2016/05/01 13:47
今月のキーワード ―2016年5月―
公認会計士 太田達也
■適格請求書等(インボイス)の交付不可
免税事業者は、適格請求書発行事業者の登録を受けることができず、適格請求書を取引相手に交付することができないため、平成33年4月1日以降の免税事業者からの課税仕入れについては、一義的には仕入税額控除の対象にはなりません。
現行の請求書等保存方式および区分記載請求書等保存方式(平成29年4月1日から平成33年3月31日の期間を対象)においては、免税事業者からの課税仕入れに係る仕入税額控除が認められるのに対して、この点が決定的に異なります。この点は、免税事業者からの仕入れを敬遠する誘因になり得ます。免税事業者が取引から排除される問題については、後で説明する一定の経過措置が設けられました。
交付義務の有無、免税事業者の取扱い等の比較
請求書等保存方式(現行制度) | 区分記載請求書等保存方式 (平成29.4.1~平成33.3.31) |
適格請求書等保存方式(平成33.4.1~) | |
交付義務 | なし | なし | あり |
不正交付の罰則 | なし | なし | あり |
免税事業者からの仕入 | 免税事業者も交付可 仕入税額控除可 |
免税事業者も交付可 仕入税額控除可 |
免税事業者は交付不可 仕入税額控除不可 (ただし、6年間の経過措置あり) |
■免税事業者からの仕入れに係る経過措置
平成28年度税制改正により、免税事業者からの仕入に係る控除の特例が設けられました。免税事業者からの課税仕入れについては、適格請求書等保存方式の導入後3年間は仕入税額相当額の80%、その後の3年間は仕入税額相当額の50%の控除ができるとされ、免税事業者からの仕入れが不利にならないようにする特例措置が期間を限定して導入されました。
すなわち、事業者が平成33年4月1日から平成36年3月31日までの間に行った免税事業者からの課税仕入れについては、免税事業者から交付を受けた請求書等を適格請求書等とみなして、その課税仕入れに係る支払対価の額に110分の7.8(その課税仕入れが軽減対象課税資産に係るものであるときは108分の6.24)を乗じて算出した金額に80%を乗じて算出した金額を課税仕入れに係る消費税額とみなして、仕入税額控除ができます(改正法附則52条1項)。
また、平成36年4月1日から平成39年3月31日までの間に行った免税事業者からの課税仕入れについては、免税事業者から交付を受けた請求書等を適格請求書等とみなして、その課税仕入れに係る支払対価の額に110分の7.8(その課税仕入れが軽減対象課税資産に係るものであるときは108分の6.24)を乗じて算出した金額に50%を乗じて算出した金額を課税仕入れに係る消費税額とみなして、仕入税額控除ができます(改正法附則53条1項)。
以上のとおり、トータルで適格請求書等保存方式の導入から6年間について経過措置が設けられましたが、その6年間を経過した後に、免税事業者が取引から排除されるという問題は残ります。免税事業者は、その間に課税事業者を選択するかどうかについて判断することになると考えられます。
なお、簡易課税の選択事業者が、免税事業者から仕入れを行う場合、簡易課税の選択事業者は納税額の計算においてみなし仕入率を用いて計算するため、適格請求書等(インボイス)に基づく必要性が乏しいと考えられます。適格請求書等がなくても、納税事務に支障は生じないと考えられ、簡易課税の選択事業者との取引について、免税事業者が取引から排除される可能性は低いと考えられます。
■帳簿および請求書等の記載事項に要注意
帳簿上、免税事業者からの仕入れについて、別の消費税課税区分を設けて対応することが考えられます。この場合、帳簿の保存要件との関係で、帳簿の記載事項として、次の下線の部分が追加される点に留意が必要です(改正法附則52条1項後段)。
帳簿の記載事項
請求書等の記載事項