【2024年問題の背景と影響】
働く人が知っていると得をする社会保険の知識 第14回
2024年2月26日
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このコラムでは働く皆さんが知っていると得をする社会保険、労働保険、あるいは周辺の労働法関係のテーマを取り扱い、「イザ」というときにみなさんに使っていただくことを狙いとしています。したがって、「読んで終わり」ではなく「思い出して使う」または「周囲の人へのアドバイス」に役立てていただければ幸いです。
さて、今回は多くの人が耳にしたことがあるであろう「2024年問題の背景と影響」問題について取り上げたいと思います。
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【2024年問題の背景と影響】
2024年問題とは何か
働き方改革による労働時間の上限規制が2019年4月(中小企業は2020年4月)から施行となりました。その際、業界的に労働力が特に不足していた「工作物の建設の事業(建設業)」「自動車運転の業務」「医業に従事する医師」等(鹿児島県及び沖縄県における砂糖製造業)には5年間の猶予措置が設けられていました。そして、その5年がいよいよ経過しつつあり、2024年4月からは上記の業種についても労働時間の上限規制が適用されることになります。
その結果として、労働者の長時間労働によって成り立っていた業種が今後より一層人手不足になり、需要に応えられなくなるのではないか、またそのことが企業の売上や利益の減少・労働者の収入の減少につながり、ますます労働力が不足するという悪循環に陥るのではないかと懸念されているのがこの2024年問題なのです。
一般的にはトラックドライバー不足のことを2024年問題と呼んでいることも多いようですが、実際にその影響を受けるのはトラックドライバーだけではありません。バスやタクシーなどの運転手、それに建設業、医師等でも同様です。
2024年問題への対応は業種ごとによって異なる
これから会社担当者や関係士業の方は2024年問題を乗り越えていかなければならないわけですが、実は時間外労働において求められるレベルが2019年(中小は2020年)の時のように業種業態に関係なく横並びで決まっているわけではありません。以下、業種ごとに注意しておくべきポイントをあげていきます。
建設業における2024年問題対応
ポイント 建設業における注意点は、「災害時における復旧及び復興の事業に従事すること」が「見込まれる」か「見込まれない」かによって、基準が異なるという点です。
【限度時間:共通】
1か月 | 1年 | ( )内は3か月を超える対象期間を定める1年単位の変形労働時間制を採用している場合の限度時間。 |
45時間 (42時間) |
360時間 (320時間) |
【特別条項で定めることが出来る時間:災害復旧・復興事業の見込みの有無で異なる】
災害時における復旧及び復興の事業に従事することが見込まれない場合 | 【災害時における復旧及び復興の事業に従事することが見込まれる場合】 | ||
1か月 | 1年 | 1か月 | 1年 |
100時間未満 | 720時間 | *適用なし | 720時間 |
・1か月100時間未満に休日労働含む ・限度時間を超えて時間外労働を延長できるのは年6回(6か月)まで ・時間外労働及び休日労働の合計は、2~6か月のいずれも平均して80時間以内 |
・限度時間を超えて時間外労働を延長できるのは年6回(6か月)まで *「時間外労働及び休日労働の合計は2~6か月平均80時間以内」の定めは適用なし |
【36協定届の書式:災害復旧・復興事業の見込みの有無で異なる】
見込まれない場合 | 特別条項なし | 様式第9号 |
特別条項あり | 様式第9号の2 | |
見込まれる場合 | 特別条項なし | 様式第9号の3の2 |
特別条項あり | 様式第9号の3の3 |
自動車運転業務における2024年問題対応
ポイント1 自動車運転業務における注意点は特別条項付き36協定の年間上限が960時間
*「1か月100時間未満に休日労働含む」、「限度時間を超えて時間外労働を延長できるのは年6回まで」、「時間外労働及び休日労働の合計は2~6か月平均80時間以内」の定めは適用なし
ポイント2 別途、運転時間や勤務間インターバルについて定めた「改善基準告示」を遵守する必要があります。
<トラックの改善基準告示見直し>
現行 | 見直し後 | |
1年の拘束時間 | 3,516時間 | 原則3,300時間 |
1か月の 〃 | 原則293時間、最大320時間 | 原則284時間、最大310時間 |
1日の休息期間 | 継続8時間 | 継続11時間を基本とし、9時間下限 |
*「バス」と「タクシー」でも上記のような改善基準がそれぞれ別に定めあり。
【36協定届の書式】
限度時間内 | 様式9号の3の4 | 限度時間外 | 様式9号の3の5 |
医業従事の医師の2024年問題対応
ポイント1 医業従事の勤務医の時間外・休日労働時間は、原則年960時間が上限(A水準)。
ポイント2 地域医療の必要からやむを得ず、所属する医師に上記を上回る時間外・休日労働を行わせる必要がある場合は、都道府県知事から指定を受ける必要があります(連携B、B、C-1、C-2水準)。
指定の種類 | 長時間労働が必要な理由 | 年の上限時間 |
(A水準) | 原則(指定取得は不要) | 960時間 |
連携B水準 | 他院と兼業する医師の労働時間を 通算すると長時間労働となるため |
通算で1,860時間 (各院では960時間) |
B水準 | 地域医療の確保のため | 1,860時間 |
C-1水準 | 臨床研修・専門研修医の研修のため | 1,860時間 |
C-2水準 | 長時間修練が必要な技能の修得のため | 1,860時間 |
【36協定届の書式】
限度時間内 | 様式9号の4 | 限度時間外 | 様式9号の5 |
まとめ
2024年問題は、対象業種以外の方々にとっても他人事ではありません。今後、宅配などの物流や交通機関の利用、そして医療機関での受診など我々の日常生活にも影響を与えることも予想されます。関係者の方は法令順守の為の改善策の検討、直接の関係がない方も今回の記事を思い出していただき、背景を思い浮かべながらご配慮いただきたいと思います。
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特定社会保険労務士小野 純
一部上場企業勤務後、2003年社会保険労務士小野事務所開業。2017年法人化。企業顧問として「就業規則」「労働・社会保険手続」「各種労務相談」「管理者研修」等の業務に従事。上記実務の他、全国の商工会議所、法人会、各企業の労務管理研修等の講演活動を展開中。
主な著作:「従業員100人以下の事業者のためのマイナンバー対応(共著)」(税務研究会刊)、「社会保険マニュアルQ&A」(税研情報センター刊)、「判例にみる労務トラブル解決のための方法・文例(共著)」(中央経済社刊)、月刊誌「税務QA」(税務研究会)にて定期連載中。