定年後再雇用時の賃金水準

定年後再雇用時の賃金水準をめぐっては、現在最高裁に係属している長澤運輸事件が、地裁・高裁と判断が分かれ、各種報道でも取り上げられるなど社会的な注目を集めましたが、同事件で問題となっているのは、定年前後で業務内容や働き方にあまり変更がない場合に賃金水準を下げてよいか、よいとしてどの程度かというものでした。

img_jitsumu_0065.jpg定年後再雇用時の賃金水準に関しては、このほかに、定年前後で業務内容や働き方が大きく変更となる場合に、それに伴って賃金水準も大幅に変更して良いかということも問題になります。

どちらのケースも定年後再雇用時の賃金水準が問題になっているという意味では似ていますが、業務内容や働き方に大きな変更があるか否かという問題は、賃金水準の妥当性を考えるにあたって非常に大きな考慮要素となりますので、問題状況は大きく異なるといえます。業務内容や働き方に変わりがない場合に賃金水準が大きく変動すれば、同一労働同一賃金といった観点からの問題が生じるからです。一方で、業務内容や働き方が大きく変われば、それに応じて相応しい賃金水準に変更となることも一見合理的な人事処遇であるかのように思われますが、裁判例の中には、たとえ業務内容や働き方が変わったとしても、賃金水準が大幅に下がることは違法であると判示したものもあり、物議をかもしています。

そのような裁判例の一つであるトヨタ自動車ほか事件(名古屋高判平28・9・28)は、「60歳以前の業務内容と異なった業務内容を示すことが許されることはいうまでもないが、両者が全く別個の職種に属するなど性質の異なったものである場合には、もはや継続雇用の実質を欠いており、むしろ通常解雇と新規採用の複合行為というほかないから、従前の職種全般について適格性を欠くなど通常解雇を相当とする事情がない限り、そのような業務内容を提示することは許されないと解すべきである。」とし、定年前後で業務内容や働き方が大きく変わる場合は、継続雇用とは評価できず、その実態は解雇と新規採用であると結論付けています。かなり論理の飛躍があるため、今後その他の裁判所においても同種の判断が繰り返されるかは不明というほかありませんが、会社としては、紛争リスクがあることについては十分に認識する必要があるでしょう。

改正高年法の施行前の議論では、最低賃金さえクリアしていれば、再雇用後の職務はその賃金に見合った単純労働的なもので構わないなどと述べる意見もあちこちで聞かれましたが、法的な当否は措くとして、上記裁判例のように争われるという意味での紛争リスクは高いといえるでしょう。また、仮に判決で勝訴できる可能性があったとしても、判決に至る前に裁判所からは強く和解の勧告を受けることが予想されます。それでも最後まで争うという覚悟を持っているのでない限り、基本的には、定年後に突然単純労働的な職務に変更する等といった激変措置を講じることは控えた方がよいものと考えられます。