業務の負荷により精神疾患になった者の損害賠償請求と過失相殺

 労働者は、業務の負荷により精神疾患に罹患した場合、会社に対して、不法行為に基づく損害賠償請求を行うことができます。

 

 img_jitsumu_0029_01.jpgただし、損害の発生について、労働者側に過失がある場合、または、厳密な意味では「過失」ではなくても、損害の発生について、労働者側の持病や性質等の要因が寄与していると認められる場合には、その過失割合ないし寄与度割合に応じて、損害賠償額が減額されます。これを、『過失相殺』といいます。

 

 そこで、長時間労働が原因となって過労自殺等に至った事案において、会社側が、被害者の性格、すなわち、まじめで責任感が強く負けず嫌いである、感情を表さないで対人関係において敏感である、仕事の面においては内的にも外的にも能力を超えた目標を設定する傾向がある等といった、いわゆる「うつ病親和性」と呼ばれる性格を理由とした過失相殺を主張することがあります。しかし、判例上、個人の個性の多様さとして通常想定される範囲内であるこれらの性格傾向を理由に過失相殺することはできないとされています。

 このように、長時間労働が原因となって過労自殺に至ったというケースでは、被害者の性格等の心因的要因を理由とした過失相殺は、なかなか認められない傾向にあります。

 最近においても、最高裁が、業務上の精神的負荷が原因となってうつ病になったという事案について、過失相殺の適用を認めた高裁の判断を覆し、適用を否定するという判断を示した例があります(東芝事件・最高裁平成26年3月24日判決)。

  img_jitsumu0029_02.jpg同事案では、神経科の医院への通院、その診断に係る病名、神経症に適応のある薬剤の処方等の情報を上司や産業医等に申告しなかったこと、さらには、業務を離れて治療を続けながら9年を超えてなお寛解に至らないのは、労働者個人の脆弱性によるものではないかということが、会社側から過失相殺の理由として主張されていました。

 高裁判決は、これを過失相殺の理由として認めましたが、最高裁は高裁判決を破棄し、過失相殺の適用を否定しました。

 その理由について判決は、いわゆるメンタルヘルスは自己のプライバシーに属する情報であり、人事考課等に影響し得る事柄として通常は職場において知られることなく就労を継続しようとすることが想定される性質の情報であるから、会社としては、労働者からの申告がなかったとしても、労働者の精神面の健康について十分配慮すべきであるとしています。また、個人の脆弱性という点に関しては、発症以前は何ら問題なく就労しており、その後は訴訟の負担等により心的不安を抱えていたに過ぎないから、個人の個性の多様さとして通常想定される範囲内を逸脱するような脆弱性は認められないとしました。

 会社としては、被害者の性格等の心因的要因や、健康状態の不申告を理由とした過失相殺がなかなか認められない傾向にあることに留意する必要があるでしょう。

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