【専門業務型・企画業務型裁量労働制の改正】
働く人が知っていると得をする社会保険の知識 第15回
2024年3月26日
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このコラムでは働く皆さんが知っていると得をする社会保険、労働保険、あるいは周辺の労働法関係のテーマを取り扱い、「イザ」というときにみなさんに使っていただくことを狙いとしています。したがって、「読んで終わり」ではなく「思い出して使う」または「周囲の人へのアドバイス」に役立てていただければ幸いです。
さて、今回は令和6年4月からの「専門業務型・企画業務型裁量労働制の改正」について取り上げます。
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【専門業務型・企画業務型裁量労働制の改正】
裁量労働制とは?
業務の性質上、その遂行の方法を大幅に当該業務に従事する労働者の裁量に委ねる必要があるため、業務の遂行の手段及び時間配分の決定等に関し使用者が具体的な指示をすることが困難なもの(またはしないこととする業務等)について労使協定(または労使委員会の決議)であらかじめ定めた時間労働したものとみなす制度です。
2つの裁量労働時間制
裁量労働時間制には「専門業務型」と「企画業務型」の2つがあります。
【専門業務型】業務の遂行の手段及び時間配分の決定等に関し使用者が具体的な指示をすることが困難なものとして定められた以下の19(改正後20)の業務の中から、対象となる業務等を労使協定で定め、労働者を実際にその業務に就かせた場合、労使協定であらかじめ定めた時間労働したものとみなす制度。
1 新商品若しくは新技術の研究開発、人文科学自然科学に関する研究の業務 2 情報処理システムの分析又は設計の業務 3 新聞出版事業における記事の取材、編集の業務又は放送番組の取材・編集の業務 4 衣服、室内装飾、工業製品、広告等のデザイン業務 5 放送番組、映画等のプロデューサー・ディレクターの業務 6 コピーライターの業務 7 システムコンサルタントの業務 8 インテリアコーディネーターの業務 9 ゲーム用ソフトウェアの創作の業務 10 証券アナリストの業務 11 金融工学等の知識を用いて行う金融商品の開発の業務 12 学校教育法に規定する大学における教授研究の業務 13 公認会計士の業務 14 弁護士の業務 15 建築士(一級建築士、二級建築士及び木造建築士)の業務 16 不動産鑑定士の業務 17 弁理士の業務 18 税理士の業務 19 中小企業診断士の業務 |
【企画業務型】企画、立案、調査及び分析の業務であって、業務の性質上、これを適切に遂行するには、その遂行の方法を大幅に労働者の裁量に委ねる必要があるため、労使委員会で決議し、労働基準監督署に届出を行い、労使委員会の決議であらかじめ定めた時間労働したものとみなす制度。
専門業務型の変更点
<協定事項の追加>
「労働者本人の同意」を得なければなりません。また、労使協定で本人同意に関して以下の事項を定める必要があります。
〇労働者本人の同意を得なければならないこと 〇同意をしなかった場合に不利益な取扱いをしてはならないこと 〇同意の撤回に関する手続き |
<対象業務の追加>
これまでの19業種に以下の業種が追加されます。
・銀行又は証券会社における顧客の合併及び買収に関する調査又は分析及びこれに基づく合併及び買収に関する考案及び助言の業務(いわゆるM&Aアドバイザーの業務)
<健康・福祉確保措置の追加>
【事業場の適用労働者全員を対象とする措置】の選択項目に以下が追加
イ 終業から始業までの一定時間以上の休息時間の確保(勤務間インターバル)
ロ 深夜業(22時~5時)の回数を1箇月で一定回数以内とする
ハ 労働時間が一定時間を超えた場合の制度適用解除
【個々の適用労働者の状況に応じて講ずる措置】の選択項目に以下が追加
ニ 一定の労働時間を超える対象労働者への医師による面接指導
[働く人のメリット]
これまで専門業務型裁量労働制は「労働者の代表」が協定書によって協定を締結していればよく、労働者個人の同意は不要でした。言い換えれば個人レベルでの裁量労働の拒否は原則できませんでした。しかし、今回改正で協定事項に「本人同意」「撤回に関する手続き」「不利益取扱いの禁止」が加わりましたので、労働者個人の考えや家庭の事情等により裁量労働をしないことを選択できるようになりました。
企画業務型の変更点
<労使委員会の決議事項に以下の下線付きの部分を追加>
イ 制度の適用に関する同意の撤回の手続
ロ 対象労働者に適用される賃金・評価制度を変更する場合に、労使委員会に変更内容の説明を行うこと
ハ 労働時間の状況、健康・福祉確保措置の実施状況、苦情処理措置の実施状況、同意及び同意の撤回の労働者ごとの記録を決議の有効期間中及びその期間満了後3年間保存すること
<労使委員会の運営規程に以下を追加>
イ 対象労働者に適用される賃金・評価制度の内容についての使用者から労使委員会に対する説明に関する事項
ロ 制度の趣旨に沿った適正な運用の確保に関する事項
ハ 労使委員会の開催頻度を6か月以内ごとに1回とすること
<定期報告の緩和>
定期報告の頻度について、これまで6か月以内ごとに1回だったものが、初回は6か月以内に1回、その後1年以内ごとに1回となりました。
<健康・福祉確保措置の追加>
※専門業務型と同じ
[働く人のメリット]
「同意の撤回手続」が明記されたことによる自由度の拡大と、「労使委員会の役割が増加」したことによる対象労働者に関する「賃金・評価制度の保護」が手厚くなると思われます。
まとめ
裁量労働制は使い方を一歩間違えると「サービス残業時間の増大」や「長時間労働による身体的影響」そして「家庭時間の確保等に悪影響」となる危険性があります。
今回の改正は対象労働者にとっての「選択権の拡大」や「健康確保措置の確実な実施」に寄与する内容となっています。対象労働者の方や会社担当者の方は改正内容の理解を深め、制度の有効活用と対象労働者の健康確保に活かしていただきたいと思います。
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特定社会保険労務士小野 純
一部上場企業勤務後、2003年社会保険労務士小野事務所開業。2017年法人化。企業顧問として「就業規則」「労働・社会保険手続」「各種労務相談」「管理者研修」等の業務に従事。上記実務の他、全国の商工会議所、法人会、各企業の労務管理研修等の講演活動を展開中。
主な著作:「従業員100人以下の事業者のためのマイナンバー対応(共著)」(税務研究会刊)、「社会保険マニュアルQ&A」(税研情報センター刊)、「判例にみる労務トラブル解決のための方法・文例(共著)」(中央経済社刊)、月刊誌「税務QA」(税務研究会)にて定期連載中。