【障害者雇用率の引上げ】
働く人が知っていると得をする社会保険の知識 第16回
2024年4月25日
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このコラムでは働く皆さんが知っていると得をする社会保険、労働保険、あるいは周辺の労働法関係のテーマを取り扱い、「イザ」というときにみなさんに使っていただくことを狙いとしています。したがって、「読んで終わり」ではなく「思い出して使う」または「周囲の人へのアドバイス」に役立てていただければ幸いです。
さて、今回は令和6年4月に改正された「障害者雇用率の引上げ」について取り上げます。
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【障害者雇用率の引上げ】
障害者雇用率制度とは
我が国では障害のある人であっても、各人の能力と適性に応じた場所で働き、自立した生活を営むことができる社会の実現を目指し、障害のある人の雇用対策を推進しています。具体的には、「障害者雇用促進法」により一定数以上の従業員を雇用している企業に対し、決められた率以上で障害者を雇用することを義務付けています。この決められた率というのが「障害者雇用率」になります。
障害者雇用率の引上げ
上記の障害者雇用率が令和6年4月より引き上げられています。具体的には下記のように段階的な引上げとなっており、令和8年7月にはさらに引き上げられます。
施行 | 障害者雇用率 | 対象となる事業所の従業員数 |
令和3年4月 | 2.3% | 労働者43.5人以上 |
令和6年4月 | 2.5% | 〃 40人以上 |
令和8年7月 | 2.7% | 〃 37.5人以上 |
障害者雇用率は(障害者である労働者の数÷労働者数)で計算されます。したがって、令和6年4月以降は(障害者1人÷労働者40人)で2.5%となっています。この障害者雇用率は企業単位での適用となっていますので、事業所が複数ある場合でも、企業全体で満たしていればOKです。
算定対象となる障害者の範囲と人数のルール
障害者雇用率の算定の対象となる障害者の範囲は、身体上の障害がある者に対して、都道府県知事、指定都市市長又は中核市市長が交付する「身体障害者手帳」、知的障害と判定された者に対して、都道府県知事又は指定都市市長が交付する「療育手帳」、一定の精神障害の状態にあることを認定して都道府県知事又は指定都市市長が交付する「精神障害者保健福祉手帳」の所有者になります。
人数については週の所定労働時間が30時間以上の障害者が1人カウント、週20時間以上30時間未満(短時間労働者)は0.5人ですが、重度の身体障害者・知的障害者は1人につき2人、重度の短時間労働者の場合は0.5人のところ1人とカウントします。
(算定の特例) ・障害者雇用率の算定労働者は週20時間以上が原則ですが、令和6年4月改正で週10時間以上20時間未満の重度の「身体」「知的」「精神」障害者についても対象となっています。 ・精神障害者の場合、令和5年4月改正で週20時間以上30時間未満0.5人のところ、当面の間、1人とカウントします。 |
障害者雇用制度の算定一覧(算定の特例含む)
会社の義務と例外
上記のように雇用義務の対象となった会社は、毎年6月1日現在の障害者の雇用に関する状況を「障害者雇用状況報告書」に記載してハローワークに届出する義務があります。また、努力義務ではありますが、障害者の雇用の促進と継続を図るための「障害者雇用推進者」の選任も必要です。
また、業種によって障害者の雇用が困難な業種も現実には存在します。具体的には建設業や林業、船舶業などですが、そのような該当業種の場合は例外的に業種ごとに除外率が設定されており、本来基準よりも低い水準でよいとされています(除外率制度は平成16年に廃止されていますが、経過措置として当分の間除外率が設定されているもので、廃止の方向で段階的に除外率の引下げ・縮小が行われる見込みです)。
障害者雇用納付金制度
障害者の雇用を促進するため、障害者雇用率を下回っている会社には「障害者雇用納付金」(常時雇用労働者100人超の会社が対象で、不足1人あたり月額50,000円)の納付を、反対に上回っている会社には「障害者雇用調整金」「障害者雇用報奨金」により一定額を申請により支給することになっています。
障害者雇用納付金 | 常時雇用労働者100人超で法定雇用障害者数を下回る会社 |
障害者雇用調整金 | 〃 超える会社 |
障害者雇用報奨金 | 常時雇用する労働者100人以下で障害者を4%または6人のいずれか多い人数を超える会社 |
まとめ
今回は障害者雇用率の引上げについて取り上げました。上記のように政府は障害者との共生に協力してくれる会社には調整金や報奨金という形で配慮をしていますが、今回の法改正で、これまで以上に障害者雇用に力を入れていることがわかると思います。会社担当者の方は制度理解を深めていただき、管轄ハローワークや就労移行支援事業所等を活用しつつ、障害者の方を積極的に雇用していただきたいと思います。
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特定社会保険労務士小野 純
一部上場企業勤務後、2003年社会保険労務士小野事務所開業。2017年法人化。企業顧問として「就業規則」「労働・社会保険手続」「各種労務相談」「管理者研修」等の業務に従事。上記実務の他、全国の商工会議所、法人会、各企業の労務管理研修等の講演活動を展開中。
主な著作:「従業員100人以下の事業者のためのマイナンバー対応(共著)」(税務研究会刊)、「社会保険マニュアルQ&A」(税研情報センター刊)、「判例にみる労務トラブル解決のための方法・文例(共著)」(中央経済社刊)、月刊誌「税務QA」(税務研究会)にて定期連載中。