ならない?】~質問回答シリーズ①
働く人が知っていると得をする社会保険の知識 第11回

2023年11月28日

 

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このコラムでは働く皆さんが知っていると得をする社会保険、労働保険、あるいは周辺の労働法関係のテーマを取り扱い、「イザ」というときにみなさんに使っていただくことを狙いとしています。したがって、「読んで終わり」ではなく「思い出して使う」または「周囲の人へのアドバイス」に役立てていただければ幸いです。

これまでトピック的なテーマを取り上げた回と、「社会保険基礎シリーズ」として社会保険に関して「これは知っておかなければならない」とする内容の回の2本立てできました。おかげさまで多くの方に読んでいただけているようでありがとうございます。いくつか質問も届いていますので、今回はQ&A形式でいただいた質問に回答していきたいと思います(守秘義務の関係で一部変更しておりますがそこはご容赦ください)。

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【これは労災になる?ならない?】~質問回答シリーズ①

労災認定の可否

今回は「労働者災害補償保険(以下、労災保険)の認定の可否についてとりあげます。

労災保険は会社等で雇用される従業員の方が、業務等を原因とする「業務災害」と通勤途中に被災した際の「通勤災害」により、ケガや病気になった際に必要な治療や費用が支給される保険制度ですが、従業員や会社からの申請だけで支給されるわけではありません。申請書を所轄の労働基準監督署に提出し、労働基準監督署長が労災による原因であると認められてはじめて支給されます。そのため、「これは労災になる?ならない?」といった疑問や質問が社労士にふだんから問い合わせされる部分です。以下に回答していきたいと思います。

 

質問1 屋内での転倒
 会社内でのケガなら会議室への移動中に転んで骨折した、というような場合も対象になるのですか?

 労災として認定される可能性はありますが、その時の業務との因果関係の程度によって異なってくると思われます。労災は上記のように「業務上」で発生したのか「通勤途中」で発生したのかによって判断基準が変わります。今回は会社内での移動中ということですので判断基準は「業務災害」に該当するか、否か、ということになります。
業務災害としての労災認定は、被災した原因が「業務をしたことが原因(業務起因性)」なのか「業務の途中に発生(業務遂行性)」したのか、の2つの状況によって判断されます。今回は業務時間中のようですが、単に事務室から会議室に移動する途中でつまずいて転んだだけであれば、業務遂行性も業務起因性もありませんので業務災害の認定は困難と思われます。ただし、移動する際に業務に使用する物を持っていた場合には業務遂行性が発生しますので、労災として認められる可能性があります。また、移動中の廊下に何らかの原因で穴が開いており、そこに足を取られて転倒した場合は、「施設上の瑕疵」として会社の責任が発生する場合があり、この場合も労災(業務災害)として認められる可能性があります(会社は施設を安全に保つ義務があるため)。上記のように状況により判断が分かれますので、実際はもっと詳細な情報を収集してから判断すべきと思われます。

 

質問2 昼休み時間の食事中
 昼休みに外に食事にでたときのケガなどはどうなりますか?

 労災として認められる可能性は低いと思われます。昼休みの休憩時間中は原則として業務中ではありません(業務遂行性なし)。また、食事をするという行為も業務とは関係がありません(業務起因性なし)ので、労災としての要素が見つかりません。

ただし、この場合でもお客様と一緒に食事をするために近所のレストランに移動する途中だったというような場合には「業務遂行性」が発生しますので、労災として判断される可能性が高まります。

 

質問3 労災として認められる上限は?
 労災保険として認められる範囲に上限などはあるのでしょうか?例えば通勤途中で転倒して歯が折れた場合、保険適用の範囲内のみ補償されるのでしょうか?

 労災保険として認められるには当然に範囲があります。その範囲とは「あくまで労災を理由としてケガや病気になった部分」ということになります。ご質問は、通勤途中での転倒ですので「通勤災害」ということになりますが、治療として認められるのは「通勤途中で転倒して折れた歯のみ」になります。歯が折れた場合には通常の通勤災害の申請用紙だけではなく、「歯のどの部分がどのようにケガをし、どのように治療したのか」を記載した医師の記載した専門用紙の添付が必要になります。

ちなみに本件とは別件で、以前、このように通勤途中の転倒で歯を欠損された方が、ついでに虫歯の治療をしてその分も申請しようとしたことがあり、当然に監督官に見抜かれて連絡が来たという事例がありました。

 

質問4 労災として認められないような事案とは
 労災として認められない、または認められにくい事案としてはどのようなものがありますでしょうか?

 労災原因が業務であると明確に特定できないもの、または、アルコールが入っているような場合、です。

よくあるのが「腰痛」です。労働者本人は「業務で重いものを持ったから(労災)だ」と主張されることが多いですが、業務以外で発症した(例えば前日のスポーツで痛めた)可能性もありますし、もともと腰痛持ちだった場合もあります。監督署が労災として認めるかどうかはあくまで「今回の業務が原因である」とはっきりしている場合になりますので、時には双方の主張がぶつかることもあります。

次に、飲酒等をしていた場合、または、飲酒後にケガをしたような場合も認められないケースが多いです。飲酒という行為は通常は業務中の行為とは認められないため、アルコールが入った時点で「業務は終了した」と判断される傾向にあるためです。

また、意外と多いのが出張先で会社関係者と飲酒をし、その後一人で宿泊先に帰る途中で(原因不明で)死亡してしまったケースです。出張は自宅を出てから帰るまでが一般的には業務中とみなされますし、飲酒も業務上の交際の一環という場合もありますが、長時間の飲酒は業務遂行性が損なわれたという判断や、死亡原因が本当に飲酒なのかという因果関係の立証が困難であるため、一般的には認められにくいケースであると言えます。

 

まとめ

労災は監督署の認定がなければ支給されません。最終判断は監督署ですが、会社担当者が発生時に「認められそうな案件」なのか、「無理そうな案件」なのか、ある程度判断できることは非常に重要な要素です。

 

 

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特定社会保険労務士小野 純

一部上場企業勤務後、2003年社会保険労務士小野事務所開業。2017年法人化。企業顧問として「就業規則」「労働・社会保険手続」「各種労務相談」「管理者研修」等の業務に従事。上記実務の他、全国の商工会議所、法人会、各企業の労務管理研修等の講演活動を展開中。
主な著作:「従業員100人以下の事業者のためのマイナンバー対応(共著)」(税務研究会刊)、「社会保険マニュアルQ&A」(税研情報センター刊)、「判例にみる労務トラブル解決のための方法・文例(共著)」(中央経済社刊)、月刊誌「税務QA」(税務研究会)にて定期連載中。

» ホームページ 社会保険労務士法人ソリューション

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