長時間労働対策

最近のニュースでは頻繁に、労基署が長時間労働を理由に是正指導、企業名公表あるいは書類送検を行った旨や、政府が長時間労働対策のための立法を検討している旨の報道がなされている。

img_jitsumu_0061.jpgさかのぼる平成26年11月1日、過労死等防止対策推進法が施行されてから、政府は長時間労働等の過重労働対策に力を入れており、その後、平成27年5月18日からは、社会的に影響力の大きい企業が違法な長時間労働を繰り返しているような場合、労基署は是正指導を実施した段階で社名を公表する旨の方針を発表し、平成28年4月からは、労基署の重点監督対象が月残業100時間超から80時間超へと拡大した。

さらに同年12月より、労基署が是正指導等を行った場合の社名公表の対象基準が拡大し、これまでは月100時間超の違法な長時間残業が確認された場合または過労死、過労自殺で労災保険給付の支給が決定した事業所が3か所以上確認された場合であったところ、月80時間超または同事業所が2か所確認された場合へと拡大された。

そして、このような監督を実施する組織体制についても整備が進んでおり、平成27年4月、労働局のうち東京局および大阪局に、「過重労働撲滅特別対策班」(通称「かとく」)が新設され、平成28年4月からは「かとく」を本省に設置し、全国47の労働局に各1名、「過重労働特別監督監理官」を配置して、「かとく」の監督・捜査が全国展開することとなった。

「かとく」とは、専門機器を用いたデータ解析など、高度な技術を用いて大規模事案等を捜査する組織であり、最近では、電通に対する強制捜査を行い、捜査開始から2か月という異例の早さで書類送検を行っている。

長時間労働問題に対する労基署の調査手法としては、まず従業員のうち数人をピックアップして、タイムカードや自己申告に基づく始・終業時刻と、PCのログイン・ログオフやメールの送信時刻との乖離を調べ、乖離が著しい場合には、他の従業員も含めて調査対象が拡大されることになる。

これに対し、使用者としては意見書等を提出して、当該乖離の理由について説明し反証を試みることも可能ではあるが、訴訟手続きと同程度の時間・労力をかけて主張・立証を行うという機会は与えられていないため、訴訟よりも労働者寄りの認定がなされるおそれがある。

また、そもそも上記乖離が生じていること自体が、労働時間の適正把握義務との関係で好ましい事態とはいえないため、反証が奏功する可能性は高くなく、日頃から乖離が生じないよう、労働時間の適正把握に努めることが重要である。

電通は、書類送検当日にプレスリリースを発表しており、これによれば、以前は入退館の時刻と自己申告の始業終業時刻に乖離が生じていた場合、上長が承認することで「私事在館」として容認する運用となっていたが、先般の労災認定を受け、社内飲食やサークル活動等、明らかに業務とは異なるものは一部容認するものの、それ以外の私事在館は原則禁止とし、業務上必要な情報収集や自己啓発は業務として勤務登録する運用に変更したとのことである。

なお、仮に乖離が生じたことについて使用者としての反証を試みるのであれば、他の労働者も含め労働時間を過少申告している実態はないかといったことや、送信メールについて業務との関連性の有無・業務上の必要性の有無、ログイン・ログオフやメールの送信時刻以外の時間帯に業務を離脱していたことに関して有力な反証事由があるかといったことを十分に検討した上で、事案への対応を決定する必要があると考えられる。

もっとも、電通のプレスリリースでも述べられているように、私事在館を原則禁止し、在社時間と自己申告等の始・終業時刻との乖離が生じないように努めることが労務管理上は最も重要であることは言うまでもない。