【残業代未払いが判明すれば“待ったナシ”労基署調査指導結果!】
働く人が知っていると得をする社会保険の知識 第20回

2024年8月23日

 

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このコラムでは働く皆さんが知っていると得をする社会保険、労働保険、あるいは周辺の労働法関係のテーマを取り扱い、「イザ」というときにみなさんに使っていただくことを狙いとしています。したがって、「読んで終わり」ではなく「思い出して使う」または「周囲の人へのアドバイス」に役立てていただければ幸いです。

さて、お盆が終わったものの酷暑が著しいところですが、先日(令和6年8月2日)厚生労働省労働基準局より【賃金不払が疑われる事業場に対する監督指導結果(令和5年)】が公表されました。今回は調査で残業代の未払いなどの労基法違反が発覚したらどうなるかがわかる内容となっています!企業経営者や事務担当の方は、ぜひご一読いただきたいと思います。

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【残業代未払いが判明すれば“待ったナシ”労基署調査指導結果!】

強制力のある労働基準監督署の調査

労働基準監督署の調査は主に「定期監督」「申告監督」「災害監督」の3つに分かれています。1つめの「定期監督」は文字通り、管轄にある事業場(会社)を定期的な監督計画に基づいて調査するもの。次の「申告監督」は、事業場の労働者から管轄の労働基準監督署に労働基準法違反等に関して申告(密告)があり、それに応じて臨時的に行うもので「臨検」とも呼ばれます。そして最後の「災害監督」とは、その事業場で発生した労働災害等につき、現場確認、現認究明、再発防止、改善指導、等の為に実施されるものです。定期監督であれば事前に訪問予告があることもありますが、それ以外の場合は予告なしで労働基準監督官が直接会社に乗り込んでくるケースも多いです。「今は多忙なので断りたい」という場合もあるかと思いますが、労働基準監督官は警察と同等の権限を持つ「司法警察官」ですので「家宅捜索」の権限を有していますしたがって、会社の意思で拒否することはできません。

 

今回の狙いはズバリ“賃金不払い”

今回の調査について厚生労働省は、“賃金不払が疑われる事業場に対する監督指導結果”とタイトルを付けていますので、単なる定期的な調査ではなく「きちんと賃金(給与)が支払われているか」を目的とした調査であったことが確認できます。ちなみに不払いとは賃金(給与)が全額払われていないということではなく、「残業時間がきちんとカウントされていない」「残業代の計算式が誤っている」等の結果として残業代の一部または全部が支払われていないものも指します。

 

令和5年に全国の労働基準監督署で取り扱った賃金不払事案の件数、対象労働者数及び金額は以下のとおり。(※1、2)

⑴ 件    数             21,349 件(前年比 818件増)

⑵ 対象労働者数                     181,903 人(同  2,260人増)

⑶ 金    額             101億9,353万 円(同 19億2,963万円減)

※1 令和5年中に解決せず、事案が翌年に繰り越しになったものも含まれます。
※2 倒産、事業主の行方不明により賃金が支払われなかったものも含まれます。

(出典)厚生労働省労働基準局監督課 賃金不払が疑われる事業場に対する監督指導結果(令和5年分)(令和6年8月2日発表資料)

全体の不払い金額は前年同期比より減少しているものの100億超となっています。

 

監督指導した結果

調査結果で興味深いのは、今回の調査の結果で労働基準監督署から賃金不払いの指導(勧告等)受けた結果、どのぐらい正しく是正されたかの数字が掲載されていることです(数字は公表資料の別紙より。不払賃金額の一部のみを支払ったものも含む)。

上記のように件数的には98%の割合で会社は労働基準監督署の指導(勧告等)に従っています。

 

なぜ9割以上が対応しているのか

労働基準監督署からの是正勧告は、あくまで「行政指導」であって「行政処分」にはあたりませんので法的拘束力は伴いません(細かくは行政指導には助言、指導、勧告、と3つの区分があります)。よって、この勧告を受けて従わなかったとしても直接的な罰則を受けるわけではないのですが、法令違反の指導に対して従わないということになり、悪質と判断されると書類送検されたり、公表されたりする危険があります。この場合の送検とは、今回の賃金不払いが刑事事件に発展し、労働基準監督官が司法警察権を発動し、検察庁に送検することを意味します(下図参照)。

上記のように略式起訴であっても「罰金の納付=前科がつく」ことになりますので、許可業や資格業等の場合は許可や資格の取消や業務停止、とかなり大きなダメージになります。また、書類送検の前に公表するケースもあり、従業員確保の面でもマイナスになりますので、このようなリスクを冒さないためにも、会社は是正勧告に従う必要があります。

 

是正の代償

上記是正に応じる代償として賃金の不払いであれば、最大で3年間、遡及しての指導となります。この金額は全対象労働者合計となればかなりの金額になります(下記例)。

例)月給30万円(月所定労働時間160時間)月20時間分支給漏れ、過去3年分是正勧告

同様の者が30名いた場合

300,000÷160h×1.25×20h×36m=¥1,687,500(1人) 30人合計…¥50,625,000

上記金額は法律違反によるものですので、原則“待ったナシ”の対応が求められます。そしてさらに労働保険料の修正申告(追加)、源泉税の修正、場合によっては算定基礎額の修正で標準報酬等級月額の変更の可能性もあります。

 

まとめ

今回の賃金不払いによる是正勧告の怖いところは、残業代の場合は最大3年分、かつ、対象者全員の可能性があり、中小企業でも金額が高額になるということです。そして、勧告無視は書類送検となり、前科がついてしまうリスクもあります。普段から適正な労務管理に努めることは言うまでもありませんが、万が一、労働基準監督署から指導を受けた場合はただちに対応するようにしましょう!

 

 

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特定社会保険労務士小野 純

一部上場企業勤務後、2003年社会保険労務士小野事務所開業。2017年法人化。企業顧問として「就業規則」「労働・社会保険手続」「各種労務相談」「管理者研修」等の業務に従事。上記実務の他、全国の商工会議所、法人会、各企業の労務管理研修等の講演活動を展開中。
主な著作:「従業員100人以下の事業者のためのマイナンバー対応(共著)」(税務研究会刊)、「社会保険マニュアルQ&A」(税研情報センター刊)、「判例にみる労務トラブル解決のための方法・文例(共著)」(中央経済社刊)、月刊誌「税務QA」(税務研究会)にて定期連載中。

» ホームページ 社会保険労務士法人ソリューション

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