長時間労働と慰謝料

長時間労働により身体や精神上の疾病を発症した場合には、使用者に対して安全配慮義務違反を理由とした損害賠償請求が認められることが一般的ですが、長時間労働の事実があったとしてもそのような疾病の発症までには至っていないような場合には、はたして使用者に何らかの法的責任が生じるのかということが問題になります。

この問題について、アクサ生命保険事件(東京地裁令和2年6月10日判決)では、時短勤務の適用を受けている社員に時間外労働が生じていることを上司が認識し、労基署からも是正勧告がなされていながら、使用者がこれを放置していたという事実関係を前提に、具体的な疾病の発症等はなかったものの、当該社員から使用者に対する安全配慮義務違反を理由とした10万円の慰謝料請求が認められました。

同事件では時短勤務の適用を受ける社員であったことや、労基署からの是正勧告がなされていたこと、さらに平成30年5月まで労使協定を締結していなかったことなど、使用者側に悪質な情状(いわば、違法性の高さ)があったことからこのような結論になった可能性があり、単に長時間労働の事実があるのみで同じように損害賠償請求が認められるかは不明といえます。
特に、長時間労働それ自体は労基法の定めに従っている限りは法令に違反するとはいえませんが、法律上時間外労働を命じることができない時短勤務の社員について時間外労働の実態を放置していたという点は、明確に法令に違反しているため、安全配慮義務違反を認定しやすかったといえるでしょう。

いずれにしても使用者としては、長時間労働それ自体に紛争リスクがあることを十分に理解して勤怠管理をすることが重要といえるでしょう。また、少なくとも時短勤務など法令上時間外労働を命じることができない社員に対してはその扱いを徹底するよう留意する必要があります。

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