高額所得者と割増賃金

割増賃金の支払方法に関しては、始めから月例給与の中に含めて定額で支払っているというケースがあります。これについては、通常の労働時間の賃金と残業代部分を区別することができなければ、何時間分の割増が支払われているのかも不明であり、適法な割増賃金の支払いとは認められないと考えられています。テックジャパン事件において最高裁判決(最判平24・3・8)も、そのような区別が可能であるか否かという判断基準に従い、定額残業代の適法性を判断しています。

img_jitsumu_0064-2.jpg一方で、この判断基準を当てはめると、結論の妥当性が疑われるケースも存在します。その例が、モルガンスタンレー・ジャパン事件(東京地判平17・10・19)です。同事件では、通常の労働時間の賃金と割増賃金を明確に区別することはできませんでしたが、労働者は極めて高額の給与を受け取っていたことから、労働者の保護に欠ける点はないとして、残業代請求は認められませんでした。同事案では、年間総額で毎年30万~80万米ドルの給与が支給されていました。


このような判断は、いわば結論の妥当性のために法律解釈の例外を認めているに等しいため、珍しいといえます。

類例はほとんどありませんでしたが、近年、勤務医に関して同趣旨の判決が出されました。医療法人社団Y事件(東京高判平27・10・7)です。

同事件では、年俸1,700万円(月額120万円)の給与を得ていた勤務医につき、通常の労働時間の賃金と割増賃金を明確に区別することはできなかったものの、「通常業務の延長としての時間外労働に係る賃金分が含められていると解しても何ら不合理ではない」として、時間外割増賃金請求は否定されました。もっとも、深夜および月60時間を超える時間外労働分の割増賃金に関しては、会社の規程上も特に定めがないため、基本給の中に含まれていたと解することはできないとして、その部分に関する割増賃金請求は認められています。

会社としては、定額残業代を採用するのであれば、時間外割増部分、月60時間を超える場合の割増も含まれるのであればその部分、深夜割増部分といった各種割増賃金の部分と、通常の労働時間の賃金部分が区別できるように制度設計する必要があります。また、仮にこの点が不十分で労働者から争われたとしても、場合によっては上記のように例外的取扱いが認められることもあるため、労働者の給与水準等を勘案して事案に対応するべきでしょう。

十分な待遇を得ているにもかかわらず、いわば法律を逆手にとって上記裁判例のように残業代請求を行ってくる例もあるため、形式的な法律解釈にとらわれず、毅然とした対応をすることが重要です。